【空手道の基本である、「刻み突き」について、練習する前に知っておくべき事】 |
昭和30年代の後半では、まだ刻み突きと言う言葉は一般的では無かったような記憶があります。前の手で突く、又は前手突きと言う言葉はあったと思います。
では、唐手やティーと呼ばれた時代には、無かったのでしょうか。大正時代の事ですから、文献によるしか検証する事はできませんが、言葉ではなく、同じ側の前の手で上段を突く写真を見た記憶があります。確か、本部朝基師(日本傳流兵法本部拳法の開祖1870 – 1944)と山田辰夫師(日本拳法空手道の開祖1905 – 1967)だったと思います。これも、写真ですから、突き手が前にでて突いているのか、受け手が前に入り込み、前手の突きを受けているのか、判断に迷います。
ただ、現在試合で行われているような、刻み突きとは、すこし趣が違っているかも知れません。現在の刻み突きは、空手という歴史的な継承ではなく、競技空手が生んだ、競技と試合規定に則って、選手の間で自然発生的に広まったものだと理解しています。
このブログの「考察」に記載した【空手道という武道】の中で述べている「ルールが変わるとゲームが変わる」のように、そのルールに有効な技が出来たものだと思っています。もちろん、その頃すでに、世界的なスポーツであった、ボクシングのジャブが参考にされた事は、想像に難くないでしょう。
- 空手は一撃必殺、一撃必倒が自明であった。
- 競技化されて、一撃はポイントになった。
現在の刻み突きに威力がある事は、すでに周知の事実ではありますが、武術として、刻み突きを考えた時、現在試合で使われている刻み突きは、捨て身技の種類に入るのではないでしょうか。もちろん、護身術にも、格闘術にも、武術にも、捨て身の技はあります。しかし、あくまでも捨て身ですから、万死に一生を得るような場面でなければ、使う必要性が無いとも思っています。
ただし、刻み突きにも、色々なバリエーションがあって、下半身の固定により上半身が、慣性の法則を利用して技を繰り出す方法であれば、捨て身技とは思っていません。
あくまでも、下半身がアンバランスの中でバランスを取って、突き出す、刻み突きについて、捨て身の技と言っているのです。もちろん、ダイナミックバランス(参照)という考え方もあり、ほとんどの技は、動きの中でバランスを取っている事も事実ではあります。
競技の場合は、ポイントと言いましたが、これは、次があるという事です。挽回可能という事です。たとえ、この試合は負けたとしても、次に期待する事ができます。しかし、護身術や武術、格闘となると、そこで終わってしまうという事ではないでしょうか。
そうなると、「あわよくば」、とか「もしかしたら」と言った考えは、そう簡単に出来ません。もし、出来るとすれば、先ほど述べた「万死に一生を得る」ような場面ではないかと、思うのです。
さて、今日は、「刻み突き」の中から、捨て身技ではないバリエーション(下記、1.~3.)を紹介します。
[刻み突きの種類]
- 寄り足による刻み突き
- 継足による刻み突き
- 越し足による刻み突き(日本空手道髓心会独自の名称)
- 競技用寄り足刻み突き(日本空手道髓心会独自の名称)
- 競技用継足刻み突き(日本空手道髓心会独自の名称)
※その他各会派、各道場、各団体、各選手ごとに独自の方法があると思います。
では、動画をご覧ください。
○エネルギーの移動
- 寄り足による刻み突き
- 裏を床に押し付ける(キッカケにするだけ)
- 後ろ足の膝の力を抜く(カックンと折れる感じ)
- 後ろ足がカックンと折れる勢いにつられて、前足をやや浮かし、前に踏み込む
- 前足が着地するのを追うように後ろ足を引き付ける
- 前に行こうとするエネルギーを前の鼠径部で止める
- 鼠径部で止まったエネルギーが、慣性の法則で上半身に伝わる
- 上半身に伝わったエネルギーを使い、突き手の肩・腕の力を使わず、自然に腕が掘り出される感じで、突く
- 裏を床に押し付ける(キッカケにするだけ)
- 継足による刻み突き
- 前足の膝を抜く(カックンと折れる感じ)
- 同時(A.が気持ち早く)に後ろ足を前足に引き付ける
- この時後ろ脚は、上足底(足指の付け根[猫の場合:肉球])だけが床についている
- 後は、1.のA~Gと同じ
- 越し足による刻み突き(日本空手道髓心会独自の名称)
- 2.の後ろ足を前足に引き付ける動作を、後ろ足が前足を超える(相手との間合いによる)が、あくまでも前足に引き付ける動作の延長線上にあるようにする
- 前足を追い越してからは、2.と同じ
- 2.3.共に、突きのキッカケは足裏の踏み込みである事に注意する
- 練習する場合の注意
- まず、エネルギーの伝わる動作ごとに区切って動作をしてください
- 区切った動作が、ある程度理解でき、感覚が解ったら、動作を繋げます
- 繋げた動作をゆっくり、何度も反復して、繋ぎを意識することがないようにします
- 繋ぎの意識が無くなったら、早く動作をしてみますが、方法は5回ゆっくり動作をして、早く一回動作する感じです
- 大切なのは、初動から極めまでに、一瞬でも、心も動きも、止まる所が無いようにすることです
【参照】(言葉の説明)
ダイナミックバランス:動的バランスともいい、静止状態ではなく、物体が移動しながら、バランスを取る。支持面に対して重心も含めて支持面内からでないよう保ち続けることを言います。