「五輪書」から学ぶ Part-56
【火之巻】 四手をはなすと云事

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 【五輪書から】何を学ぶか?  

 にっちもさっちも、行かない時はあるものです。いわゆる手立てがない、と言う場合です。しかし、すこし距離を置いて見てみると、意外と抜け穴が見えてくるものです。

 今日は四手、すなわち四つに組んだ状態から解き放す、と言うのがテーマです。
 剣術や空手の場合は、基本的には離れて技を競い合うものです。それが、相撲のように四つに組んだ状態になると言うのは、どんな状態を言っているのでしょうか。果たして相撲の様に組んだ状態なのか、それとも、動けない状態なのか、とりあえず、動けない状態と思っておきましょう。

 仕事でも社会生活でも、煮詰まった状態というのは、よくある事です。
 ですから、会社でいいアイデアがでなくても、家に帰ってお風呂に入っている時に、「あっ、そうか」と解決策に気が付くことがあります。

 水之巻の 喝咄と云事の私見でも書きましたが、一心は良い事ですが、一心不乱になってしまっては、周りが見えません。俯瞰する余裕を持てば、良いアイデアが生まれるかも知れません。

【火之巻】の構成

1. 火之巻 序
2. 場の次第と云事
3. 三つの先と云事
4. 枕をおさゆると云事
5. 渡を越すと云事
6. 景氣を知ると云事
7. けんをふむと云事
8. くづれを知ると云事
9. 敵になると云事
10. 四手をはなすと云事
11. かげをうごかすと云事
12. 影を抑ゆると云事
13. うつらかすと云事
14. むかづかすると云事
15. おびやかすと云事    
16. まぶるゝと云事
17. かどにさはると云事
18. うろめかすと云事
19. 三つの聲と云事
20. まぎると云事
21. ひしぐと云事
22. 山海の變りと云事
23. 底をぬくと云事
24. あらたになると云事
25. 鼠頭午首と云事
26. 将卒をしると云事
27. 束をはなすと云事
28. いはをの身と云事
29. 火之巻 後書
  
『原文』
10. 四手をはなすと云事 (原文は、播磨武蔵研究会の宮本武蔵研究プロジェクト・サイト「宮本武蔵」http://www.geocities.jp/themusasi2g/gorin/g00.htmlを引用した)
四手をはなすとハ、敵も我も、同じこゝろに、はりあふ心になつては、戦はかゆかざるもの也。はりあふ心になるとおもハヾ、其まゝ心を捨て、別の利にて勝事をしる也。(1)大分の兵法にしても、四手の心にあれば、はかゆかず、人も多く損ずる事也。はやく心を捨て、敵のおもはざる利にて勝事、専也。又、一分の兵法にても、四手になるとおもハヾ、其まゝ心をかへて、敵の位を得て、各別かはりたる利を以て勝をわきまゆる事、肝要也。
能々分別すべし。(2) 
【リンク】(1)(2)は【註解】として、播磨武蔵研究会の宮本武蔵研究プロジェクト・サイト「宮本武蔵」にリンクされています。

 『現代文として要約』

 10. 四手をはなすと云事

 四手を放すと言うのは、敵も自分も、同じように張り合う気持ちになっては、上手く行かない。張り合うようになると思えば、その気持ちを止めて、別の勝つ利を考える。
 合戦においても、敵味方が同じように張り合えば、うまくいかない。敵味方とも死傷者が沢山でる。早く張り合う気持ちを止めて、敵が予想しない方法を考えて勝つ事が多い。
 又、一対一の戦いでも、同じように張り合っていると思えば、直ぐに気持ちを変えて、敵の態勢を考えて、全く違う方法で、勝ち方を見分ける事が大切である。よく判断する必要がある。

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 『私見』

 この写真の様に、鍔迫り合いをしているのも、四手の状態、すなわち相撲で言えば、四つに組んでいる状態です。相撲や柔道などは、四つに組むのも技の内で、その状態から如何にして相手を崩していけるかが、勝負の分かれ目でしょう。

 空手では、相手と互角の状態で、例えば、後の先(待の先)で相手の攻撃に対処しても、反撃がうまくいかない場合などは、直ぐに相手にこちらの戦術が見えてしまい、同じ事の繰り返しになる場合があります。また、こちらが、先の先(懸の先)で得意とする技で、攻撃を仕掛けても、うまく躱されてしまう場合で、相手も反撃にでる事が出来ない場合には、どちらも、同じやり方で攻撃を繰り返しても、埒があかない事があります。

 やはり、四手というのは、ある意味、動くに動けない煮詰まった時の事を言っているのですね。そんな時は、武蔵の言うように、別の方法を考えなければなりません。しかも、相手が予測できない方法で対処しなければ、同じ事になります。

 攻撃のパターンは、ある程度得意なものをよく練習していますので、その得意のパターンを多用しがちです。しかし、得意のパターンを、幾つも稽古していれば、引き出しが多くなります。空手で言えば、刻み突き、追い突き、前蹴りなどの連続技をパターンとして反復練習する事です。

 しかし、得意技と言われるものを稽古するとき、同じような攻撃のパターンになりがちです。それは、自分にとってやり易いからです。これでは、相手も対処しやすくなりますので、得意技を考える時に、種類の違う方法を用意しておくべきだと思っています。

 得意技は、相手の態勢をみて、効果が見込める時だけしか、出さない方法も戦略として考えられます。それぞれ色々な戦術を考えるのが戦いですから、日ごろから戦略をしっかり立てて稽古しておくべきだと思います。

 もちろん、仕事の上でも相手と競り合う事がありますが、四つに組んで勝てる見込みがない時は、違う方法で対処してみるのも、大切な方法だと思います。如何に早くその状況を把握できるかに、勝負の鍵はあると思います。

 【参考文献】 
・神子 侃(1963-1977) 『五輪書』徳間書店.
・佐藤正英(2009-2011)  『五輪書』ちくま学芸文庫.

   【参考サイト】
・播磨武蔵研究会の宮本武蔵研究プロジェクト・サイト「宮本武蔵」http://www.geocities.jp/themusasi2g/gorin/g00.html


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