空手道における型について【18】
抜塞大 1~19

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 文章の青字で記述したものは、現在、日本空手道髓心会で行っている方法です。しかし、これも全日本空手道連盟の指定の方法がありますので、これに従って練習しているのが実情です。これについては、記述していません。
 なお、緑字で記述したものは、原点に戻した方が合理的と思われるところです。

 昭和10年当時まだ立ち方、受け方、突き方の名称が定まっていなかったと思われる記述があります。この場合も現在の方法として、青字で書く事にします。現代文にしても意味が分かりにくい部分については、赤字で追記するようにしています。同じく、写真(『空手道教範』にある)を参照の部分については、赤字文章で分かるように追記しています。『空手道教範』に掲載の写真は著作権の関係もあると思いますので、載せていません。
〔ページを遡る煩わしさを避けるため、説明部分は、前回までと重複して記載しています。

 

「一口メモ」

 平安・鉄騎と型の順序を昭和10年発行の「空手道教範」を元に、出来れば、原点を見失わないために、このブログに記載を続けていますが、この中で、少し注意する言葉がありますので、書いておきたいと思います。
 一つは、「~せよ。」と命令文になっていますが、これは当時の風潮でしょうか。いまでは、「上から目線」と言われるかも知れません。当時の言葉として聞き流してください。
 もう一つは、型を開始してから終了するまでの時間を書いていますが、実際には、この通りではありません。それぞれの人が自分の体格やスピードを考えて所要時間を決めれば良いと思っています。
 それから、演武線を昔から工型、丁型など漢字を当てはめて言っていましたが、大体の様子を表しています。

 

抜塞大ばっさいだい-1~19

「空手道教範」では、抜塞初段となっていますが、現在の名称を記載しました。

旧称バッサイ大
全部で四二挙動約、一分間で完了する。
演武線は丁字形に属する。

(用意)のように、閉足姿勢で左掌の上に右拳を置く。左掌は右拳を掴まず軽く曲げておく。金的を護るような心持。

1.右足一歩第二線上に飛込むと直ぐに、(1)のように、右足を屈してこれに体重をかけ、左足を右足の後ろに軽く接し、同時に右拳は中段受け、左掌は右手首の横に写真のように添える。この時身体は左に向き顔は前方に向く。
『髓心会では、交差立と呼称しています。』
崎浜盛次郎先生(柔剛自然流開祖)がご存命の時に、この交差立から四方への転回方法を学びました。

2.右足そのまま、左足を第二線上後方に引きながら、上体を左へ廻して後を向き(左足前屈となる)同時に左拳中段内受け、右拳右腰にとる。

3.姿勢そのまま、右拳を左肘外より中段受けすると同時に、左拳左腰に引く。この時右肩を前に出すようにする。
(注)左手にて相手の右拳を内受けするや、直ちに右手と受け替えて我が不利(相手の左拳及び足が自由に働ける)の位置を有利(相手の左拳及び足によって攻撃され難い)の位置にかえる意味で、抜塞の特徴とすべき手の一つである。この受け替えは今後しばしば繰返される。

4.両足の位置そのまま、上体を右へ廻して第二線前方に振り返りながら、右拳を腰に、左拳(半ば曲げたまま上体と共に廻して)中段外受け。右足前屈に変わる。
(注)後方の敵を防いだ時、前方から又攻撃して来たので振り向きざま左拳で外受けする心持。

5.姿勢そのまま、右拳にて受け替えると同時に左拳を腰に引く。
(注)受け替える拳は、前に受けている手の下より肘外を通るように。腰に引く手と、受け替える手との手首が互に十字を描くような心持である。

6.左足そのまま、左足に体重を支へつつ、右足は右第一線上に移す(一旦左足に引きつける様に半円形を描く)と同時に右拳は半ば曲げたまま、上体を屈して(上体の姿勢を崩さないよう)右側下段を内より掬い受けるようにしながら、右足の極まる(前屈)と同時に右拳中段外受けをする。
(注)この時の右足の動き方は(三)の演武線に示してあるから参照せよ。
『(三)の演武線は「空手道教範」では、見当たらないので、足跡1として追加しました。』

写真では、(6)と(7)の間に、踏み込みと内受け(旧称:外受け)がありますが、これは、原点では右足を抱え込んでの踏み込みは、ありません。中国拳法を学んでいた時に、物を持ち上げる時に片足をあげて、軸になる足に全ての体重がかかるようにする方が軽く持ち上がる事を知り、この動作を入れました。ただし、これは原点に戻すべきだと考えています。なお、この方法は、早稲田大学を中心に広がった松濤館流にも見ることができます。

7.姿勢そのまま、左拳にて受け替えると同時に右拳を腰に引く。この時なるべく上体を捻って左肩を前に出すようにする。

8.足はそのまま、上体を正面(第二線前方)に向き替えると同時に右足も伸ばし、右拳を右腰に左拳を右拳の上に重ね(左拳の甲前向)、前方を見る。

9.姿勢そのまま、左手を開き(四指揃へ、掌下向)前方に伸ばす。
(注)前より敵が突込んで来るのを左手で内側より払い受けた心持。
『髓心会では、この受け方を、伸ばし手刀受と呼称しています。』

10.下体はそのまま左手を握りしめながら腰に引くと同時に右拳前方中段突をする。
(注)敵の手を掴んで引寄せながら右拳で突く心持。

11.足の位置はそのまま、(11)のように、左肩を引くようにしながら上体を左に捻じると同時に、右拳を(11)のように左へ円を描くように廻して中段内受けをする(肘を少し曲げて、手甲は下)右肩は前に出し、上体は左方を向き、左足をわずか屈する。
(注)敵が胸を攻撃してくるのを受けたのである。目は常に敵の目を注視せよ。
『この時に、左手は一旦前に出して引手とはしません。』
『この左手の引手の代わりに、左肩で捌いて引手の替わりをしていますので、右手だけで外受け(旧称:内受け)をするよう、原点に戻した方が合理的だと考えます。』

12.足の位置そのまま、右拳を腰に引くと同時に、左拳前方中段突きをする。この時両足は伸ばして、上体も正面を向く。
(注)このように受けた手を引く時は常に掴んで引寄せるという心持を忘れてはならない。
『この場合、右手は一旦開いて、相手を掴んで腰に引き寄せる意味です。』

13.足の位置そのまま、(11)と反対に、右肩を引くようにしながら上体を右に捻じると同時に、左拳を右へ円を描くように廻して(此の時肘を少し曲げ、手甲下を向く)中段内受をする。左肩を前に出し、上体は右方を向き、右足わずか屈し、顔は前向き。すべて(11)の反対になる。

14.左足そのまま、右足を第二線上に踏出す(左足後屈)と同時に、右手刀受け。左手胸前(掌を上)に。
『髓心会では、後屈中段手刀受と呼称しています。』

15.右足そのまま、左足第二線上に踏出す(右足後屈)と同時に、左手刀受け、右手胸前に。
『髓心会では、後屈中段手刀受と呼称しています。』

16.左足そのまま、右足を第二線上に前進する(左足後屈)と同時に、右手刀受け。左手胸前に。
『髓心会では、後屈中段手刀受と呼称しています。』

17.左足そのまま、右足一歩後へ戻す(右足後屈)と同時に左手刀受け、右手胸前に。即ち(16)から(15)の形に戻る訳である。

18.足の位置そのまま、右肩を前に突出すようにして左手の下から右手を前に出し、右受けをなす。右肘少し曲げ左足前屈となる。
(注)右手の動き方は写真の左端を参照せよ。
『「空手道教範」では、右膝をあげた状態で両手を外から廻している写真があります。』

19.(19′)のように右足を高く上げると直ぐに(蹴るのではない)、(写真)のように強く前方に踏込むと同時に両手を握りしめながらら胸の前に強く引きつける。但し左拳が右乳下のあたりにくるよう。
(注)(18)で敵の手を引き掴むと同時に、(19′)で足をあげて敵の寛骨上に踏込む心持。故に右足はなるべく高くあげて、手足同時に動作すべし。
『写真の(19′)が「空手道教範」の写真にある踏み込みです。この写真は「空手道教範」を模写したものです。』
『現在髓心会の他、松濤館流を名乗っている団体の多くは(19)のように下段横蹴込をしているようです。』
寛骨の位置からすると、踏み込む事は非常に難しいので、原点に戻さず、下段横蹴込をしようと考えています。ただ、原点は寛骨への踏み込みと覚えて置く必要はあります。寛骨と言うのは骨盤の前と側壁にある大きな骨ですが、踏み込む場合は、鼠径部と考えた方が分かりやすいかも知れません。簡単に言えば足の付け根の事です。

演武線ではイメージが湧きにくいと思いますので、実際の足跡をたどってみました。ここでは、黒の塗りつぶしの足形と黒枠の足形が後半になります。
 次回は、抜塞大後半を掲載します。

【参考文献】
・富名腰義珍(1930)『空手道教範』 廣文堂書店.
・富名腰義珍(1922-1994)『琉球拳法 唐手 復刻版』 緑林堂書店.
・Gichin Funakoshi translated by Tsutomu Ohshima『KARATE-Do KyoHAN』KODANSHA INTERNATIONAL.
・杉山尚次郎(1984-1989)『松濤館廿五の形』東海堂.
・中山正敏(1979)『ベスト空手6 抜塞・観空』株式会社講談社インターナショナル.
・中山正敏(1989)『ベスト空手6 抜塞・観空』株式会社ベースボールマガジン社.
・内藤武宣(1974)『精説空手道秘要』株式会社東京書店.
・金澤弘和(1981)『空手 型全集(下)』株式会社池田書店.
・笠尾恭二・須井詔康(1975)『連続写真による空手道入門』株式会社ナツメ社.

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