空手道における型について【30】
燕飛 1~18

 

 文章の青字で記述したものは、現在、日本空手道髓心会で行っている方法です。しかし、これも全日本空手道連盟の指定の方法がありますので、これに従って練習しているのが実情です。これについては、記述していません。
 なお、緑字で記述したものは、原点に戻した方が合理的と思われるところです。

 昭和10年当時まだ立ち方、受け方、突き方の名称が定まっていなかったと思われる記述があります。この場合も現在の方法として、青字で書く事にします。現代文にしても意味が分かりにくい部分については、赤字で追記するようにしています。同じく、写真(『空手道教範』にある)を参照の部分については、赤字文章で分かるように追記しています。『空手道教範』に掲載の写真は著作権の関係もあると思いますので、載せていません。
〔ページを遡る煩わしさを避けるため、説明部分は、前回までと重複して記載しています。

 

燕飛えんぴ-1~18

 思い出   

 平成3年9月23日、大阪府立体育会館で催された、日本空手道連合会主催の第29回全国空手道選手権大会において、師範演武として燕飛の型とその分解と応用を演武しました。
 燕飛の型は、あちらこちらで、師範演武をしましたが、飛ぶ動作がある型の中でも燕飛の場合は特に着地に気を付けていました。
 畳の上で演じた時には、飛び過ぎてバランスを取るのに苦労した事を覚えています。
 演武や審査の時には、床の状態を予め調べた方が良さそうです。

 

旧称ワンシウ
全部で三十七挙動、約一分にて完了する。
演武線は丁字形。

(用意)のように、閉足立で、左掌(甲左)を腰に、右拳(甲前)を左掌に当てる。

1.右足そのまま、第一線上に左足を開くと同時に、(1)のように右足を折り敷き顔を右に向け、右拳(甲前)右足前に、左拳(甲下)を右胸前に構える。
(注)右側からの敵に対し、右手にて足を掬い、左手にて敵体を引いて投げんようとする構え。

2.顔そのまま、その場に立ち上がり右を向くと同時に、右拳を左拳に重ねる(左拳甲下、右拳甲前に)。
『髓心会では、立ち方は外八字立で立ちます。』

3.姿勢そのまま、右拳で下段を払う。平安初段の(三)と同じ。
『髓心会では、右前屈立で立ちます。』
平安初段の(三)と言うのは、このブログでは説明は平安初段の動作〔3.〕ですが写真は掲載していません。上記に掲載してある(3)の形です。

4.目を第二線前方に向けると同時に右足を伸し、右拳を右腰に捩じ上げるようにぶつける(甲下)と同時に、左拳(甲上)を水月の前に水平に構える。左手首は胸を去る約15cm。
『立ち方は、右足を伸ばしと言う文言から広めの八字立と推測できます。私が視聴した昔の映像にはこの部分は欠落していましたので確認できませんでした。』
『髓心会では、騎馬立で立っています。』
『言葉通り、両足を伸ばした広めの外八字立と思われますので、原点に戻す方が良いと考えます。』

5.右足そのまま、左足を第二線上に一歩踏出すと同時に、右手を左下より、左手を右肩上より互に引張るように反動をつけて左拳にて下段払、右拳腰。
『9.のように自然に前屈と推測します。』
『髓心会では左前屈立で立ちます。』

6.位置そのまま、左拳を左腰に引くと同時に、右拳で上段突、上体わずか左に捻じって正面を突く様。
(注)右拳は敵の下顎を突上げる心持。

考察

 この文章の「下顎を突上げる」という印象から、さまざまな解釈がされていますが、私は、ボクシングのアッパーカットのように、裏突きで突き上げて、拳が極まる位置は敵の頭上で、形は正拳突きにするのが良いと考えています。

 

7.右拳を開いて物を掴んで引寄せるがように、左肩前に引つけながら、右足一歩前方に、飛込むと同時に、(7)のように左足を右踵後に引きつけ、左拳にて下段突きをする。
(注)左拳は敵の丹田を突く心持。

8.右足そのまま、左足一歩退く(後屈)と同時に、手を絞るような心持で、右拳を右方下段に、左拳を左腰に構える。目は前方敵の顔に向けたまま。
(注)突込んだ左拳を敵に取られたので、すかさず右手首で相手の手を押のけるように左手を抜く意味であるが、時には右手槌(又は右手首)にて敵の手の急所(尺澤或は関節)を打つて引抜く事もある。(尺澤:写真参照)
『髓心会では、深い前屈立で立ち、着眼が身体の後方を向くようにしています。』
この場合の(後屈)は、着眼方向から見て後ろにあたる足を曲げると言う意味です。

9.足そのまま、顔を後方に向けて、(自然左足前屈となる)左拳にて下段払をすると同時に、右拳を右腰にとる。平安初段(一)と同じ姿勢。
『「顔を後方」と言う意味は、演武線では開始位置の方を見ると言う意味です。』
平安初段の(一)と言うのは、このブログでは説明は平安初段の動作〔1.〕ですが写真は掲載していません。下記に掲載してある(9)の形です。

10.足そのまま、左拳を左腰につけると同時に、右拳にて上段突、(6)と同じ。

11.右足一歩第二線後方へ向つて飛込むと同時に、左足を右踵後に引つけ、右手は掴み寄せるように左肩前に引つけその下より左拳にて下段突、(7)と同じ。(三)参照。
『(三)参照。と言うのは、(11)の写真と同じです。』
『写真(11)の右側のように交差立で立ちます。』

12.左足を一歩後へ引き(左足後屈)ながら、左拳を左腰に引くと同時に、右手首は左手首の上を通つて、捻じるように右拳下段払。〔8.〕と同じ。
この場合の(左足後屈)は、着眼方向から見て後ろにあたる足を曲げると言う意味です。

13.足そのまま、後(第二線前方)を振向く(自然左足前屈になる)と同時に、左拳下段払、右拳腰にとる〔9.〕と同じ。
『(第二線前方)と言うのは、演武線では正面にあたります。』

14.右足そのまま、左手を開いて目の高さにあげながら、(14)のように、左手。右足を共に(目もこれを追う心持)左方へ移し(左第一線上に移す)騎馬立となる。左手は開いて左斜前方、目の高さに構へ、目はこれに注ぐ。
『左手。と句点がありますが、読点の印刷ミスだと思います。』

15.左手、左足の位置そのまま、右拳を振上げると同時に(手甲後)左掌へエイと掛け声諸共右手首(甲前向)を打ちつけると同時に、右足甲を左膝裏に上げ、顔は正面に向ける。
『この時の着眼は、左手を打ち終わった直後に正面を向いています。』

16.左足そのまま、右足を元の(一四の姿勢の)位置に下して騎馬立となると同時に、左掌を右脇下に当て(右袖を絞るようにな心持)右手を開いて額の前より右側面にかけて大きく円を描いて敵の手を抱え込むような心持で握りしめながら右腰にとり、右拳が腰に極まる時、左手を前方へ水平に伸し、(四指を揃へ)敵の中段突を内から受ける心持。観空〔5.〕を参照せよ。 観空大序盤 『(一四の姿勢の)とあるのは、(16)の右側の写真のようにと言う意味です。』

17.騎馬立の足そのまま、伸している左手を握りしめながら左腰に引つけると同時に、右拳で中段突、
『最後の読点は、句点の印刷ミスだと推測しています。』

18.足そのまま、右拳を引くと同時に左拳で中段突をする。〔17.〕〔18.〕は続けて素早く連突きせよ。 
『足そのまま、と言うのは、騎馬立と言う意味です。』

演武線ではイメージが湧きにくいと思いますので、実際の足跡をたどってみました。

 次回は、燕飛後半を掲載します。

【参考文献】
・富名腰義珍(1930)『空手道教範』 廣文堂書店.
・富名腰義珍(1922-1994)『琉球拳法 唐手 復刻版』 緑林堂書店.
・Gichin Funakoshi translated by Tsutomu Ohshima『KARATE-Do KyoHAN』KODANSHA INTERNATIONAL.
・杉山尚次郎(1984-1989)『松濤館廿五の形』東海堂.
・中山正敏(1979)『ベスト空手7 十手・半月・燕飛』株式会社講談社インターナショナル.
・中山正敏(1989)『ベスト空手7 十手・半月・燕飛』株式会社ベースボールマガジン社.
・内藤武宣(1974)『精説空手道秘要』株式会社東京書店.
・金澤弘和(1981)『空手 型全集(下)』株式会社池田書店.
・笠尾恭二・須井詔康(1975)『連続写真による空手道入門』株式会社ナツメ社.