文武両道のために・・・・『徒然草』を読んで見る。【71】

 今日の文字は『琵琶びわ』です。今日読んで見ようと思う、『徒然草 第七十段』を読んで見て、感じた文字です。

原文 現代文を見る 琵琶

 
★ 昨夜ニュース速報で、大阪府警富田林署から逃走していた樋田淳也が山口県で逮捕された事を知りました。約1ヵ月半かかりましたが、取りあえず安堵します。

 今朝、大阪府警の広田本部長は「約1カ月半、全国の皆様に大変な心配と不安をおかけし、改めて深くおわび申し上げます。」と謝罪の言葉がありました。

 よく聞く言葉ですが、二度とこういう不祥事は聞きたくないと思います。

★ さて、台風24号、太平洋沿岸を北東に進むのか、それとも四国から近畿を抜け、本州を縦断するつもりでしょうか。まだまだ予断を許さないような動きをしています。暴風雨圏が広い範囲なので注意しましょう。
 
 さぁ、今日も一日元気で過ごしましょう。

 
徒然草 第七十段 〔原文〕

 元應の清暑堂の御遊に、玄上は失せにしころ、菊亭きくてい※の大臣、牧馬をたんじ給ひけるに、座につきてまづぢゅうさぐられたりければ、ひとつ落ちにけり。御懐に續飯そくひをもち給ひたるにて付けられにければ、神供じんぐの參るほどに よく干て、事故ことゆえなかりけり。

 いかなる意趣かありけん、物見ける衣被きぬかづきの、寄りて放ちて、もとのやうに置きたりけるとぞ。

 

 

『現代文』

 まず、我流で現代文にしてみましょう。

 『元応の時代(1319年から1320年)に行われた、清暑堂せいしょだう※御遊ぎょいう※において、玄上という琵琶の名器が無くなってしまったころ、菊亭きくてい(今出川の別名)がもう一つの名器、牧馬を弾いた時に、座って最初にじゅうを確認したが、一つのじゅうが取れてしまった。懐に持っていた、續飯そくひで付けたが、神様へ供え物がされている間に糊が渇いて、事なきを得た。

 どのような恨みがあったのか、見物していた頭から衣を被った女性が、じゅうを壊してもとのように置いたそうである。 』

【参照】
清暑堂せいしょだう※:平安京の大内裏(だいだいり)の豊楽院(ぶらくいん)にある殿舎の一つ。大嘗会(だいじようえ)などの儀式の後、神楽(かぐら)を行う。「せいそだう」とも。
御遊ぎょいう※:天皇や貴人などが催されるお遊び。特に、管弦の遊び。
續飯そくひ※:(飯粒を練って作った)糊(のり)。
(出典:学研全訳古語辞典 学研.)

 

 

琵琶びわ

 「琵琶の名器損壊事件」「犯罪の陰に謎の女性」と言うような題名と副題がつきそうなドラマが作れそうです。

 それにしても、玄上という琵琶の名器にしても、「失せにし」とありますが、盗られたのでしょうか、それとも失って、見当たらないのでしょうか。

 名器と言う割には、保管が十分でないと言うのか、のんきな時代を想像してしまいます。

 貴族の社会ですから、現在とは価値観が違うのでしょうね。無くなればまた造れば良かったのかも知れません。現在では考えられない光景です。

 牧馬と言われる琵琶の名器も、名器であれば保管するのも、もう少し丁重に扱っても良い気がします。

 じゅうと言うのは、ギターで言えばフレットと言われる部分ですね。そのじゅうじゅうの間、もしくは、そのじゅうを指で押さえる事によって音階が変わるのでしょう。

 琵琶と言う楽器を触った事も、実際に見た事もありませんが、写真で知るだけです。

 見た感じ、構造は簡単なように見えますが、造りやその曲線は、正に芸術と呼べるような趣があります。装飾も凝ったものは、貝が埋め込んであったり、漆で表面を塗り、光沢のある物もあるようです。

 取扱いと言えば、牧馬と言う琵琶も、監視も無くその辺にほったらかしにしてあったのでしょう。見物客が簡単に触れるのですから、しかも壊しても気が付かないなんて、今では、まるでサスペンスの舞台です。

 謎の出来事ですが、当時は簡単に名器と呼ばれるような物にも、一般の人が触れられたのかも知れません。

 もちろん、天皇や貴人などが催されるお遊びとありますから、一般の人と言っても、貴族なのでしょう。

 「物見ける衣被きぬかづきの」と原文にありますから、衣被きぬかづきと言うのは身分の高い婦女子の外出着と思いますから、一般人と言っても現在の一般人では無い事は推測できます。

 であれば、なおさら、この行動が謎に包まれます。

 「菊亭きくていの大臣」と原文にありますから、琵琶の名手であり、太政大臣であった、今出川兼季いまでがわかねすえが該当すると思います。

 またまた、下衆の勘繰りにしかならないかも分かりませんが、この牧馬と言われる琵琶の名器を壊した謎の女性は、今出川兼季いまでがわかねすえに何らかの遺恨があったと考える事にします。

 その遺恨と言うのは、そんなに根深くは無いと思います。と言うのは、根深いと相手を殺すなどという事を考えると思いますが、この場合は、考え方ですが、 悪戯いたずらに過ぎないと思います。ただ、これも、場所が場所ですし、もし演奏の途中で中断する事にでもなれば、相当の失態になるかも知れません。

 と考えると、その遺恨は女の怨恨えんこんという事も考えられます。

 ますます下世話な話になって行きそうです。

 例えば、この謎の女性が、琵琶の名手、今出川兼季いまでがわかねすえ元カノだとしたら、振られた腹いせに、こんな悪戯いたずらをしたと考えられませんか。

  しかし、今出川兼季いまでがわかねすえが大臣とありますから、始めて右大臣に任ぜられた年が41歳以降、51歳に太政大臣から57歳に出家するまでの間と思われます。

 今出川兼季いまでがわかねすえが妻帯者であった事は記録に見られますが、いつ婚姻が成立したものか、分かりません。

 この時代では、正室に西園寺公顕の娘(出典:ウィキペディア)となっていますので、他にも側室がいたのかも知れません。

 であれば、元カノと言う分けでもなさそうです。ますます、ミステリアスな物語です。

 しかも、私は、謎の女性が壊して、それに気が付いて今出川兼季いまでがわかねすえ續飯そくひで修理して事なきを得たと読み解きました。

 文章的には、倒置法とうちほうと言う手法で書かれているのでしょう。
 (倒置法とうちほう:文において、普通の語順と逆にして語句を配置し修辞上の効果をあげる表現方法。【出典:大辞林第三版 三省堂.】)

 しかし、この時系列的な読み方が間違っていて、先に今出川兼季いまでがわかねすえが琵琶を確認している時に、触って壊れてしまい、續飯そくひで修理した後に演奏を終え、また牧馬と言う琵琶の名器を置いておいたのを、謎の女性が新たに壊した。としたら、何のために壊したのか、それこそ謎の女性の意図が分からなくなります。

 もしかしたら、ただの好奇心で名器に触って見たかったのかも知れません。

 と、ここまで憶測、推測、邪推を重ねてみましたが、やはりこの文章も当時の様子をただ表現しただけの文章だったのかも知れません。

 結局のところ、謎の女性の意趣も分かりませんし、兼好法師の意図も理解できずにこの段を終わる事になりました。