空手道における型について【26】
慈恩 18~30

 

 文章の青字で記述したものは、現在、日本空手道髓心会で行っている方法です。しかし、これも全日本空手道連盟の指定の方法がありますので、これに従って練習しているのが実情です。これについては、記述していません。
 なお、緑字で記述したものは、原点に戻した方が合理的と思われるところです。

 昭和10年当時まだ立ち方、受け方、突き方の名称が定まっていなかったと思われる記述があります。この場合も現在の方法として、青字で書く事にします。現代文にしても意味が分かりにくい部分については、赤字で追記するようにしています。同じく、写真(『空手道教範』にある)を参照の部分については、赤字文章で分かるように追記しています。『空手道教範』に掲載の写真は著作権の関係もあると思いますので、載せていません。
〔ページを遡る煩わしさを避けるため、説明部分は、前回までと重複して記載しています。

 

慈恩じおん-18~30

 今回も慈恩ですが、序盤に引き続き中盤を掲載します。序盤は、 慈恩序盤を参照してください。

18.右足そのまま、左足を第三線上に移すと同時に身を躱しながら(後屈)右手下、左手右肩前(掌を上)より互に上下に引張る。
『髓心会では、後屈立で立ちます。』

19.左手を捩じ上げながら寄足で騎馬立となり、右拳を水月の前約15cmに(拳甲上)左拳腰にとり左を見る。
『髓心会では、18.の後屈立からやや寄り足をしながら騎馬立になります。』
20.左足そのまま、右足一歩第三線上左方に進めると同時に左足後屈となり、右手上、左手下より互に引張る。
『髓心会では、後屈立で立ちます。』

21.寄り足しながら右手腰に捩じ上げるように、左手で突く気持ち(騎馬立初段参照)。
『髓心会では、18.の後屈立からやや寄り足をしながら騎馬立になります。』

22.右足そのまま、左足を第二線に移すと同時に、右手は下から左手は上から、互に引張るように左拳下段払いをする。右拳腰に。
『髓心会では、前屈立で立ちます。』


23.右足一歩摺出しながら(騎馬立)平手で横から中段受けをする。この時右肩が前に、全く半身になる。左拳は腰に。
『「摺出し」との表現は、摺り足の意味です。』

24.左足一歩摺出しながら(騎馬立)左平手で横から中段受けをなす。この時左肩が前に、全く半身となる右拳は腰に。(23)の反対。
『「摺出し」との表現は、摺り足の意味です。』

25.右足一歩摺出しながら(騎馬立)右平手で横から中段受け、全く(23)と同じ。
『「摺出し」との表現は、摺り足の意味です。』

26.右足を軸として、左足を第一線上に移し、右手下、左手上から、一旦交叉して、互に引張り、後屈姿勢を取って左側面を見つめる。
『髓心会では、後屈立で立ちます。』

27.右足を左足に摺り寄せながら(閉足直立)顔は左を向き、左肘を直角位に曲げて、右拳甲下を左肘前に添える。左側面諸手上段受けの姿勢である。(29)の反対姿勢。
『ここでの「摺り寄せながら」の意味は、足を上げないで、普通に寄せる意味です。』

『髓心会では、上段支え外受け(旧称支え内受け)と呼称しています。』


28.左足そのまま、同一線上に右足摺出すと同時に、左手下、右手上から、互に引張りながら後屈姿勢を取る。顔は右に向けて。
『この場合の「右足摺出し」は、通常の摺り足ではなく、バタンと足を置くのではなく、そっと置く意味と解釈しています。』

29.左足を右足に摺り寄せながら(閉足直立)(1)のように、右側面諸手上段受けをなす。(27)の反対姿勢。
『ここでも「摺り寄せながら」との表現がありますが、足を上げないで、普通に寄せる意味です。また、「(閉足直立)(1)」との記載がありますが、このブログでは、(29)の写真の事です。
『髓心会では、上段支え外受け(旧称支え内受け)と呼称しています。』

30.足はそのまま、前を向きながら両手(左内)にて下に掻分けるように静かに下す。
『(左内)と言うのは、左手が目の前で交差した時に身体の方に近いと言う意味だと解釈できます。』
☆但し、これは、交差した手が下に行くにしたがって、下から内側に入ります。
『髓心会では、(30)の二枚の写真のように一旦大きく両手を目の前で交差して下段に振り分けています。この時、交差した手が上にある時は、左手が外側にしています。』

 考察 

 29.の動作から両手を交差する場合、スムーズに交差できるのは、原点の解釈どおり、両手が上にあるとき、左手が内側の方がやり易いのですが、26.の動作では「右手下、左手上」との記載がありますので、基本的に交差する時は、右手が外側にしているのかも知れません。この交差する手の位置は、動作ごとに原点にもどすか、あるいは、交差する時の富名腰義珍師の習慣なのか、判断に迷う所です。次回の下段交差受け、あるいは、平安五段の下段交差受けの場合は右手が上、そして上段交叉受けの場合は、右手が内側にあり、逆になっています。やはり、型ごとに交差の仕方を原点にした方が、混乱せずにすみます。
 最後の岩鶴を掲載するまでに、髓心会での方法を決定したいと思います。

演武線ではイメージが湧きにくいと思いますので、実際の足跡をたどってみました。今回の慈恩中盤の足跡です。
 次回は、慈恩序盤を掲載します。

【参考文献】
・富名腰義珍(1930)『空手道教範』 廣文堂書店.
・富名腰義珍(1922-1994)『琉球拳法 唐手 復刻版』 緑林堂書店.
・Gichin Funakoshi translated by Tsutomu Ohshima『KARATE-Do KyoHAN』KODANSHA INTERNATIONAL.
・杉山尚次郎(1984-1989)『松濤館廿五の形』東海堂.
・中山正敏(1979)『ベスト空手8 慈恩・岩鶴』株式会社講談社インターナショナル.
・中山正敏(1989)『ベスト空手8 慈恩・岩鶴』株式会社ベースボールマガジン社.
・内藤武宣(1974)『精説空手道秘要』株式会社東京書店.
・金澤弘和(1981)『空手 型全集(下)』株式会社池田書店.
・笠尾恭二・須井詔康(1975)『連続写真による空手道入門』株式会社ナツメ社.