「五輪書」から学ぶ Part-19
【水之巻】太刀の道と云事

スポンサーリンク
   五輪書から】何を学ぶか?  

 『水之巻』 5. 太刀の持様の事では、具体的な刀の握り方と、刀を持つ心構えが書かれていましたが、この『太刀の道』と言うのは、その持った刀の具体的な振り方を示しています。要するに、道具の扱い方を具体的に書いてあります。

 言葉は悪いですが、「ばかとハサミは遣い様」と言うではないですか。たとえ、凡人であっても、使い方が良ければ天才になれるかも知れません。
 個人的な考えですが、『天才とは、努力する事ができる才能を持っている人』の事を言うのではないかと、中学の時に思っていました。

 勉強できる子は、勉強に対して努力と思わないで、努力できる子だと。負け惜しみかな、とも思いますが。そのかわり、運動では、努力とも思わないで一心不乱に練習していました。

【水之巻】の構成

 1. 水之巻 序           
 8. 太刀の道と云事
 9. 五つの表の次第の事
10. 表第二の次第の事
11. 表第三の次第の事
12. 表第四の次第の事
13. 表第五の次第の事
14. 有搆無搆の教の事
15. 一拍子の打の事
16. 二のこしの拍子の事
17. 無念無相の打と云事
18. 流水の打と云事
19. 縁のあたりと云事
20. 石火のあたりと云事
21. 紅葉の打と云事
22. 太刀にかはる身と云事
23. 打とあたると云事
24. 秋猴〔しゅうこう〕の身と云事
25. 漆膠〔しっこう〕の身と云事
26. たけくらべと云事
27. ねばりをかくると云事
28. 身のあたりと云事
29. 三つのうけの事
30. 面〔おもて〕をさすと云事
31. 心〔むね〕をさすと云事
32. 喝咄〔かつとつ〕と云事
33. はりうけと云事
34. 多敵の位の事
35. 打あひの利の事
36. 一つの打と云事
37. 直通〔じきづう〕の位と云事
38. 水之巻 後書
『原文』
8. 太刀の道と云事 (原文を下記のルールに従って加筆訂正あり)
 太刀の道を知といふは、つねにわが差す刀を指二つにて振るときも、道筋よく知しりては自由に振るものなり。太刀を速く振らむとするによりて、太刀の道逆ひて振り難し。太刀は振よきほどに静かに振る心なり。あるいは扇、あるいは小刀など遣ふやうに、速く振らむと思ふによつて、太刀の道違ひて振り難し。それは、小刀刻みといひて、太刀にては人の斬れざるものなり。
 太刀を打ち下げては上げよき道へ上げ、横に振りては、横に戻りよき道へ戻し、いかにも大きに肘を伸べて強く振ること、これ太刀の道なり。
 わが兵法の五つの表を遣ひ覚ゆれば、太刀の道定まりて振よきところなり。よくよく鍛錬すべし。
加筆訂正のルール
                 *仮名遣いを歴史的仮名遣いに統一
                 *漢字は現行の字体に統一
                 *宛て漢字、送り仮名、濁点、句読点を付加
                 *改行、段落、「序」「後記」を付けた
 『現代文として要約』

 8. 太刀の道ということ

 刀の剣筋を体得するというのは、刀を二本の指で振っても、振り方を知っていれば、自由に触れる。刀を速く振ろうとして、刀の振り方に逆らうと振り難い。
刀は振りやすいように、静かに振る気持ちである。扇子や小刀などを扱うように、速く振っても、刀の剣筋を違えて振り難い。それは、小刀刻みと言って、刀では人は斬れないものである。
 刀を打ち下ろしたら、上げやすい方に上げ、横に振ったら横に戻りやすい方に戻し、みるからに大きく肘を伸ばして強く振ること。これが刀を振る道理である。
 わが兵法の五つの構えを使い慣れれば、おのずと剣筋の道理が定まりて振りやすくなる。よくよく鍛錬すること。

 『私見』

 剣道・剣術を専門に稽古されている人から、部外者が、と、お叱りを受けそうですが、私が『五輪書』を読んで得た知識と、幼少期に真剣を振っていた経験から、少し知ったかぶりをさせていただきます。

 一応、竹刀も、木刀も趣味程度には振っていましたので、竹刀と真剣を振る場合の違いを感じています。ただ、真剣を振るように竹刀を振る事はできますが、竹刀を振るように真剣は振れないと感じています。

 例えば、面を打つとき、上段に振りかぶり、打ち下ろしますが、竹刀の場合は、柄の頭の部分、左手の小指側を相手の中段に向けて振り下ろしながら、切っ先を前に飛ばすように振ると思います。今は空手と同じで競技化されていますから、速く相手に当てなければなりません。今の練習方法では、右手と左手の逆の動きで、切っ先が速く動くように工夫がされているようです。

 真剣を振る場合は、武蔵のいうように、両手の薬指と小指を緩ませることはないと考えます。上段に振りかぶって、柄の頭を相手の上段に突き刺すように出し、柄の頭を垂直に振り下ろします。ここまでの動作で肘は曲がりません。この動作で、刀特有の切っ先三寸で、引いて斬る事ができると思います。速く振り下ろすよりも、強く斬る事が体感できるのではないでしょうか。

 道具は使いようですから、竹刀は竹刀、刀は刀の振り方があっても良いとは思います。
 前に、お習字の練習をしていると、書きましたが、毛筆でも、硬筆でも、その道具によって、全く扱い方が違います。硬筆でも若干ありますが、毛筆ほど点画に拘る事はありません。毛筆の点画などの筆の扱い方などは、自分の方法を見出さなければならないようです。ある程度の使い方を、動画などで見る事はできますが、百人百様で定まった筆運びはないようです。一説では、これを見つけるためには、一生稽古だという人がいるほどです。

 空手の場合は、色々な技がありますが、例えば正拳突きの場合も、基本で教える拳筋と私の拳筋とは若干の違いがあります。これを教えているのは、礒田師範だけです。その理屈は、速く動作を起こす事と、自分の最大限の破壊力を生み出す事に他なりません。

 それぞれの道具の扱い方を知って、稽古して、身に付けていく。これ以外の方法は、昔からないようですね。

 【参考文献】 
・佐藤正英(2009-2011)  『五輪書』ちくま学芸文庫.


 
スポンサーリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です