お習字から書道へ Section 6

 「漢字」には、部品の組み合わせ、すなわち、「つくり」「へん」などが組み合わされて文字を作っています。
 
 ひらがなは、簡単なように思えますが、そういう字の形を作る基準がはっきりしません。

 ここでは、便宜上、一画目とか二画目と言う言葉を使っていますが、参考にしている『ペン習字』では、単に縦線とか点とか、横線などの書き方をしています。ですから、書道界では、アウトかも知れません。ただ、便宜上と言うか、説明するのに分かりやすいので、これからも一画目、二画目と書く事にしています。

 それでも、部品と言えるのか分かりませんが、ひらがなには、線が結ばれているところがあります。「あ」とか「の」等のように大きく結ばれている線と、今回出てくる「な」等のように小さく結ばれている線が交わる文字があります。この結び目を知っておくことも、一つのピースを持っている事になりますから、非常に有利になります。是非、「上達ポイント」を読んで覚えてください。 

 鷹見芝香たかみしこう  

 文部省高中学校書道学習指導要綱編集委員(硬筆習字)。
 全日本書道教育協会総務。
 東京都中学校書道研究会副会長。
 日本書作院同人。
 東京都立豊島高等学校講師。
出典:ペン字いんすとーる(http://cumacuma.jp/review/review_index/pen_life/)

 

 では、一文字一文字、観察して、書いて見ましょう。今日は「なにぬねの」です。

 「な」と言う文字の特徴は、赤い点線の枠で書かれているよう菱形です。この文字は、字源である漢字「奈」を想像できれば、最後の結びの位置が思い浮かべられるのではないでしょうか。
 形の取りにくい字ですが、三つの部品の組み合わせと考えて、三つの部品を少し縦長に、そして各々の間に適度な空間を持たせると、図のような形になると思います。

 「に」の特徴はほんの少し縦長の長方形に書くようにします。赤い点線の枠内に書くと良いでしょう。
 この字のポイントは、左側と右側に分けて、その間に空間を取る事が大切です。そして、二画目と三画目は、赤い点線の枠の内側に配置するようにすると、綺麗にバランスが取れます。

 「ぬ」の文字は、「あ」の作り方と似ていますが、非常にバランスの取りにくい文字だと思っています。
 右側の部分が大きくならない事、そして右側との間を広くとることが大切ですが、私が気を付けているのは、左から右に上がる線の上がり方に注意しています。気持ちでは上がると言うより、水平に書くつもりで少し、字が扁平になるようなイメージで書いています。結びは赤い破線の円弧を考えて、左斜め下に引いてから結びを書くようにします。結びの形は目で見て覚えるようにしますが、この図のように、左斜め下に引いた線を、右斜め上に少し上げてから、横に引くようにして、右斜め下に線を下すようにすると、上手く結べます。

 「ね」は、横広にならないよう、赤い点線の枠を想像して書くようにしましょう。
 一画目も、この図のように、殆ど垂直の線を書きますが、ほんの少し左側に膨らんでいます。そして、縦の線の始まりより終わりが右側によらないようにします。要するに左に傾かないようにします。
 縦線に引っかかるように二画目を書きますが、やや右上がりに書きだし縦線にぶつかると左斜め下に下し、赤い点線の枠で返します。このやや右上がりにする時の線は、上に膨らみ、下に行く線は下に膨らませ、また上に行く線を上に膨らませるイメージで書きます。しかし、実に僅かに膨らますのがコツです。
 三画目と言えば良いのか迷いますが、右側の書き始めは、二画目と繋がっていると思って書き始めます。二画目で休んでしまわないようにすれば上手く書けます。赤い点線に当たる直前で右斜め下に下ろし、丁度縦の長さを二分割したところで、今度は左下に下ろします。そして結びに入ります。結びの種類は「上達ポイント」に書いておきます。

 「の」は、小さめに書くことが重要な文字です。一画目と二画目の交叉する位置が、丁度中央の線になるように書きます。
 「つ」と同じで、左下へのまがりを赤い点線の楕円があるような気持ちで、この楕円を潰さないよう、落とさないよう書くと、図のような円弧が書けると思います。

 
 上達ポイント  

 「ね」の所で、結びの種類について言及していますので、結びと言う事について、上手く書くための知識を書く事にします。

 あくまでも、ここでは、楷書風という事、そして、鷹見芝香たかみしこう先生の文字を手本にと言う事で理解してください。現在通信教育で東京書道教育会の指導を受けて、各種の課題、あるいは各段階に応じた手本や小冊子に書かれてある方法とは、かなり違う事もありますが、まず一つの手本で練習する事が、上達への近道です。初めのうちに知識だけ広くしても、実際に文字を書く時に迷いがでてしまいます。

 「お」「す」「な」「ぬ」「ね」「は」「ほ」「ま」「み」「む」「よ」「る」「ゐ」「ゑ」の14文字に結びが見られます。
 これを分類しますと、「お」「な」「ね」「ほ」「み」「ま」の6文字、「ぬ」「は」「よ」「る」「ゐ」の5文字、そして、「す」「む」「ゑ」に分ける事ができます。
 代表を、(1)「ま」(2)「よ」(3)「む」にして、図を見て見ましょう。

 赤線で交点と書いてあるところを見てください。違いは一目瞭然です。
 (1)を代表する「ま」は交点を過ぎても下に線が伸びています。
 (2)を代表する「よ」の場合は、交点から横に線が伸びます。
 (3)を代表する「む」は、交点から線は斜め下に伸びながら上に丸みを付けます。
 ただし、これは、原則として覚えておいてください。例えこのように書かれていなくても、美しい文字は存在します。この事も頭において、人の字を批判する事はやめましょう。墓穴を掘る事になります。

 

 一口メモ  

 今回も『ペン習字』(鷹見芝香たかみしこう著)に書かれてある文章を引用してみます。

 『「文字なんかへたでも、頭さえよければ」と思っていませんか。才能のきわだってすぐれた人や科学的な頭脳の持ち主の中には、ともすると文字を軽視する人があります。こういう人が書く文字は、直線的でドライな感じがします。曲線であらわすべきところも、すべて直線でまとめ上げてしまいます。何事でもすべて直截に割り切ってしまうような感じがして、近よれないものがあります。』

 私には中学生の時に親友がいました。今は疎遠になっていますが、彼が「字なんか読めればいい」といつも言っていました。彼の母親は、美しい文字を書く人です。
 彼は、その頃から頭の良い人でした、多分天才でしょう。IQが確か150以上でした。中学の時のテストで、1000点満点で980点以下を取った事はないと記憶しています。通常は990点台だったと思います。
 それでも、いつも一緒に遊んでいましたから、テストの前はいつも彼の家に泊まって、勉強しました。彼は次の日の試験勉強は、帝塚山から天王寺までのチンチン電車で往復して終わり。良く遊び、勉強もせず、京都大学の原子物理学科を卒業して、日立に就職しました。

 確かに彼の字は決してうまくはありません。直線的かどうか、もう覚えていませんが、近寄れない感じの人物ではないと思います。人懐っこくて、私の両親も気に入っていて、私が東京に行っている間も、私の部屋に来て、漫画を読んで帰ったと聞きました。私にとってはかけがえのない友人です。

 私自身は、綺麗な字を書ければ良いと思っている方ですが、ここで言われているような印象は持っていません。

 何かの分野で人を十把一絡じゅっぱひとからげに扱うのは如何なものでしょうか。「英雄色を好む」 と同じで、色を好むから英雄とは言えません。

 「偉い人は、よく本を読む」と言われれば、なるほどと頷く事もできますが、本をよく読むから偉いとは限りません。

 「一芸に秀でる者は多芸に通ず」と一括りにはできません。一芸だけに秀でている人もいれば、多趣味多才であるがゆえに、多芸は無芸、器用貧乏に終わる人もいます。まるで自分の事ですが。私の場合は、多才と呼べるほどの才能もないのですが、ある程度できると、器用貧乏になってしまいます。

【参考文献】
鷹見芝香たかみしこう(1966)『ペン習字』 株式会社主婦の友社.