【物毎尓春起古の無事奈し】、下の変体仮名が使われていると思いますので、「物毎にすきこのむ事なし」と読み、漢字を当てはめて、『物毎に好き好む事なし』とする事によって、少しイメージできると思います。
ここに書かれてある、『好き好む』と言う意味は、『独行道』21ヵ条の中には、同じような意味をもつ条項を、幾つか見る事が出来ます。
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⇒『身に楽しみを企まない』
「楽しみ」(信条)
〇『私宅尓おゐてのそむ心奈し』
⇒『私宅において望む心なし』
「望み」(住)
〇『身ひとつ尓美食をこのま須』
⇒『身一つに美食を好まず』
「美食」(食)
〇『末々代物奈留古き道具所持せ寸』
⇒『子孫に残す価値ある骨董品を所持せず』
「骨董品」(子)
〇『王か身尓いたり物い三春る事奈し』
⇒『我が身にいたり物は忌する事なし』
「持ち物」(衣)
〇『兵具八各別よの道具多し奈ま寸』
⇒『武具は格別の道具を慎む』
「嗜む」(生活道具)
〇『老身尓財寳所領もちゆる心奈し』
⇒『老身に財宝所領を持ちたい心なし』
「財宝所領」(経済力)
以上は、『好き好む』を否定する言葉と類似する条で、21ヵ条の7ヵ条にあたり、この『物毎に好き好む事なし』と言う言葉を入れると8ヵ条になります、三分の一を超える条項に、興味が惹かれる事を戒めています。
『物毎に』と断っていますので、全てのものが含まれると解釈できるのですが、あえて他の条項で、具体的な例を挙げています。
そこで、各条を分類してみる事にします。
そして、今回の文章は、(8)行動を表していると分類してみます。
(2)から(7)までは、次回以降に出てきますので、解釈はその時にする事にします。
だとすれば、今回の『物毎』については、総括的な事も含まれますが、武蔵が言いたいのは、自分の行動についての戒めであったのでは、無いでしょうか。この行動への戒めでは、二つの事が含まれていると考えています。
もう一つは、何事にも好き嫌いと言う、先入観で物を見ず、目の前にやらなればならない事があれば、邪推することなく手を付ける。と言った考えが浮かびます。
後者の方が、現在の社会生活をするのに、役立つ事だと思います。なぜなら、昔よりも知識が豊富になり、邪推する事が多くなっていると思うからです。
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空手でも、習う場合に一番大切なのは、素直な心です。 「教育」を考える!?でも記述しましたが、「瀉瓶」と言う精神状態が、結局、僅かな知識をひけらかし、変な口を挟むより、習得が早くなります。
これは、空手だけではなく、新入社員でも同じ事が言えます。まず、素直な気持ちで、会社の事、仕事の事を覚えて身に付けてから、考えるようにすれば、出世の糸口が見えます。
私は、何度か会社を変わっています。初めの頃は、会社の不具合が見えて仕方がなかったのですが、三か月程経ってみたら、何のことは無い、自分が入った事による不具合が目立っただけでした。
それ以後、新入社員や社員を教育する立場になった時には、必ず、話をします。
これが、「好き好むことなし」ではないでしょうか。
では、前者の解釈は、違うのでしょうか。私はすでに、古希を過ぎました。この年代になれば、取捨選択してから物事に取り掛かっても良いと思います。限られた人生を快活に生き抜くためには、必要な事かも知れません。
【参考文献】
・佐藤正英(2009-2011) 『五輪書』ちくま学芸文庫.
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