空手道における型について【28】
半月 1~16

 

 文章の青字で記述したものは、現在、日本空手道髓心会で行っている方法です。しかし、これも全日本空手道連盟の指定の方法がありますので、これに従って練習しているのが実情です。これについては、記述していません。
 なお、緑字で記述したものは、原点に戻した方が合理的と思われるところです。

 昭和10年当時まだ立ち方、受け方、突き方の名称が定まっていなかったと思われる記述があります。この場合も現在の方法として、青字で書く事にします。現代文にしても意味が分かりにくい部分については、赤字で追記するようにしています。同じく、写真(『空手道教範』にある)を参照の部分については、赤字文章で分かるように追記しています。『空手道教範』に掲載の写真は著作権の関係もあると思いますので、載せていません。
〔ページを遡る煩わしさを避けるため、説明部分は、前回までと重複して記載しています。

 

半月はんげつ-1~16

 半月の思い出  

 昭和57年9月23日、大阪府立体育会館で催された、日本空手道連合会主催の第20回全国空手道選手権大会において、「セイサン プレビュー」として、松茂良のセイサンを故屋良朝意先生(松茂良流興徳会宗家)、松濤館の半月として、私が演武しました。
 後に、故城田大秀氏(大修会二代目宗家)と共に半月を演武したこともありました。
 屋良先生とは打ち合わせもなく、大阪府立体育館で同時に型を始めました。隣で演武されている屋良先生の動きは、目に入りますが、まったく同じ順序で、立ち方や、細部に違いはあるものの、同系の型であることは、明白でした。なつかしい思い出です。
 なお、屋良先生は天寿を全うされ平成26年100歳で永眠されました。

   
旧称セーシャン
全部で四一挙動、全運動約一分にて了する。
演武線は十字形、前後の縦線を第一線、左右の横線を第二線とする。

(用意)八字立ち、両拳を握り、自然に腿の前に垂れる。平安初段の用意の姿勢と同じ。
『若干文章とは違いますが、髓心会では(用意)の写真のように構えます。立ち方は外八字立と呼称しています。』

1.右足はそのまま、左足第一線上へ、(1)のように、半月形に踏出す(前屈)と共に、左拳も右前より大きく半円を描いて前方中段受をなし、右拳腰にとる。
(注)筋骨の鍛練を主とする昭霊流なので心積もりで、動作はユックリと、型の極まる所に十分力を入れて、力の入り工合、足の締り方などをよくよく感じながら動作せよ(何れも手甲下)。
『この立ち方は、前屈立で立っています。師範演武をした時には、半月立で立っていましたが、現在は原点に戻しています。』

一口メモ

 この(1)から(10)までの動作は、私が致道館で松濤館流を学ぶまで、少し糸東流をかじっていましたので、三戦、転掌、セイエンチンなどの東恩納系統の呼吸方法で、呼吸の音を大きくしないよう実施しています。
 「空手道教範」の第一篇総論第四章空手の流儀と種類では、「空手に限らず、技を練るものは習う人々によってその解釈が各異なり、その風もまた十人十色であるのは言うまでもない。しかし、これを型の上から大別すると、重厚堅固、最も体力を練り筋力を鍛える事を主とした昭霊流と、軽捷けいしょう機敏、進退隼の如き早業を習うに適した少林流との二つになる。」と書かれています。流儀については、いずれ触れたいと思っていますが、この中で、昭霊流には、騎馬立・十手・半月・慈恩が挙げられていて、平安・抜塞・観空・燕飛・岩鶴については少林流に属する。と書かれています。

2.そのままの姿勢で、ユックリ左拳を腰に引きながら、右拳を伸ばす。

3.左足そのまま、右足を第一線上に半月形に廻して踏出す(前屈)と共に、右拳を左肩前より半円を描いて前方中段受をすること〔1.〕と同じ要領。

4.そのままの姿勢で、右拳腰に引くと同時に左拳を伸ばす。

5.右足はそのまま、左足第一線上へ、半月形に踏出す(前屈)と同時に、左拳を右肩前より半円を描いて前方中段受をなし、右拳腰にとる。〔1.〕参照。

6.そのままの姿勢で、右拳を伸ばすと同時に左拳を腰に引く、〔2.〕と同じ動作。

7.姿勢そのまま、両手に人示指の一本拳を作ると共に、〔6.〕の姿勢に於ける両拳の位置からユックリ両乳の下に(手甲上)構える。
(注)両肘を張つて、両肩を下げよ。
『致道館で習った時は、一旦右拳に左拳を裏突きの動作で近づけて、一気に一本拳で中段突きをし、それから手を開きながら(9)の構えをとりました。現在は原点に戻しています。』

8.姿勢そのまま、両拳(一本拳のまま)を前方に伸ばす(手甲は上向のまま)。
(注)両手の間隔は肩の幅位
『(注)の最後に句点がないのは、印刷ミスと思われます。』
『原点に戻すまでは、正中線に両拳を伸ばしていました。』

9.(8)の姿勢そのまま、両拳を開いて四本貫手とし(両掌内向)、両肘を曲げながら両手を後方へ引く。左右の掌は頭を挟んで向い合うように。
(注)上腕はおおよそ肩と水平に保ち、胸を開く、左右の腕が直角を作つて曲り、頭がその中央に在り山という字に似ているので、これを山構えという。左右上段受けの構えである。
『原点に戻す前は、両手を前で交差してから左右に開き山構えの形を作りました。』

10.姿勢そのまま、両肘より先を前方に倒す心持で、肘を伸ばし両手を下げる(両掌は腿に向う)。
(注)左右下段受けの構えである。
『原点に戻す前は、両手を前で交差してから左右に開き左右の下段払いの形を作りました。』

11.左足そのまま、右足一歩前に踏出すと同時に、廻れ左で後へ振り向き(前屈)ながら、右手は左肘外より上へ、左手は右肩前から下へ、互に引張るように、右手は中段受け(甲下)、左手は下段受け(甲上)。(11)の姿勢。
(注)(11)の動作は敏速に行うのがよい。手は人示指だけ伸ばし、他の四指は力を入れて浅く曲げる。(写真11-1)は解り易いように横向に撮つたが、実際は演武線に示したように後向になるのである。両手は肩の幅位の間隔、即ち右手は右肩の前に、左手は左腿の前に在るように。
『現在は、前屈立にしていますが、原点に戻すまでは、半月立で立っていました。』

12.(11)の姿勢のまま、右手首をユックリと力を入れて裏返す(手甲上)。裏返へしながら前腕を少し引下げる心持。敵の手を我が手首で中段受けすると共に、手を返して敵の手首を掴み引きつける意味である。

13.左足そのまま、第一線上後方へ右足を一歩進める(前屈)と共に、手の形は(12)のまま、右手は左肩前より下へ、左手は右肘外より上へ、互に引張るように、右手下段受(甲上)、左手中段受(甲下)。(11)の左右反対の姿勢である。
(注)常に型の極まる時には力を入れよ。
『原点に戻す前は、両手を前で交差してから左右に開き山構えの形を作りました。』

14.(13)の姿勢のまま、左手首をユックリと裏返えす(手甲上)。(12)と同じ要領である。

15.右足そのまま、第一線上後方へ左足を一歩進めると共に、(15)の姿勢をとる。
(注)(11)と同じ動作である。注意も要領もすべて(11)と同じ。
『原点に戻す前は、両手を前で交差してから左右に開き山構えの形を作りました。』
16.(15)の姿勢のまま、右手をユックリ裏返えす(手甲上)。  
(11)から(12)の動作は、後ろ向きになり見えにくいので、(11′)と数字にダッシュをつけ(11′)から(16′)と横からの写真を掲載しました。

演武線ではイメージが湧きにくいと思いますので、実際の足跡をたどってみました。これは前半だけの足跡です。

 次回は、半月前半を掲載します。

【参考文献】
・富名腰義珍(1930)『空手道教範』 廣文堂書店.
・富名腰義珍(1922-1994)『琉球拳法 唐手 復刻版』 緑林堂書店.
・Gichin Funakoshi translated by Tsutomu Ohshima『KARATE-Do KyoHAN』KODANSHA INTERNATIONAL.
・杉山尚次郎(1984-1989)『松濤館廿五の形』東海堂.
・中山正敏(1979)『ベスト空手8 慈恩・岩鶴』株式会社講談社インターナショナル.
・中山正敏(1989)『ベスト空手8 慈恩・岩鶴』株式会社ベースボールマガジン社.
・内藤武宣(1974)『精説空手道秘要』株式会社東京書店.
・金澤弘和(1981)『空手 型全集(下)』株式会社池田書店.
・笠尾恭二・須井詔康(1975)『連続写真による空手道入門』株式会社ナツメ社.