「五輪書」から学ぶ Part-21
【水之巻】表第二の次第の事

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   五輪書から】何を学ぶか?  

 何度か、「ルールが変わればゲームが変わる」と言っていますが、実際に刀と脇差を腰に差し、いつでも命のやり取りが準備されている状況下と、現在を比べようとしても、想像を超えるものがあったに違いありません。
 
 人は極限状態になれば、思わぬ力を発すると言われます。「火事場の馬鹿力」や「窮鼠猫を噛む」と言われるたとえの通りの事が、現実に起こります。

 このような、人知を超えた能力を発揮するために、真剣に稽古する必要があると思っています。

 私が東京の道場に通っていた頃は、故佐々木武先生(日本空手道致道会初代会長)が、よく「軍鶏の喧嘩のような組手はするな」と大声で言われていたのを思い出します。僅か五十年も経たないうちに、空手も様変わりしました。
 ただ、懐かしがっている訳ではなく、その真剣な稽古がもたらす成果が置き去りにされてしまったのではないかと、思います。

 安全を重視する事と、人知を超えた能力を得る事のはざまに、ジレンマを感じています。 

【水之巻】の構成

 1. 水之巻 序           
10. 表第二の次第の事
11. 表第三の次第の事
12. 表第四の次第の事
13. 表第五の次第の事
14. 有搆無搆の教の事
15. 一拍子の打の事
16. 二のこしの拍子の事
17. 無念無相の打と云事
18. 流水の打と云事
19. 縁のあたりと云事
20. 石火のあたりと云事
21. 紅葉の打と云事
22. 太刀にかはる身と云事
23. 打とあたると云事
24. 秋猴〔しゅうこう〕の身と云事
25. 漆膠〔しっこう〕の身と云事
26. たけくらべと云事
27. ねばりをかくると云事
28. 身のあたりと云事
29. 三つのうけの事
30. 面〔おもて〕をさすと云事
31. 心〔むね〕をさすと云事
32. 喝咄〔かつとつ〕と云事
33. はりうけと云事
34. 多敵の位の事
35. 打あひの利の事
36. 一つの打と云事
37. 直通〔じきづう〕の位と云事
38. 水之巻 後書
『原文』
10. 表第二の次第の事 (原文を下記のルールに従って加筆訂正あり)
 第二の太刀、上段に搆へ、敵打ち懸くるところ、一度に敵を打つなり。敵を打ち外したる太刀そのまま置きて、また敵の打つところを下より掬ひ上げて打つ。いま一つ打つも同じことなり。
 この表の内においては、さまざまの心持ち、いろいろの拍子、この表の内を以て一流の鍛錬をすれば、五つの太刀の道こまやかに知つて、いかやうにも勝つところあり。稽古すべきなり。
加筆訂正のルール
                 *仮名遣いを歴史的仮名遣いに統一
                 *漢字は現行の字体に統一
                 *宛て漢字、送り仮名、濁点、句読点を付加
                 *改行、段落、「序」「後記」を付けた
 『現代文として要約』

 10. 表第二の次第のこと

 第二の刀の構えは、上段に構え、敵が打ち掛かってくるのを一度に敵を打つ。もし、敵を打ち外した場合、刀をそのままにして、敵が次に打ってくるところを、下から掬い上げて打つ。また、敵が打って来ても、同じである。この構えがもつものは、様々な心持、色々の拍子、この構えの包含するところを知って、一流の鍛錬をすれば、五つの太刀筋を細やかに知る事ができ、如何様にしても勝つことができる。稽古するべきである。

 『私見』
 
 まだ、この段階で、結論を出すのは武蔵に失礼なので、もう少し、読み進めてみたいと思います。一つづつの項目には、項目の主旨があって、この項目でも一つの構えの外面のみを鍛錬する訳ではなく、鍛錬を通じて、相手に勝つ本当の理論を解き明かし、伝えようとしていると思っています。

 空手をやっている人は、この上段の構えは、剣術の構えであって、攻撃の準備であると、認識すると良いでしょう。
 『五輪書』を読み進めていく中で出てきますが、攻撃の要素を、「三つの先」と名付けて【火之巻】に書かれています。この攻撃の要素に合うようにして、相手の攻撃を受けるより速く、一撃で斬ります。

 薩摩藩を中心に伝わった古流剣術の 示現流(「五輪書」Part-20に記載)の極意のごとく、「一の太刀を疑わず」「二の太刀要らず」のごとく、ただ振り下ろすのみ、と聞いたことがあります。首里手の始祖と言われた、松村宗棍師は、薩摩藩で示現流を習得して免許皆伝を得たとされています。その影響が無かったとは言えないのではないでしょうか。

 空手でも、昔は一撃を信じて、突進するのが常でした。その一撃を、例えば追突きだとしたら、絶対に外さない自信ができるまで、練習したものです。

 【参考文献】 
・佐藤正英(2009-2011)  『五輪書』ちくま学芸文庫.


 
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