「五輪書」から学ぶ Part-44
【水之巻】多敵の位の事

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   五輪書から】何を学ぶか?  

 今回のテーマは、「多敵」すなわち、沢山の人数が相手の場合の戦い方です。
 動画は、昭和51年9月23日に大阪府立体育館で行われた、日本空手道連合会主催の全国空手道選手権大会に、少年演武として参加した模様です。
 多人数を相手に攻防の技を演武しているのは、現在日本空手道髓心会七段礒田正典師範です。 

【水之巻】の構成

 1. 水之巻 序           
34. 多敵の位の事
35. 打あひの利の事
36. 一つの打と云事
37. 直通〔じきづう〕の位と云事
38. 水之巻 後書
『原文』
34 多敵の位の事 (原文を下記のルールに従って加筆訂正あり)
 多敵の位といふは、一身にして大勢と戦ふときのことなり。
 われ刀。脇差を抜きて、左右へ広く、太刀を横に捨てて搆ゆるなり。敵は四方より懸かるとも、一方へ追ひ廻す心なり。敵懸かる位、前後を見分けて、先へ進む者に速く行き合ひ、大きに眼を付けて、敵打ち出す位を得て、右の太刀も、左の太刀も、一度に振り違へて、行く太刀にてその敵を斬り、戻る太刀にて脇に進む敵を斬る心なり。太刀を振り違へて待つこと悪し。速く両脇の位に搆へ、敵の出たるところを強く斬りこみ、追つ崩して、そのまま、また敵の出たる方へ懸かり、振り崩す心なり。
 いかにもして敵を、一重に魚つなぎに追ひなす心に仕懸けて、敵の重なると見ヘば、そのまま間を透かさず強く払ひこむべし。敵間混むところ、ひたと追ひ廻しぬれば、はかゆき難し。また、敵の出る方出る方と思ヘば、待つ心ありてはかゆき難し。敵の拍子を受けて、崩るるところを知り、勝つことなり。
 折折相手を数多寄せ、追ひこみつけて、その心を得れば、一人の敵も、十・二十の敵も心安きことなり。よく稽古して、吟味あるべきなり。
加筆訂正のルール
                 *仮名遣いを歴史的仮名遣いに統一
                 *漢字は現行の字体に統一
                 *宛て漢字、送り仮名、濁点、句読点を付加
                 *改行、段落、「序」「後記」を付けた
 『現代文として要約』

 34 多敵の位の事

多敵の位とは、一人で大勢と戦う時の事である。
 刀と脇差を抜いて、左右に広げて構える。敵は四方から懸かっても、一方に追い廻す気持ちである。敵が懸かる位置、前後を見分けて、先に進む者に追いつき、全体の動きを見定めて、敵が打ちだすのを捉えて、左右の刀を一度に交差しながら振り、振った太刀で斬り、戻る太刀で脇に入ろうとする敵を斬る気持ちである。太刀は交差した状態でいる事はいけない。速く両脇の位置に戻し、敵が出る所を強く斬り込み、追いかけて崩す。そのまま敵が出た方向にかかり、振り崩す気持ちである。
 どうにかして、敵を数珠繋ぎの状態に追い込むよう心掛けて、敵が重なると思ったら、間を置かず強く払い込むこと。敵の間が込み合ったところを追いかけても上手くいかない。また、敵が出てくるのを待つ気持ちがあっても良くない。敵の態勢を見て崩れる所を知って勝てる。
 時には、数人を相手に追い込む練習をして、要領を掴めば、一人でも多人数の敵でも相手にできようになる。よく稽古して研究すること。

 『私見』

 一生の内に、できれば、一人を相手でも戦う事があってはならないと思いますが、若気の至りで、数度、そんな状況になってしまった事がありました。

 勝ち負けについて、常に私が言っている事があります。相手に勝つという事は、その時の色々な環境、技術、体力、気持ちも含めて、相手が自分より、たまたま劣っていたか、それとも、運よく勝つ事ができただけに過ぎないと言う事です。
 世の中には途轍もなく強い人がいますし、三竦みのように相性もあります。

 ごくごく僅かな経験から、武蔵の「多敵の位」を考えた時、そんな状況に追い込まれたら、逃げる勇気を持つべきだと思います。私が経験した時のように、意地を張って、蛮勇を振るい、戦う必要などは、全くないと言っても良いと思っています。

 前にも書きましたが、自分のかけがえのない命と、引き換える事ができるのは、家族や愛すべき人のためだけだと、思っています。

 ただ、法律で許される範囲であれば、たとえ相手が、千人、万人であっても、臆する事があってはならないとも思っています。

 【参考文献】 
・佐藤正英(2009-2011)  『五輪書』ちくま学芸文庫.


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