空手道における型について【12】
鉄騎初段 1~19

 

 文章の青字で記述したものは、現在、日本空手道髓心会で行っている方法です。しかし、これも全日本空手道連盟の指定の方法がありますので、これに従って練習しているのが実情です。これについては、記述していません。
 なお、緑字で記述したものは、原点に戻した方が合理的と思われるところです。

 昭和10年当時まだ立ち方、受け方、突き方の名称が定まっていなかったと思われる記述があります。この場合も現在の方法として、青字で書く事にします。現代文にしても意味が分かりにくい部分については、赤字で追記するようにしています。同じく、写真(『空手道教範』にある)を参照の部分については、赤字文章で分かるように追記しています。『空手道教範』に掲載の写真は著作権の関係もあると思いますので、載せていません。
〔ページを遡る煩わしさを避けるため、説明部分は、前回までと重複して記載しています。
 なお、★の文は、備考と考えてください。橙色で書いています。

 

鉄騎初段てっきしょだん-1~19

旧称ナイハンチ初段。
全部で二九挙動、約一分間で完了する。騎馬立の演武線は、初段より三段まで、何れも第一線のみである。
『騎馬立と書いてあるのは、現在は鉄騎の型と呼ばれていて、「空手道教範」では、騎馬立初段、騎馬立二段、騎馬立三段となっています。』

(用意)閉足立にて左右の掌を開いて、左手を上に、金的を護る位置に重ねる。
(注)両手を開いたのは、武器を持たない事を表している。又金的を護る意味なので両掌は身体から少し離れた方がよい。

★★左手を右手に重ねる方法は、右手が行動、左手が理性を表し、右手の行動を理性が制御すると言う風に私は理解しています。これは、お坊さんが歩く時に胸の前で右手の上に左手を重ねるのと同じだと思っていました。しかし、左手は不浄の手とされるのは、一部の宗教の主張であり、日本においても、左右が逆になったり、左右の手に拘りがなかったりしています。ですから、私の認識も正しいわけではなく、そのように考えている人達もいると言うような理解で良いと思います。ただ、空手のような闘技の場合は、このような、理性と行動と言う分け方は、戒律として持っていても良いのではないでしょうか。★★

1.右側面を向くと同時に(写真1)のように、右足及び上体はそのまま、左足は軽く第一線上右方に右足を越えて脚を交叉する。(1)
(注)この時腰を落として、右側の敵に対して防御する心持である。

2.左足は原位置、目は右方を見たまま右足を第一線上右方に大きく踏出す(騎馬立の姿勢)と同時に、左拳腰に、右手(掌を前に)を右方へ伸ばし(右肩前に円弧を描くようにして(2)の姿勢となる。
(注)騎馬立の姿勢については、組織篇の立方の所で詳しく解説して置いたから参照せよ。この立方がこの型の生命であるから十分注意して練習してもらいたい。右方からの攻撃を右手首に引掛けて受けた心持。
『空手道教範内組織篇:騎馬立の現代文化
これは、八字立と似て非なるもので、爪先よりも踵の方を開き、両膝を曲げ、尻を後ろに下腹を前に出し、腰を落し、上体を真直ぐに立て、太ももに力を入れて、あたかも馬に乗ったような姿勢で、足の裏の外側に力を入れ、外側より内側へ向かって力を集中するような気持ちで、踵を爪先と平行になる位まで引き付ける。この場合丹田に十分力を込めておかなければならない。これは最も堅固けんごな立ち方で、これに熟練すれば台風の際に雨戸を持って屋上に立っても吹き飛ばされる恐れがない。』

★この立ち方は、流儀によって、膝を内側に入れて力を入れる場合と、踵を内側に入れて力を入れる場合に現在は分かれています。三戦立の場合にも同様の力の入れ方があります。見た目は、膝が内側に入る場合と、膝を外側に張る場合に分かれています。騎馬立は、踵を内側に入れますから、膝が外側に張るように見えます。よく間違えるのは、膝を外側に出す事を目的にすると、本来の騎馬立にはなりません。爪先(上足底)を軸にして、踵を内側に絞り込み、結果として膝が張るように見える立ち方が騎馬立です。★

3.腰から下は動かさずそのまま、(3)のように上体だけ右に捻じりながら、左猿臂えんぴ(肘の当身あてみ猿臂えんぴと言う)を張ると同時に、右手は相手を引寄せるようにして右掌にて左肘を打つ。
(注)猿臂を使ふ時には、拳は握ったまま、手甲は外に向けて、前腕部は胸と並行してその間隔約15cm。上体だけ捻じって下体を崩さぬように注意する。
『この約15cmは、原文には5、6寸となっていますので、正確には15.15cm~18.18cmです。』
『この場合の猿臂は、髓心会では、手の甲を上に向けています。』
『猿臂の場合、縦、横、後ろなど色々な使い方がありますが、この場合は手の甲を外(身体の前の方)が原点になっていますので、戻した方が良いと思います。理由は変える根拠が見つからないからです。』
距離については、各自の身体に合わせるのが良いと思います。

4.下体はそのまま動かさず、(4)のように顔は左側(第一線上左方)を振り向くと同時に、右拳腰に、左方(甲を外)をその上に重ねる。
(注)上体は正面に向い、顔だけ左を向ける。肩が上らないように注意せよ。
『(甲を外)は、演武線の正面方向です。』
5.そのままの姿勢を崩さず、左拳を右肩前より反動をつけて下段受け。(5)の姿勢。
(注)左拳は左腿より約20cm離れた位置に、平安初段1.の前屈下段受けが騎馬立に変わっただけで、他はすべて同じ。
『この約15cmは、原文には5、6寸となっていますので、正確には15.15cm~18.18cmです。』
『この下段受けを下段払いと言っています。そして、右拳の上に乗せた左拳の位置からそのまま下段払いの位置まで、直線的に動かしています。』
距離については、各自の身体に合わせるのが良いと思います。

6.そのままの姿勢で、左拳を捻じ上げるように左腰に引きつけると同時に、右拳を(6)のように胸の前に構える。
(注)右手の位置は前腕が水月の前あたりに、胸部と並行する位、腕と胸の距離は約15cm。このようにして右拳の先が左脇腹を過ぎぬよう、肘から手首にかけて幾分下がり気味(これを水流れという)にする。この右手は水月を護る意味である。
『この場合の胸の前の構えは、髓心会では中段鍵突きにしています。形は同じですが、前腕の位置は水月あたりですが、拳の位置が体側の位置にしています。』
距離については、各自の身体に合わせるのが良いと思います。

7.左足そのまま、身体の姿勢を崩さぬように、(7)のように右足は左足の上を軽く越えて交叉する。
(注)この時も腰を落としたまま動作する。左側の敵に対する防御の用意である。

8.右足原位置に、左足を大きく左方に踏出す(騎馬立)と同時に、顔は正面を向き、右前腕を起して中段内受け。即ち(8)の姿勢となる。
(注)右拳は目より見下ろす高さにあり、肘と身体との距離はおよそ15cm。
『中段内受けを中段外受け(旧称内受け)と言い、拳の高さが肩の高さ、肘と体の距離を握り拳が一つと定めています。』

9.そのままの姿勢を崩さず、右拳を左肩前に(手甲は下)左拳は前方にとると直ぐに、(9)の反動にて直ちに(次項に続く)
『この項は、あくまでも10.の技を行うための準備です。』

10.(10)のように右は右拳下方に(甲外)下段受け、左拳は左肩前方に(甲外)中段受けすると直ぐに(次項に続く)
(注)この際右拳の先が左肘の内側を擦る位に、左右の拳を上下に強く引張る心持。敵の手足を同時に受けた形である。
『この項は、10.11.と連続で技を行います。』

11.左裏拳にて(11)のように正面を打つと同時に、右拳(甲は上)の手首を左肘下に接する。
(注9この(9)(10)(11)の動作は騎馬立特有の形でむずかしい型であるから十分に練習を要する。このようにして(9)(10)は動作の順序を示す為に入れたので、実際は(9)(10)(11)まで一挙動として瞬間に動作すべきである。(11)の型の意味は、敵の拳を右手にて押え引寄せつつ、左裏拳にて人中を打つ心持である。従って左裏拳はなるべく顔の正面になければならならない。
『髓心会では、「型」と「形」を明確に分けています。この文章の(11)の型との表現は、(11)の形と表現します。』

★★「型」と「形」については、各方面で色々な見解が示されています。私は「空手道教範」と同様「型」と言う文字を使っています。型というもののイメージは、色々なものが詰まっているイメージを持っています。
 ちなみに、辞書では「型」も「形」も同一と表記されている辞書もありますので、どちらが正しい表記の仕方とは言えません。
 髓心会では、型は形の集まりであって、形は、技の極まった状態としています。★★

12.そのまま姿勢を崩さず、(12)のように顔だけ左側面を見る。

13.上体の姿勢はそのまま、(13)のように素早く左足を内側に蹴上げるようにあげる。左足裏が右膝頭の上あたりに来るよう。
(注)敵が蹴込んで来た足を、足裏で払う意味。熟練したら(13)(14)は一挙動とする。
『この蹴り上げる動作を「波返し」と呼んでいます。なるべく騎馬立の上体を移動させないようにします。』

14.(14)のように左足を元の位置に強く踏み込む(騎馬立)と同時に、左拳をギリリと廻し(手甲が上に向く位まで)ながら、上体だけ左方に捻じ向ける。この時右手はそのまま左肘の下に接しておく。
(注)上体を左に向ける時、下体が崩れないよう注意する。左足で相手の足を踏込みつつ、左手首で相手の拳を受ける意味。

15.そのままの姿勢を崩さず、(15)のように顔だけ右側面を向く。
(注)右側よりの敵の攻撃を察して用意する心持である。

16.上体の姿勢、及左足はそのまま、(16)のように素早く右足を内側に蹴上げるように上げる。右足裏が左膝頭の上あたりに来るよう。
(注)左足は屈して、腰を落としたまま。すべて(13)の反対の姿勢である。熟練したら(16)(17)は一挙動とする。
『髓心会では、この動作を波返しと言っています。松濤館流の他の会派でも同じ呼称で呼んでいる場合も見られます。』

17.右足を強く元の位置に踏み込む(騎馬立)と同時に、上体だけ手と共に(17)のように右に捻じ廻わしながら、左手にて中段受けこの時左手の甲は下になるように。
(注)右足にて敵の足を払いながら、直ちに敵の今一方の足に踏み込み、左手にて敵の中段攻撃を受けた意味。
『左手の甲は、と言う表現の仕方は誤解を招くので、蛇足かも知れませんが説明しますと「左手の甲の向きは斜め下」の意味です。写真の通りです。』

18.下体そのまま、(18)のように顔を左方に向ける(上体は正面を向く)と同時に、右拳は腰に、左拳はその上に(手甲外)重ねる。
(注)右方の敵を防いだ時、左方より敵の来るを察して、振り向いて用意する意味。

19.そのままの姿勢を崩さず、右腰に構えた左右の拳を同時に(19)のように左方に突出す。但し左拳は真直ぐに左方に伸ばし、右拳は肘を曲げて、前腕部が胸の前約15cmに、拳先が左肩の下、脇腹と並ぶ位。
(注)諸手突の一種である。左拳は敵の突込む拳を外方に払いのけながら中段を攻撃し、右拳も胸を護ると共に攻撃の意味を含む(実際には上体を尚左に捻じって右拳にて胸部を攻撃する事も出来る)。
『髓心会ではこの諸手突き(双手突き)が極まる時に、気合をかけています。』

演武線ではイメージが湧きにくいと思いますので、実際の足跡をたどってみました。ここでは、黒の塗りつぶしの足形と黒枠の足形が後半になります。
 次回は、鉄騎初段後半を掲載します。

【参考文献】
・富名腰義珍(1930)『空手道教範』 廣文堂書店.
・富名腰義珍(1922-1994)『琉球拳法 唐手 復刻版』 緑林堂書店.
・Gichin Funakoshi translated by Tsutomu Ohshima『KARATE-Do KyoHAN』KODANSHA INTERNATIONAL.
・道原伸司(1976)『図解コーチ 空手道』成美堂出版.
・道原伸司(1979-1988)『空手道教室』株式会社大修館書店.
・田村正隆他(1977)『空手道入門』株式会社ナツメ社.
・杉山尚次郎(1984-1989)『松濤館廿五の形』東海堂.
・中山正敏(1989)『ベスト空手5 平安・鉄騎』株式会社ベースボール・マガジン社.
・内藤武宣(1974)『精説空手道秘要』株式会社東京書店.
・金澤弘和(1981)『空手 型全集(上)』株式会社池田書店.
・金澤弘和(1977)『新・空手道』株式会社日東書院.
・笠尾恭二・須井詔康(1975)『連続写真による空手道入門』株式会社ナツメ社.