「船頭多くして船山に上る」と言うことわざを聞いたことがあると思います。
組織の中で、指図する人が多くいると、どこに向かって進めば良いか、判断できなくなります。
空手でも同じですが、致道館に入門した当時は、習っている人の間で、いつも愚痴に似た言葉を聞いた記憶があります。
あの先輩は、こういう風に言った、この先輩はこう教えてくれた。稽古に来るたびに教える人が違うので、こういう現象が起こっていました。
私の場合は、我道を行くタイプでしたから、まったく影響を受けることなく、道場は自分の今の状態を知るための舞台でしたから、相手さえいれば良かったのです。
それでも、先輩や先生の言う事を聞き流した分けではありません。何か言ってくれる機会があれば、それは一旦聞き入れ、腑に落ちるまで研究し、稽古しました。
今では、空手道は、「道」だと思っていますが、その当時は、あくまでも人をやっつける手段としてしか考えていませんでした。ですから、流儀に拘らず、相手に勝てればそれで良かったのです。今から考えれば、随分方向転換したものだと思います。
冒頭に「船頭多くして船山に上る」と書きましたが、お習字、書写に対しても同様の事が言えます。
必ず、文字の書籍には、鑑賞眼を養うため、色々な名筆と呼ばれているものに接し、目を養い、これを臨書する事を勧めていると思います。
しかし、それは、ある程度、自分の字が出来ている事が条件だと思います。いわゆる土台作りをしてからの方が、良いと思っています。
その時に問題になるのが、自分の字、書きぶりに執着してしまう懸念があります。それでも、初めに幾つもの手本を物色すると、訳が分からなくなります。
私は、
鷹見芝香 先生の文字を基準にしていますが、山下静雨先生の「ボールペン習字」と言う本も持っています。この本に書かれてある、「ひらがな」も少しずつ違う表現が見られます。「Section 2」の「あいうえお」にも、一口メモで
鷹見芝香 先生が、、『「これがほんとうのひらがなの姿だ」などと断定することはできません。』と書かれていますが、この断定できないという言葉を忘れないようにしながら、自分なりの基準を持っておかなくてはならないのでしょう。
では、いつものように一文字一文字、観察して、書いて見ましょう
「ら」と言う文字の特徴は、赤い点線の枠に上の部分を書く事です。 上達ポイント(Section 8)にも書きましたが、二画目の横線が特徴です。右上がりになり過ぎないよう注意が必要です。
そして、二画目の横線も「つ」と同じように、卵を指先で掴むような気持ちで書きますが、すこし「つ」よりも鋭角に左斜め下に最後の線を引くようにします。
この「り」は、難しい文字の一つで、簡単であればあるほど、形を整えるのに苦労します。
赤い枠線の四分の一ほどの枠を想像します。丁度赤い点線で書いた枠のように。そして左端からほぼ真直ぐに線を下に引きますが、その長さは縦の長さの半分より短めにした方が、右の縦線とのバランスが取りやすいと思います。
二画目は、一画目より少し低い位置から真直ぐ下に下ろしますが、縦の線の半分の位置より中心線に交わるように左斜め下に線を曲げながら引き伸ばします。その終点は、赤い点線の枠の左下になります。
「る」の文字は、「ろ」と似ていますが、イメージとしては、「ろ」は横長、「る」は縦長を浮かべると良いでしょう。
「る」の文字の特徴は、丸い大きい方の曲線です。横に長くならないよう、中心線からあまり離れない内に右側の曲線に変えます。この横線の長さが「ろ」と違いますので、注意することです。
最後の結びは、 上達ポイント(Section 6)の特徴を参照してください。
この「れ」も「わ」あるいは、「ね」と混同されやすい文字です。「わ」と違うのは二画目の位置です。「れ」の方が二画目が縦の長さを三等分した、真ん中より気持ち下目に書きます。二画目は左側と右側が離れていますが、離れなくても良いのです。しかし、離さない場合も、一旦線が途切れるように書くと流れがよくなります。右側の頂点からは、真直ぐに線を下します。そして右側のの最下点を過ぎたら右斜め下に線を曲げて終わります。この線は長くなりすぎないよう気を付けます。この線の終わりは一画目より上にする事がポイントです。
「ろ」は、「る」より右側にある楕円を扁平させて横広にする事が特徴です。
やはり、「つ」と同じで、卵を指先で掴む気持ちです。赤い点線は、線のつながりを表していますが、この線の間に卵があるイメージを浮かべると、良いでしょう。最後の線は中央線より右側で終わるようにして、あまり長く引き込まない方が、バランスが取れるでしょう。この「る」や「ろ」の文字は、手本によって随分違いますが、何度も書きますが、基準になるものを知っておきましょう。
【参考文献】
・鷹見芝香(1966)『ペン習字』 株式会社主婦の友社.
・山下静雨(1979)『ボールペン習字』株式会社ナツメ社.