サイトアイコン 髓心

論語を読んで見よう
【子張篇19-20】

スポンサーリンク

 「人の噂も七十五日」と言いいますが、一度、人の心に焼き付いたイメージを払拭するのは、並大抵の事では無いと思います。特に悪い印象を持たれた場合は、簡単に変えられるものではありません。

 イメージだけならともかく、信用などと言うものは、長い年月をかけて培ったものであっても、一瞬にして失う事があります。そしてその信用を回復するためには、信用を得た期間以上の努力が必要とされます。

 人は、自分と自分以外の人との関係で、成り立っていると言っても良いでしょう。幼い頃は、自分と関係のある人の輪は、比較的少なくてすみますが、大人になるに従って、その輪が拡大していきます。輪が大きくなればなるほど、自分に対する人の評価も、様々な様相を呈していきます。残念ながら、良い場合も悪い場合も含めて、誤解を受けたまま関係が成り立っている場合もあるでしょう。

 このブログの「五輪書」から学ぶ Part-38で、 四つの窓を紹介しました。これは「ジョハリの四つの窓」と言って、ジョセフ・ラフトとハーリー・インハムの二人が考案した理論です。
                一つ目の窓は、自分も他人も知っている自分。
                二つ目の窓は、自分は知っていても、他人は知らない自分。
                三つ目の窓は、他人は知っていても、自分は知らない自分。
                四つ目の窓は、自分も他人にも解らない自分。
 この四つの窓が、自分という事になります。この理論で言いますと、自分も知らない自分が、2つもある事になります。

 自分自身もハッキリと分からない自分を、他人に評価されて、しかも自分の人生を左右されるのですから、たまったものではありません。

 この問題について、『論語』は何を語っているのでしょう。

 まずは、『論語』を読んで見たいと思います。
●白文

『子貢曰、紂之不善也、不如是之甚也、是以君子悪居下流、天下之悪皆帰焉』。
●読み下し文
子貢しこうく、ちゅうの不善も、くの如くこれ甚しからざるなり。ここを以て君子は下流に居ることをにくむ。天下のあく皆なこれに帰すればなり
』。【子張篇19-20】

 現代文にして見ます。
 『子貢は、ちゅうの悪事も、言うほど悪くは無かった。だから君子は下流にいる事を嫌う。天下の悪事が皆そのせいにされてしまう』。
 ここで出てくる、ちゅうと言う人は、いんちゅう王であり、悪の代名詞のように言われています、現実には、世の中の評判のような悪事を働いた分けでは無いと子貢は言っています。しかし、一度そういう噂が立つと、何でも悪い原因は、紂王という事にされてしまっています。だから、君子と言われる人は、下流、すなわち噂のもとになるのを嫌うのです。と言っています。

 噂の下になるという事は、噂になるような事をしないという事です。「悪事千里を走る」と言うように、あるいは、「人の口に戸は立てられぬ」と言われるように、あっという間に噂は、尾ひれを付けて広がっていくのが現実です。一度噂になると止める事はできません。

 しかし、世の中には、悪い人もいます。「火のある所から煙」であれば、納得もできますが、「火のない所に煙を立てる」人がいる事も、世の中です。よく「められた」と聞く事がありますが、実際にそういう悪だくみをする人がいるのです。それが仕事と思っているやからがいるのです。恐ろしい世の中です。

 私は競争というものが、好きではありません。他愛もない順位を決する競争なら良いのですが、勝とうとすると、よからぬ考えを持つのも人間の性なのかも知れません。

 私が小学校の時の、運動会の歌に「勝つも負けるも時の運、正々堂々潔く、力の限り戦わん、うれしい今日の運動会」と言う歌詞がありました。この精神であれば、私も競い合う事は、正しい成長を促すと思います。

 しかし、プロスポーツだけではなく、近年のアマチュアの試合でも、勝つ事により人生を左右するほどの、名誉を受ける事になります。そうすると、先ほどの歌の歌詞のようには、行かないのが人間の欲でしょう。

 色々なスポーツを観ていても、勝つためには審判の目をうまく潜り抜けて、勝ちを得ようとする人も、時々見受けられます。ついには、ドーピングなどという手段にでてしまいます。今年の初めに話題に上った事件ですが、カヌーの選手が、相手選手に薬物を飲ませた事もありました。とてもスポーツマンとは思えない行為にも発展してしまっています。

 政治の世界では、日常茶飯事なのかも、知れませんが、なんとか、情報操作して、相手の悪い噂を流したり、勝とうとします。自分でも正しい事を言っていると思っているのでしょうが、選挙が勝たなければ意味がない、というロジック自体が、違うだろうと思います。選挙に出るためには、大義が必要です。もし大義が無ければ、選挙に出るべきではありません。そんな人には、政治家になってほしくありません。

 会社においても、出世する為には、人を陥れても良いと言う考えが、正しいと思っている人が、世の中には、本当にいるのです。出世するというのは、あくまでも、良い仕事をした、ご褒美です。良い仕事をした結果が、出世に結びつくと言う考え方を、少なくとも義務教育で徹底して、教育するべきだと思います。

 話が横道にそれてしまいましたが、そんな正直で目的を間違わない人に対して、変な噂が立つ要素があるとは思えません。

 たとえ「火のない所から煙を立てよう」とする人がいたとしても、『天知る地知る吾知る人知る』、あるいは『天網恢恢疎てんもうかいかいそにして漏らさず』と言うではありませんか。生き方に恥じるような行いはしたくありません。

【参考文献】
・呉智英(2003-2004)『現代人の論語』 株式会社文藝春秋.
・鈴木勤(1984)『グラフィック版論語』 株式会社世界文化社.
スポンサーリンク
モバイルバージョンを終了