『礼と節』を表現してみよう。 Part-21 4. 『礼節』として伝えられている作法-----【ビジネスマナー 続文書】

『礼節の作法』目次
1.礼の仕方  座礼  立礼
2.食事の仕方   和食  洋食
3. 座席の順序
4.ビジネスマナー 続文書  名刺  時間  文書
5.参列の仕方
6.しつけ
7.和室での礼儀
8.洋室での礼儀
9.同席の仕方
10.気配り
11.立てるという事
 ビジネスで取り扱う文書には、相手と後日に争いごとの起こらないよう、契約を結ぶ必要があります。その時に必要な文書が、契約書です。
 契約書に限らず、文書管理をする必要のある文書には、必ず何らかの印鑑が必要です。
 上にある印影(印鑑を紙に押印したもの)は、小さい丸い印鑑(前に経営していた会社の会社印)を除いては、落款(書画などに押す印鑑)で、すべて自分で彫ったものです。一番大きな角印は、日本空手道髓心会の師範免状に押している印鑑です。実際の大きさは6cm角ほどです。

 知っておかないといけないのは、認印であろうが、実印であろうが、効力に変わりがない事です。もっと法律的な立場で言うと、契約書がなくても、契約は成立するという事を知っておく必要があります。

 要するに契約をしようとする場合は、双方が同意すれば契約は成立します。双方の意思表示が合いさえすれば良いのです。例えそれが双務契約であっても、片務契約であっても意思が問題になります。ちなみに、双務契約と言うのは、双方に履行の責任が発生しますが、片務契約では一方のみ履行の責任が発生します。

 しかし、私の家でも幼いころから、実印を押す時は十分注意するように言われて育ちました。 

 では、なぜ実印なのでしょう。これは、契約が正当になされたかを、確認するために必要な事なのです。要するに、契約が双方の意思でなされたかどうかを、後で確かめる方法として、署名や署名捺印、あるいは記名押印しておくのです。そして一番確かな方法が、実印という事になります。
 実印はその印鑑を市役所や区役所に印鑑登録して初めて実印になります。印鑑証明(印鑑登録証明書)を添付すれば、本人の意思である事が原則的には、証明する事が可能であるとされています。
 もちろん念のため公正証書にすれば、もっと証拠能力は上がります。これも、色々公序良俗に反する行為の上であれば、覆ることになりますが、実印と言うのは、認印とは違い印鑑証明を発行してくれる第三者を介在させる事ができますので、有効な手段となります。
 ですから、ハンコ屋さんで実印を作ったから、実印と言う分けではありません。ハンコ屋さんでは、実印は売っていません。実印を登録するのに適したものを売っているのです。たとえ認印用のハンコでも、印鑑登録をすれば実印です。しかし、同じものが簡単に作れるようなものは実印には適していません。

 これが会社の場合やや趣が違います。会社の印鑑には、会社実印、会社銀行印、そして角印(社印)があるのが一般的です。
 先ほど書きましたが、契約書の効力については同じです。しかし融資を受ける場合など、銀行から会社実印と会社銀行印の両方が求められます。
 注文書などは会社名の上に角印を押し、担当者の認印を押す場合が多いと思います。
 ここで、個人の実印と違うのは登録する場所です。届け出先は管轄の法務局に会社設立と同時に届ける事になります。銀行印は個人と同じで銀行に届ければ良いのです。角印はどこにも届ける必要がありません。
 このようにハンコを分散するのはリスク回避のためです。

 では、ハンコの押し方です。
1.印鑑証明書を添付する必要のある書類の場合は、氏名に重なってはいけません。これは個人でも会社でも登録した印鑑、実印を押します。        
2.印鑑証明書をつけない場合は、偽造されないよう氏名の最後の文字に少し重ねます。この場合は認印を押す事を勧めます。 3.角印だけを押す場合は、印鑑証明書をつけませんので、2.と同じです。

4.会社の場合は、角印実印を押す場合もあります。その時は、実印は1.の方法で、角印は会社名と代表者名に重ねて押すと良いでしょう。5.印紙に押す場合は、印紙税を払った証拠ですから次に使えないよう印紙の端に重ねて押します。これを消印と言います。
 契約書に押す消印は、契約書に使用した実印でなくても、また他の人でも構いません。署名でも構いませんが、線で消すのいけません。誰が消印したかを明確にしましょう。

6.訂正印明確なルールがあると書いてあるホームページがありましたが、商習慣やマナーで一般化されているだけだと思います。しかし、中には「遺言書」(図3)
などのように、法律で規定されているものもあります。
 また、色々な業界では常識とされている訂正印の押し方があり、これを明確なルールとする事に異存はありません。
 また、商業登記では、商業登記規則48条3項のように明文化されたものもあります。(図2)
 訂正印ですから、文書や契約書など書き間違えた場合、文字を追加したり削除したり訂正する時に、元の文字に二重線を入れて消してハンコを押します。これを訂正印といいます。

 捨印と呼ばれる印鑑を押す場合があります。これも文字の間違いを訂正する場合に使います。これには注意が必要です。通常の契約の場合は、双方が同じ契約書を持つ事になりますから、何かの時に原因証書になる可能性がありますが、捨印は欄外に何も書いていない状態で、印鑑だけを押しておきます。
 登記などを行う時に行政書士などに依頼する場合、捨印があれば、どの部分も訂正可能になります。ですから、余程相手を信頼するか、捨印が押してある同一の書類を持っていて、その両方に契印または割印が押してある事が必要です。
 無造作に、「捨印御願いします」と言う人がいますが、その危険度を承知の上で言っているのか、それとも全く知らないか、疑問に感じる時もありました。
 できれば、訂正しない方が良いのですが、印紙は数万円もする物もありますし、複数の人が印鑑を押しますので、このような訂正方法ができたのでしょう。
 
7.契印割印 袋とじと言うのは、契約書など複数枚ある場合、これを一つにまとめてホッチキスで止めたり糸で縫ったりしてから製本する事を言います。
 このホッチキスで止めた部分を袋とじ用テープなどで糊付けして、簡単に取れないように製本した状態を言います。このホッチキスの上に糊付けした紙と契約書の表紙または裏表紙をまたぐように押すハンコの事を契印と言います。

 契約書が1枚の場合でも、通常当事者が複数いますので、同じものが2枚できます。これをずらして一枚目と二枚目をまたぐようにして押すハンコの事を割印といいます。契約書が複数で、かつ袋とじをしていない場合は、1枚目と2枚目、2枚目と3枚目を開いた状態で、どちらもまたぐように押印することも割印と言います。

 ここでのハンコの押し方は、法律的に効力はないものの、後々紛争があった場合に原因を確認するために押しますから、偽造や錯誤の起こらない方法を紹介しました。

 これも、日本特有の文化と言っても良いかも知れません。最近は自筆署名が頭角を現してきました。国際的になって来たのかも知れません。

 ちょっと知っておきたい蘊蓄(うんちく)を一つ。署名したものに印鑑を押す事を捺印と言います。記名(ゴム印や印字した名前)に押された印影の事を押印と言います。ただし、知識だけに留めて下さい。人の間違いを指摘するための知識ではありません。何事も『礼節』に適う言動を心がけましょう。