「五輪書」から学ぶ Part-16
【水之巻】太刀の持様の事

   五輪書から】何を学ぶか?  

 現代では、刀を持つ機会はまれであると思います。剣術や居合をされている人は、いざ知れず、刀を普通に振り回されても困ります。

 今回は、刀の持ち方を詳細に書き記していますが、このブログの題名のように、何を学ぶことが出来るかが問題です。

 武士の刀は、いわゆる職業遂行のための道具です。現在では、サラリーマンは、武士が主君に仕えたように、上司に仕える事により、生活を支えています。組織に属さない人でも、請け負った仕事に仕えて、生活の糧とします。

 技術的な仕事でなくても、何かの道具を使って仕事をしているのではないでしょうか。

 特に私のように、職業を転々としてきた人間は、好むと好まざるにかかわらず、道具を使いこなさなければなりませんでした。
 最初は、父親の元で時計屋をしました。技術職ですから、ピンセットやドライバー他専門的な道具を使えなくては仕事になりません。あまり細かい物を長時間見ていて、目から血が出たこともありました。
 工場で働いたこともあります。旋盤やターレットと言われる道具も使えるように訓練しました。

 今、お習字の練習をしていますが、筆を上手く扱えるようになる事が、綺麗な字を書く基本であり、奥深いものを感じています。

 たとえ一般的に道具と言われる物でなくても、鉛筆や定規なども道具の一つです。今では、コンピュータも道具の一つと思います。
 若い人の間では、スマホはもう生活の一部になっているのではないでしょうか。

 このような道具の扱い方が勝るか劣るかによって、人生設計が変わると言ってもよいでしょう。

 この『5. 太刀の持様の事』で、命を懸けた道具の扱いから、何かを学べるのではないでしょうか。 

【水之巻】の構成

 1. 水之巻 序           
 5. 太刀の持様の事
 6. 足つかひの事
 7. 五方の搆の事
 8. 太刀の道と云事
 9. 五つの表の次第の事
10. 表第二の次第の事
11. 表第三の次第の事
12. 表第四の次第の事
13. 表第五の次第の事
14. 有搆無搆の教の事
15. 一拍子の打の事
16. 二のこしの拍子の事
17. 無念無相の打と云事
18. 流水の打と云事
19. 縁のあたりと云事
20. 石火のあたりと云事
21. 紅葉の打と云事
22. 太刀にかはる身と云事
23. 打とあたると云事
24. 秋猴〔しゅうこう〕の身と云事
25. 漆膠〔しっこう〕の身と云事
26. たけくらべと云事
27. ねばりをかくると云事
28. 身のあたりと云事
29. 三つのうけの事
30. 面〔おもて〕をさすと云事
31. 心〔むね〕をさすと云事
32. 喝咄〔かつとつ〕と云事
33. はりうけと云事
34. 多敵の位の事
35. 打あひの利の事
36. 一つの打と云事
37. 直通〔じきづう〕の位と云事
38. 水之巻 後書
『原文』
5. 太刀の持ちやうのこと (原文を下記のルールに従って加筆訂正あり)
 太刀の取りやうは、大指・人差を浮くる心に持ち、丈高指締めず弛まず、くすし指・小指を締むる心にして持つなり。
 手の内には、寛ぎのあること悪し。太刀をもつといひて、持ちたるばかりにては悪し。敵を斬るものなりと思ひて太刀を取るべし。敵を斬るときも、手の内に変りなく、手の竦まざるやうに持つべし。もし、敵の太刀を張ること、受くること、当たること、押さゆることありとも、大指・人差指ばかりを少し変ゆる心にして、とにもかくにも斬ると思ひて太刀を取るべし。試しものなど斬るときの手の内も、兵法にして斬るときの手の内も、人を斬るといふ手の内に変ることなし。
 そうじて、太刀にても、手にても、居着くといふことを嫌ふ。居着くは死ぬる手なり。居着かざるは生る手なり。よくよく心得べきものなり。
加筆訂正のルール
                 *仮名遣いを歴史的仮名遣いに統一
                 *漢字は現行の字体に統一
                 *宛て漢字、送り仮名、濁点、句読点を付加
                 *改行、段落、「序」「後記」を付けた
 『現代文として要約』
 5. 太刀の持ち方のこと

 刀の持ち方は、親指、人差指には力を入れず、中指も握り締めず、弛まない程度に、そして、薬指と小指で刀の柄(つか)を握り締める。
 手の掌に隙間があっては良くない。刀を無造作に持ってはいけない。敵をこの刀で斬ると思って持つ必要がある。斬る時も持った時も手の掌に変わりがなく、手が竦(すく)まないように持つ事。もし、敵の刀を撥(は)ねたり、受けたり、当たったり、押さえたりすることがあっても、親指と人差し指だけ少し変わる気持ちで、まず、斬る事に専念して刀を持つ必要がある。試し切りの場合も、戦いの場と柄を握る手に違いはない。
 全体的に、刀も手も居着くことが良くない。居着くことは、死につながる。居着かない事が生きる方法である。

 『私見』

 専門的に剣道を稽古した事はありません。それでも小学生の頃から、家に日本刀があったので、よく振る練習はしていました。五月雨葵と言って西郷隆盛の所蔵した白鞘の刀で、西南戦争で使われたと言われていて、刀の峰に二か所刀が当たった後がありました。私が東京に行っている間に、売られてしまったようで、今はありません。
 真贋の程は解りませんが、非常に良く切れる刀でした。小学生がただ振り下ろした先に梅の枝があり、約4センチ程の枝がなんの手ごたえもなく落ちてしまいました。

 そんな訳で、刀を毎日振っていると、小指と薬指だけで柄を持つようになります。 「五輪書」から学ぶ part-7の動画で釵を稽古していますが、これもやはり、小指と親指で握り、その他の指をしっかり握りしめないようにしないと、器用には動かすことができません。

 空手道においては、徒手空拳で素手を武器として鍛えますが、よく使う部位は、正拳と呼ばれて、人差指と中指の指の根本の部分を当てます。
 小指、薬指、中指、人差指の順番に握り、人差指及び中指の第一関節と第二関節を親指で押さえます。
 昔は、まったく逆に人差指から握り、小指はあまり強く握らない人が多かった記憶があります。
 また、船越先生は、人差指の第一関節を伸ばして親指で押さえる方法だった記憶があります。
 このように、昔は色々握る順序がありましたが、今はこの方法が一般的でしょう。
 この握り方には、会派、道場によって違いがあると思います。

 私は、全ての指を握り締める事はしません。手の掌にマシュマロのような柔らかい、壊れやすいものを握っているようにして、包み込みます。理由は、スピードを出すために腕の力を抜くためです。
 その替わりに、手首には当たる瞬間力が入ります。
 手の掌を、「たなごころ」といいます。中国では「拳心」と言うと聞いた事があります。握りつぶさない方が良いのでは、と思っています。

 【参考文献】 
・佐藤正英(2009-2011)  『五輪書』ちくま学芸文庫.