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「五輪書」から学ぶ Part-49
【火之巻】三つの先と云事

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   【五輪書から】何を学ぶか?  

 今回の「三つの先」については、空手を本格的に始めた頃より興味があり、色々考え、また稽古を積みました。武蔵は、戦いを始めるにあたっては、この「三つの先」以外にはない、と言い切っています。

 単に『懸かる・待つ・躰躰(身体と身体)の先』と言っても、結構奥が深くて、また、解釈もマチマチなのが現状だと思いました。と言うのは、自分で思っている「先」と競技空手では有名な選手であった人との解釈に、違いがあったのです。

 通常、「先の先」「後の先」「先先の先」と言われていますが、やはり、「懸の先」「待の先」「躰躰の先」と言った方が、紛らわしくないと思っています。

 奥が深い理由は、懸かる技術の前に、そして、待つ技術の前に、また、懸かり合う技術の前に、相手に対する洞察力が、全てを決するところにあると言えるのです。

 もちろん、懸かる技術も必要ですし、待つための技術も必要です。まして、相手とぶつかり合う時の技術や体力も必要な事は、言うまでもありません。
 しかし、見える部分については、教える事も、習う事も出来ますが、見えない部分について、体得していくのは簡単ではありません。「口伝」「以心伝心」の域かも知れません。(写真は、自由組手の一コマで、礒田師範が「先の先」で攻撃を仕掛けた瞬間です)

【火之巻】の構成

1. 火之巻 序
2. 場の次第と云事
3. 三つの先と云事
4. 枕をおさゆると云事
5. 渡を越すと云事
6. 景氣を知ると云事
7. けんをふむと云事
8. くづれを知ると云事
9. 敵になると云事
10. 四手をはなすと云事
11. かげをうごかすと云事
12. 影を抑ゆると云事
13. うつらかすと云事
14. むかづかすると云事
15. おびやかすと云事    
16. まぶるゝと云事
17. かどにさはると云事
18. うろめかすと云事
19. 三つの聲と云事
20. まぎると云事
21. ひしぐと云事
22. 山海の變りと云事
23. 底をぬくと云事
24. あらたになると云事
25. 鼠頭午首と云事
26. 将卒をしると云事
27. 束をはなすと云事
28. いはをの身と云事
29. 火之巻 後書
  
『原文』
3.  三つの先と云事 (原文は、播磨武蔵研究会の宮本武蔵研究プロジェクト・サイト「宮本武蔵」http://www.geocities.jp/themusasi2g/gorin/g00.htmlを引用しました)
三つの先、一つハ我方より敵へかゝる先、けんの先といふ也。又一つハ、敵より我方へかゝる時の先、是ハたいの先と云也。又一つハ、我もかゝり、敵もかゝりあふときの先、躰々の先と云。これ三つの先也。何の戦初にも、此三つの先より外ハなし。先の次第をもつて、はや勝事を得ものなれバ、先と云事、兵法の第一也。此先の子細、さま/\有といへども、其時々*の理を先とし、敵の心を見、我兵法の智恵をもつて勝事なれバ、こまやかに書分る事にあらず。(1)第一、懸の先。我懸らんとおもふ時、静にして居、俄にはやく懸る先、うへを強くはやくし、底を残す心の先。又、我心をいかにも強くして、足ハ常の足に少はやく、敵のきハへよると、早もミたつる先。又、心をはなつて、初中後同じ事に、敵をひしぐ心にて、底まで強き心に勝。是、何れも懸の先也。第二、待の先。敵我方へかゝりくる時、少もかまはず、よはきやうにミせて、敵ちかくなつて、づんと強くはなれて、とびつくやうにミせて、敵のたるミを見て、直に強く勝事。これ一つの先。又、敵かゝりくるとき、我もなを強くなつて出るとき、敵のかゝる拍子の替る間をうけ、其まゝ勝を得事。是、待の先の理也。第三、躰々の先。敵はやく懸るにハ、我静につよくかゝり、敵ちかくなつて、づんとおもひきる身にして、敵のゆとりのミゆる時、直に強く勝。又、敵静にかゝるとき、我身うきやかに、少はやくかゝりて、敵近くなつて、ひともミもみ、敵の色にしたがひ、強く勝事。是、躰々の先也。(2)此儀、こまかに書分けがたし。此書付をもつて、大かた工夫有べし。(3)此三つの先、時にしたがひ、理にしたがひ、いつにても我方よりかゝる事にハあらざるものなれども、
同じくハ、我方よりかゝりて、敵を自由にまはしたき事也。何れも先の事、兵法の智力をもつて、必勝事を得る心、能々鍛錬有べし(4) 
【リンク】(1)(2)(3)(4)は【註解】として、播磨武蔵研究会の宮本武蔵研究プロジェクト・サイト「宮本武蔵」にリンクされています。

 『現代文として要約』

 3.  三つの先と云事

 三つの先、一つは自分から相手に懸かる先、これを懸の先と言う。また一つは、相手から自分に懸かる時の先、これは、待ちの先と言う。また一つは、自分も敵も懸かり合う時の先、これを躰々の先と言う。これが三つの先である。どんな戦いでも、始まりは、この三つの先より他はない。先の状態によって、もはや勝てるのだから、この先は兵法の第一である。
 この先の子細については、様々あるが、その時々の理(ことはわり:一番良い方法)を先とし、敵の心を見、自分の兵法の知恵を持って勝つ事であるから、詳細に書き分ける事はしない。
 一番目の懸の先については、自分から懸かろうと思った時、静かな状態から予想外に速く懸かる。表面は強く速く見せて、心は静かに動じない。又、自分の心を如何にも強くして、足は普通よりも少し速く、敵の近くに寄り付き、素早く心を込める先。又、初めから終わりまで、心を解き放ち何も考えないで、敵を圧し潰すようにして、心底強い気持ちで勝つ。これは、どれも懸かる先である。
 二番目の待ちの先については、相手が自分に懸かって来る時に、少しも動揺せず、表面は弱いように見せて、呼び込み、相手が近くなったら急に強い心になって、飛び懸かるように見せて、相手が怯む所を見て、直ぐに強く勝つ事。これ一つの先である。又、相手が懸かって来る時、自分は相手よりも強く出て、相手の拍子が変わる瞬間に勝ちを得る事。これが待ちの先の理(ことわり:一番良い方法)である。
 次に三番目は、躰々の先。相手が早く懸かる時には、自分は静かに落ち着いて強く懸かり、相手が間近になった時、覚悟を決めて構え、相手に怯みが見えた時、直ぐに強く出て勝つ。又、相手が静かに懸かって来る時は、自分は身も心も軽やかに、少し早く懸かり、相手が近くなって揉み合いになり、相手の状況に合わせて、強く勝つ。これが、躰々の先である。
 この事については、詳細には書き分け難い。この書き付けに、ほぼ書き表してあるのでよく読んで工夫すること。
 この三つの先は、その時の様子によって、理(ことわり:一番良い方法)を選択して、何時でも自分から懸かる事はないが、できれば、自分から懸かって、相手を自由に追い回したい事である。何れの先も、兵法の知力で、必勝できるよう、心身共によく鍛錬する事。

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 『私見』

 「懸の先」「待の先」「躰々の先」について、私が常々思っている「先」について、書いてみます。「先」と言うのは、剣術の場合は「斬る・突く」と言う意味であろうと思います。空手の場合は、突く・打つ・蹴るなどの攻撃技を指します。
 ですから、「懸の先」と言えば、これらの攻撃技で、相手に先に懸かると言う事です。自らが相手に懸かっていく時の方法です。読んで字のごとくですが、色々な要素があります。次回からのテーマの大部分が、この初動作に関係します。

 武蔵が書き記している「懸の先」(藍色の字)では、
1. 静にして居、俄にはやく懸る先、うへを強くはやくし、底を残す心の先。
(1) 相手に攻撃の気配を感じさせないで、素早く攻撃するが、相手の反撃に対処出来るよう、身体も気持ちを残しておく。
2. 我心をいかにも強くして、足ハ常の足に少はやく、敵のきハへよると、早もミたつる先。
(2) この一撃で相手を倒す勢いで、素早く相手に近づき一気に攻撃する。
3. 心をはなつて、初中後同じ事に、敵をひしぐ心にて、底まで強き心に勝。
(3) 何も考えないで、相手に接近し敵を圧し潰すくらいの気迫で攻撃する。
★緑字で書いた部分は、空手を想定して書き換えた私見です。
 一言で言うならば、相手が対処する暇がないように攻撃する、という事に尽きます。「一の太刀を疑わず」「二の太刀要らず」と言った、示現流を想起させるような攻撃をすると言う事です。

 同じ方法で「待の先」を読み解きましょう。
1. 敵我方へかゝりくる時、少もかまはず、よはきやうにミせて、敵ちかくなつて、づんと強くはなれて、とびつくやうにミせて、敵のたるミを見て、直に強く勝事。
(1) 相手が攻撃してきても、相手の動きを見定めて、弱気になったように見せながら、相手が間合いに入るのを見極めて、さっと間合いを外すやいなや、飛び込む気勢を見せ、相手が怯む所を直ぐに攻撃する。
 ◎この「づんと強くはなれて」を如何に読み解くかで、状況が一変します。「はなれて」を気持ちを変えてと読む場合もあるかと思いますが、私は、間合いを外して、相手の気の弛みを誘い、攻撃します。
2. 敵かゝりくるとき、我もなを強くなつて出るとき、敵のかゝる拍子の替る間をうけ、其まゝ勝を得事。
(2) 相手が攻撃するのを見定めて、その攻撃を撥ね退ける勢いで反撃する。これは、こちらの気勢に相手がたじろぐ瞬間に攻撃する事が大切である。

 さて、最後の「躰々の先」に移りましょう。
1. 敵はやく懸るにハ、我静につよくかゝり、敵ちかくなつて、づんとおもひきる身にして、敵のゆとりのミゆる時、直に強く勝。
(1) 相手が早く懸かる時には、自分は静かに受け止めるように攻撃を仕掛け、相手と間合いが接近した時に、覚悟を決め、相手が勝てると思い油断した瞬間に強く攻撃する。
2. 敵静にかゝるとき、我身うきやかに、少はやくかゝりて、敵近くなつて、ひともミもみ、敵の色にしたがひ、強く勝事。
(2) 相手が静かに間合いを詰めてきたら、自分は軽く相手よりも少し早く攻撃し、相手との間合いが詰まり、揉み合いして、その時の相手の出方に対応して、瞬時に強く攻撃をする。

 では武蔵の言う「三つの先」以外に本当に、戦い初めはないのでしょうか。

 空手であっても、剣術であっても、捌きという対処の仕方はあると思います。
受けでも、流しでもなく、交差して捌き、同時に攻撃する方法があります。

 通常これを、「後の先」と言っています。「待ち突き」「待ち蹴り」、あるいは、「交差突き」「交差蹴り」とも言います。

 あくまでも、相手の攻撃を待ち、その攻撃を見切って捌きながら、相手の攻撃よりも速く反撃をします。もちろん、その為には、次回以降に出てくる、相手の動きを、いち早く察知する能力が無くてはなりません。それでも、私は「後の先」の類を、「待の先」の仲間に入れたいと思っています。

 【参考文献】 
・神子 侃(1963-1977) 『五輪書』徳間書店.
・佐藤正英(2009-2011)  『五輪書』ちくま学芸文庫.

   【参考サイト】
・播磨武蔵研究会の宮本武蔵研究プロジェクト・サイト「宮本武蔵」http://www.geocities.jp/themusasi2g/gorin/g00.html


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