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お習字から書道へ Section 8

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 言葉が無ければ、人間はどのような歴史をおくったのでしょうか。そして、文字の存在がその歴史を作って来たと言っても過言ではないでしょう。

 ただ、言葉を発しても、それは記憶の中にしか残りません。しかし、その言葉を書き記す事で、言葉はそのまま時代を経ても、書かれた当時のまま後世に伝えられます。

 前に聖徳大使の「十七条憲法」や、孔子の「論語」、あるいは宮本武蔵の「五輪書」「独行道」、そして沢庵和尚から柳生宗矩に送られた「不動智神妙録」など、昔の文章を読んで来ましたが、これも文字が書かれるという事から出来たものです。

 言い伝えというものは、伝言ゲームのように、多分に装飾されたり、欠落する事はやむを得ない事ですが、書かれた物は、他者が介在する事無く、書いた本人の思いが伝わってきます。

 その中でも、「論語」以外の物は、現物が残っています。中には原本の写本もありますが、この文字を見ますと、それぞれの文字にその人の品格が現れていると思います。

 私は、まだ文字に現れた芸術性や、書かれた人の品格が解るまでには、到達していませんが、こんな字がさらさらと書けるようになりたいと思ってしまいます。

 鷹見芝香たかみしこう  

 文部省高中学校書道学習指導要綱編集委員(硬筆習字)。
 全日本書道教育協会総務。
 東京都中学校書道研究会副会長。
 日本書作院同人。
 東京都立豊島高等学校講師。
出典:ペン字いんすとーる(http://cumacuma.jp/review/review_index/pen_life/)

 

 では、いつものように一文字一文字、観察して、書いて見ましょう。

 「ま」と言う文字の特徴は、縦長です。赤い点線の内側に収まるように書きます。
 ここでも、結びがありますが、 上達ポイント(Section 6)の特徴をよく知って書いて見てください。
 一画目と二画目の間を広く開けるようにすることが、ポイントです。

 「み」の特徴は、上の方が大きな菱形の中に書くとバランスが取れます。文字の始めの横線は、ほぼ水平に短く引いて、中央の線に接すると左斜め下に一気に引き下ろします。下の赤い点線にぶつかると上に上げて結びます。丁度菱形の左の頂点で右にほとんど水平に横の線を引きます。ここでも、ひらがなですから、真直ぐではなくやや上に膨らむようにほんの少し右上がりに引きます。これは、図のようなふくらみと右上がりを参考にしてください。最後の線の最終が菱形の下の頂点で終わります。この菱形の下の頂点は、少し中央線から右側に逸れていることに注意しましょう。

 「む」の文字も「は」と同じように正方形に見えますが、少し縦長に書く方が形がとれます。「む」の文字のポイントは、最後の点の位置だと思います。赤い点線の右上に少し大きめに点を打ちます。左の部分と広く間を開けます。結びの最下点とほぼ同じ水平線上に水平に線を引き最後に上の点に繋げるように上げます。

 「め」は、こじんまり書くと、他の文字と釣り合いが取れます。一画目と二画目「の」の交わる点に注意する事がポイントです。そして、最後の線を引き出す長さも図を見て調整してください。二画目の線の入れ方は、中央線より右側から少し中央線に添うように下ろしてから左斜めに膨らみを持たせて引いて、赤い点線の枠に当たる前に左斜め上に引き上げ、赤い点線の枠に当たってから右上に丸めます。

 「も」は、中央線に添うように左側に大部分があります。最後の曲げで少し中央線から出ます。二本の横線は、縦の線の半分の所に赤い点線を引いていますので、これを目安にすると、全体のバランスが取れます。この文字もバランスの取りにくい文字なので、何度も練習して下さい。

 
 上達ポイント  

 文字と言っても、いま練習している「ひらがな」、「カタカナ」、「漢字」、「数字」、「ローマ字」など色々なものがありますが、「ひらがな」には、「楷書風」と「行書」あるいは「草書」と言った特徴があります。

 その特徴を知って書く事も、上達の糸口になると思います。

 元々「ひらがな」は「漢字」から「行書」あるいは「草書」と言った経緯があり、なお簡略化がすすんで、現在の「ひらがな」が出来ていますから、当然、線は丸みを帯びているのが原則です。

 ですから、基本的には、真直ぐに引く線は無いと考えても良いでしょう。しかし、このあたりが難しい所で、直線に見える所があります。これも良くみると湾曲しているのが「ひらがな」の特徴だと思います。

 そして、横に引く線は、概ね右上がりに引きます。この右上がりの角度は、10度では上がり過ぎだと思ってください。5度辺りを標準にすると良いでしょう。「お」「か」「ぬ」「み」「や」「ら」「わ」の横線はあまり丸くならないように、この標準に合わせるとうまく書けます。

 

 一口メモ  

 今回も『ペン習字』(鷹見芝香たかみしこう著)に書かれてある文章を引用してみます。

 『幕末から明治初期までの書写は、それまで同様、毛筆によっていましたが、明治の中ごろから学者や文人たちがしだいにペンを使いはじめ、大正時代に万年筆が伝わったのを契機に、急速にペン書きが流行しはじめました。大正七、八年ごろには、時の文部大臣中橋徳五郎が毛筆廃止論を提唱したほどです。』

 このような記述がみられます。

 この時に、毛筆が廃止されていたら、現在の書道界はどうなっていたのでしょう。時にその時代の為政者によって、文化的な遺産が破壊されていったことは、何も文字だけに限った事ではありません。

 もちろん、記録と言う事だけを考えると、仕事で毛筆を使う事は生産性から言っても当然変わってきます。今では書くより打つと言った方が効率が良い記録方法です。その内、その記録方法も変わって来るのでしょう。

 昔の大福帳(帳簿の一種)を見ると、商人でも私から見ると、とても上手な字だと思ってしまいます。それだけ日本人に、毛筆が浸透していたのでしょう。
 こういう文化とも言える、日本人らしい手先の器用な部分が廃れていくのは、なんだか寂しい気もします。

 国を治める人たちは、文化文明に造詣が深くあって欲しいものだと思います。
 頭がいいと言うことを、学校で学んだ事だけで評価されるのも、今の官僚や議員、あるいはマスコミなど、国を動かしていると自負している人達の言動を見ると、もう一度考え直しても良いのではないでしょうか。 

【参考文献】
鷹見芝香たかみしこう(1966)『ペン習字』 株式会社主婦の友社.

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