空手道における型について【19】
抜塞大 20~42

 

 文章の青字で記述したものは、現在、日本空手道髓心会で行っている方法です。しかし、これも全日本空手道連盟の指定の方法がありますので、これに従って練習しているのが実情です。これについては、記述していません。
 なお、緑字で記述したものは、原点に戻した方が合理的と思われるところです。

 昭和10年当時まだ立ち方、受け方、突き方の名称が定まっていなかったと思われる記述があります。この場合も現在の方法として、青字で書く事にします。現代文にしても意味が分かりにくい部分については、赤字で追記するようにしています。同じく、写真(『空手道教範』にある)を参照の部分については、赤字文章で分かるように追記しています。『空手道教範』に掲載の写真は著作権の関係もあると思いますので、載せていません。
〔ページを遡る煩わしさを避けるため、説明部分は、前回までと重複して記載しています。

 

「一口メモ」

 バッサイ百、あるいはパッサイ百と言う言葉を聞いたことがあります。昭和56年、所属していた日本空手道連合会の当時の理事長澤部滋先生の発案で書籍を発行する事になりました。連合会の特徴でもある、色々な流儀が集まっていることから、「パッサイ・バッサイ・抜塞・抜砦」と題しています。
 収録の内容は、知花のパッサイ・多和田のパッサイ・松村のパッサイ・親泊のパッサイ・松茂良の抜塞・喜屋武のパッサイ・本部のパッサイ・松茂良(泊)の抜塞・石嶺の抜塞・糸洲の抜砦・松濤館の抜塞と11の違ったパッサイを収録する事ができました。
 この書籍は昭和57年に再発行されています。

 

抜塞大ばっさいだい-20~42

「空手道教範」では、抜塞初段となっていますが、現在の名称を記載しました。
今回は、抜塞大の後半です。前半部分は、 抜塞大前半を参照してください。

20.両足そのまま左廻りに後を振り向くと同時に、左手刀中段受け、右手は胸前に。

21.左足そのまま、右足第二線上後方に向って一歩踏出すと同時に、右手刀中段受け。左手胸前に。


22.左足そのまま、右足を左足に引きつけると同時に、(22)のように諸手上段受けの姿勢をとる。
(注)左右の拳を頭上に構え、左右手首に敵の上段諸手突を受ける心持である。
『髓心会では、(22)の左にある写真のように、一旦膝を曲げて伸びあがるように両方の手で上段上げ受をしています。』

23.左足そのまま、右足一歩第二線上後方に踏出す(前屈)と共に、頭上の両拳を、あたかも物を引裂くような勢いで左右に30cm位開くと直ぐに、大きく左右に半円を描くように廻して(手甲を外にして)(23)のように手槌にて前方中段を挟み打つ(この時手甲は下になる)。手足同時に極るように。
(注)敵の諸手突を諸手で受けると直ぐに、これを左右に押し開きざま一歩踏込んで敵の両脇腹を手槌にて挟撃する心持。
『手槌と言うのは拳を握った状態の、小指側の手首に近い膨らんだ部分の事です。』
『髓心会では、(23)の左の写真で一旦両手を30cm程度引き裂くように開き、そして、相手の脇腹に円を描くように横から打ち込んでいます。手槌と言う部分は、鉄槌と呼称しています。』

24.姿勢そのまま寄足にて進みながら、左拳腰に引き、右拳にて中段突き。
(注)脇腹を挟撃されて驚き退く敵を、すかさず追いかけて突止める心持。
★ここで言われている寄足については、 「心・技・体」の「技」に詳しく書きました。

25.両足そのまま、上体を左に廻して第二線前方へ振向くと同時に、右手刀を下段に打込み、左手(開いたまま甲下)右肩前にとる(右手が下になる)と直ぐに、左右の手を互に握りしめながら引張るように右拳にて右方上段内受け、左拳にて左方下段受けすると共に、左足を右足に引きつけて立つ。顔は左方(第二線前方)を向く。平安五段の(6)(21)(22)を参照せよ。 平安五段前半 平安五段後半

26.左足そのまま、右足を第二線前方に踏出すと同時に、右拳にて右方(第二線前方)下段払、左拳を腰にとる。顔は右方に向けよ。

27.両足の位置そのまま、顔を左方(第二線後方)に振り向けると同時に、両手を胸前に交叉して(右が上)互に引張るように(弓を引く様な心持で)左手(開いて掌を前)左方に伸ばし、右拳は腰に。

28.左足を軸とし、右足を三日月形に飛して、伸した左掌を蹴り左足をその場(第二線後方、即ち(27)の姿勢に於ける左手の下)に下ろすと同時に右猿臂を使う。この時騎馬立となる。蹴る時に左手を下げないよう注意せよ。平安五段(15)を参照せよ。顔は正面(第二線右方)を向く。 平安五段後半

29.位置、姿勢そのまま、右拳を下に伸ばすと同時に、左手はその場(胸の前)にて握る(左右共手甲前)。
(注)右手にて下段を受けたる心持。左拳は水月を護る意味。

30.位置、姿勢そのまま、左拳を下に伸ばすと同時に、右拳を胸前にとる。この時下す手は内側を通るようにせよ。

31.位置、姿勢そのまま、右拳を下に打伸すと同時に、左拳を胸前にとる。(29)と同じ姿勢。

32.両足の位置そのまま、右足前屈になると同時に、左右の拳を左腰に重ね(左拳は甲下に、右拳は甲を前にして左拳の上に)、顔は右方(第二線後方)を見る。

33.位置そのまま、左拳にて上段突(甲上向)右拳にて下段突(甲下向)同時に突出す。右拳先が垂直に揃うように。(35)の反対の姿勢である。

34.左足そのまま、右足を左足に引きつけると同時に、右拳を右腰に左拳をその上に重ねる(右甲下、左甲前)。

35.右足そのまま、左足を一歩第二線後方に踏出すと同時に(前屈)(35)のように、右拳上段(甲上)左拳下段(甲下)に突込む。

36.右足そのまま、左足を右足に引きつけると同時に、両拳を左腰に重ねる。
左足其のまゝ、右足一歩踏出す(第二線後方へ)と同時に、左拳上段(手甲上)・右拳下段(手甲下)に突込む。(33)から(37)までは例の三回繰返してある。この手
は前髪を捕られた時の攻撃法である。引き寄せられた頭はそのまま、敵を見つめて、人中と下腹部に諸手の攻撃をなす。いわゆる「皮を切らせて肉を切る」の戦法である。
『髓心会では、(34)と(35)、(36)と(37)の間に足の裏で、鉄騎初段の波返しのように相手の蹴りを受ける動作を継承しています。』
『この動作は、原点に戻して素直に足を出す方が理論的だと思います。』

37左足そのまま、右足一歩踏出す(第二線後方へ)と同時に、左拳上段(手甲上)・右拳下段(手甲下)に突き込む。
(注)(33)から(37)までは例の三回繰返してある。この手は前髪を捕られた時の攻撃法である。引き寄せられた頭はその、敵を見つめて、人中と下腹部に諸手の
攻撃をする。いわゆる「皮を切らせて肉を切る」の戦法である。
『髓心会では、(35)(37)の姿勢は前かがみになります。これは、「空手道教範」でも、前髪を取られた時と記載がありますが、私が習った頃には、真直に立つのが主流でしたが、佐々木武先生から、前髪を取られて引っ張られるのについて行くようにして攻撃すると教わりました。』

38.右足を軸として、左足を引いて第一線上に左右の足を並べて(間隔広く)立つと同時に、右拳を上より左下へ円を描くように廻しながら下段内受けをする。この時左拳は腰に引き、左肩を十分後へ引き、右肩が前に出るよう。左足は自然に前屈になる。
ここで言う前屈とは、前足を自然に曲げることで、現在足の位置まで規定している前屈立とは違います。ですから十分に腰を落とした低い姿勢になります。

39.両足の位置そのまま、右拳を腰に引き、右肩を後ろに引くと同時に、左拳を肩の前より大きく右下へ円を描くように廻して下段内受けをなす。この時左肩を前へ出して半身になること(38)に同じ。足は自然右足前屈となる。
(注)この手は敵の足を掬い受けると直ぐに、これを振り捨てる意味なので、その心持で゛低く受けることが肝要である。
この振り捨てをする場合は、身体の中心がしっかり鍛えられていないと、態勢を崩します。その意味でも実際に相手をつけて稽古する必要があります。

40.左足を中央まで寄せ、右足を第二線前方に進める(左足後屈)と同時に、右手刀受、左手胸前に。顔は前方に向ける。

41.左足そのまま、顔を左斜に向けながら、右手、右足を手刀受の姿勢のまま第一線上に移す。

42.顔そのまま、右足を少し左足に引きつけ、左足を左斜めに進めると同時に(右足後屈)左手刀受、右手胸前に(手刀受の姿勢は平安初段を参照せよ)。

「考察」

 40.41.42.の動作を「空手道教範」の文章から解析すると、41.の手刀受から右足を第一線上に移すと言う言葉は、第一線は、これまでの演武線に対する表現から、狭い範囲を固定する言葉では無い事が解りますので、様々な解釈が可能だと思います。
 私は、41.の「左足そのまま」と言う言葉と、同じく41.に記載の「顔を左斜めに向けながら」という言葉にポイントを置くと共に、42.の「右足を少し左足に引きつけ」、と言う文言から、継足の運足と考えました。継足をスムーズに運ぶためには、右足の指先が左足に対して開き過ぎていることは、運足上難しいと思います。ですから、この着眼方向に対して左足が前、右足が後ろの後屈立をイメージしています。であれば、写真のような右後屈立ちの形になると思います。
 しかし、41.にある「右手、右足を手刀受の姿勢のまま」と言う言葉通りに形を作れば、左足後屈の立ち方になると、思っています。
 私が所有する松濤館流関係の蔵書の中では、すべて右足の爪先が第一線と思える方向に向いて左足後屈の立ち方、あるいは、右側斜め後方へ右足の爪先が向く左足後屈の立ち方になっています。どちらも、この文章から読む事もできますが、私は、右足後屈で型を稽古していますし、昭和57年9月23日に日本空手道連合会発行の「パッサイ・バッサイ・抜塞・抜砦」の書籍では、右足後屈の写真を掲載しました。
 このさい、原点に戻すと言う意味で、左足後屈に戻そうと思っています。そして、右足を第一線上と言う言葉を右後ろ側と捉えて、最後の右後屈立、左手刀受の後方延長線上に右足を引きたいと思います。しかし、この場合には、左足の位置はそのままではなく、上足底の土踏まず側を中心に右回りに回転し左足後屈立の足の向きに移動させます。この場合でも左足の位置は同じになります。

(直れ)直れにて、右足そのまま、左足を右足に引きつけると同時に、両手は用意の姿勢に復する。

演武線ではイメージが湧きにくいと思いますので、実際の足跡をたどってみました。ここでは、黒の塗りつぶしの足形と黒枠の足形が後半になります。
 次回は、観空大序盤を掲載します。

【参考文献】
・富名腰義珍(1930)『空手道教範』 廣文堂書店.
・富名腰義珍(1922-1994)『琉球拳法 唐手 復刻版』 緑林堂書店.
・Gichin Funakoshi translated by Tsutomu Ohshima『KARATE-Do KyoHAN』KODANSHA INTERNATIONAL.
・杉山尚次郎(1984-1989)『松濤館廿五の形』東海堂.
・中山正敏(1979)『ベスト空手6 抜塞・観空』株式会社講談社インターナショナル.
・中山正敏(1989)『ベスト空手6 抜塞・観空』株式会社ベースボールマガジン社.
・内藤武宣(1974)『精説空手道秘要』株式会社東京書店.
・金澤弘和(1981)『空手 型全集(下)』株式会社池田書店.
・笠尾恭二・須井詔康(1975)『連続写真による空手道入門』株式会社ナツメ社.