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「五輪書」から学ぶ Part-27
【水之巻】無念無相の打と云事

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   五輪書から】何を学ぶか?  

 無念無相と、書かれてあります。少なくとも20以上の写本でも同じように。書き写す時に間違ったとも思えません。普通、無念無想とは、「想」と言う字を書きます。「相」と書いた理由があったのではないかと、調べてみました。

 「相」とは、仏教用語で、一切の執着を離れた境地と言う意味もあります。一方、「想」の場合は、夢想書くのが一般的では無いでしょうか。

 夢想と言う文字をあてる場合は、「比較するものがないほどすぐれていること。並ぶものがないこと。二つとないこと。また、そのさま。無比。無二。無類。」(出典:出典|三省堂大辞林 第三版)とありますから、天下夢想とか無双などと使う事はあっても、意味合いから無念夢想とは書かないでしょう。ちなみに、無念夢想という、四字熟語は探しましたが見当たりませんでした。
 なぜ、夢想と言う文字に拘るかといいますと、居合術や杖術に、確か夢想流というものがあった記憶があったものですから、気になりました。

 また、と書いて、無我の境地に到達した状態を指すのが、仏教用語にあります。

 武蔵はこのあたりにも、こだわって言葉を選んだのかも知れません。

 「無念」とは、心に何も思わないことを表しますから、「無念」とは、一切の執着を離れ、心に何も思わない、心の在り方を言っていると思います。

 「無念無」にすると、悟りを開いた状態で戦う状態の心ではないと思ってしまいます。

 大変、勝手な穿った見方かも知れませんが、「勝つ利」に照らし合わせた時、そんな気持ちが湧いてきました。
(写真は、自由組手の瞬間です。右側が私です。相手は7段の礒田師範です。)

【水之巻】の構成

 1. 水之巻 序           
17. 無念無相の打と云事
18. 流水の打と云事
19. 縁のあたりと云事
20. 石火のあたりと云事
21. 紅葉の打と云事
22. 太刀にかはる身と云事
23. 打とあたると云事
24. 秋猴〔しゅうこう〕の身と云事
25. 漆膠〔しっこう〕の身と云事
26. たけくらべと云事
27. ねばりをかくると云事
28. 身のあたりと云事
29. 三つのうけの事
30. 面〔おもて〕をさすと云事
31. 心〔むね〕をさすと云事
32. 喝咄〔かつとつ〕と云事
33. はりうけと云事
34. 多敵の位の事
35. 打あひの利の事
36. 一つの打と云事
37. 直通〔じきづう〕の位と云事
38. 水之巻 後書
『原文』
17. 無念無相の打と云事 (原文を下記のルールに従って加筆訂正あり)
 敵も打ち出さむとし、われも打ちださむと思ふとき、身も打つ身になり、心も打つ心になつて、手はいつとなく、空より後速やに強く打つこと、これ無念無相とて、一大事の打ちなり。
 この
打ち、たびたび出合ふ打ちなり。よくよく習ひ得て、鍛錬あるべき儀なり。
加筆訂正のルール
                 *仮名遣いを歴史的仮名遣いに統一
                 *漢字は現行の字体に統一
                 *宛て漢字、送り仮名、濁点、句読点を付加
                 *改行、段落、「序」「後記」を付けた
 『現代文として要約』

 17. 無念無相の打と云事

 相手が打ち出そうとし、自分も打ち出そうと思う時、体も心も打つ準備が出来たら、手は自分も気付かない内に瞬時に強く打つ。これを無念夢相といい、重要な打ち方である。
 この打ち方は、度々ある打ち方である。よく習って、体得するため鍛錬するべきである。

 『私見』

 これは、一拍子とよく似ていますが、一拍子の場合は、相手が気づかない内に、自分の意志で行う打ち方ですが、この無念無相というのは、稽古を積んで、同じような状況になった時、反射的に、自分でも気付かぬうちに、打つという事です。

 一拍子の場合は、覚悟を決める事が重要になりますが、この無念無相の打ち方と言うのは、稽古の賜物と言って良いでしょう。

 これも、仕事をする上では重要な事柄です。臨機応変に物事を器用にこなす事も、大変重要な能力です。しかし、条件反射のように対応すると、相手もそれに乗せられてしまいます。物事を自分のペースで行う事も、成功の鍵と言えるのではないでしょうか。

 天賦の才能を超えるには、理に適った努力が最も有効な手段と思います。前にも書きましたが、『天才とは、努力する事ができる才能を持っている人』であると思っています。天賦の才能は、自分の意志で変える事はできません。しかし、努力は自分の意志で如何様にもなります。

 兵法でも、空手でも、現代人の戦いでもあるビジネスの世界でも、成功に導く方法は、多種多様です。ここでは、武蔵が色々な「勝つ利」を披歴しています。しかも、それは、単なる空理空論ではなく、実戦を通じて得たものだと、理解する事ができます。自分のやり方を、振り返る一言に、出会えれば幸せだと思います。

 【参考文献】 
・佐藤正英(2009-2011)  『五輪書』ちくま学芸文庫.


 
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