お習字から書道へ Section 7

 「無くて七癖」と言います。また「有って四十八癖」とも言います。数字はともかく、人にはなぜだか、癖ができます。個性は良い意味に使われますが、癖は悪い時に使われることが多いと思います。

 字にも、人それぞれに癖があります。よくサスペンスなどの警察が関係するドラマには、「筆跡鑑定」などと言う事をして、その人である事を確定したりするのを、よく目にします。

 字は体を表すと昔から言われますが、本当にそうなのか、私には分かりません。しかし、字には、爽やかな文字がある事は、腑に落ちる所があります。

 半面上手と言われる人の字でも、癖なのか、馴染めない字にも出会います。

 文字に対する意識は、決して日本だけのものではありません。漢字圏だけでもないのです。カリグラフィーペンで書いた文字など、デザイン的にも魅力のある文字が書けます。当然の事のように英語などの横文字です。この文字は、デザイン化した文字です。

 最近はコンピュータが文字を書く主流になり、私なども、ご多分に漏れず、コンピュータを会社に導入し始めたころから、コンピュータやワードプロセッサーを使っていますので、何かというと、文字を書くのはコンピュータに頼ります。

 お陰で、もとから漢字を書けない人が、ますます漢字を書けなくなっています。最近学校ネットで中学生卒業程度のテストを毎晩寝る前にやる事にしています。少し漢字を書けるようになってきました。

 さて、今紹介しているのは、お習字でも、ペン習字と言われている硬筆の文字を紹介しています。毎回書いていますが、鷹見芝香たかみしこう先生の文字を模写した、ひらがなを掲載しています。

 私は、この文字が好きで、爽やかさと共に、癖のない文字だと思っています。この感覚が、この文字を習得する上で、最も大切な事だと思っています。よい字だと思わない字を、毎日書ける人がいるとしたら、それはもう凄い人だと思います。
 字を練習するのは、忍耐ではありません。少なくとも、楽しく練習したいものです。
 
 ちょっと空手の道とは、違うようです。空手の場合は耐えることも必要な道と言えるでしょう。

 鷹見芝香たかみしこう  

 文部省高中学校書道学習指導要綱編集委員(硬筆習字)。
 全日本書道教育協会総務。
 東京都中学校書道研究会副会長。
 日本書作院同人。
 東京都立豊島高等学校講師。
出典:ペン字いんすとーる(http://cumacuma.jp/review/review_index/pen_life/)

 

 では、いつものように一文字一文字、観察して、書いて見ましょう。

 「は」と言う文字の特徴は、赤い枠の内側にほぼ正方形に収まるように書きます。赤い枠線ぎりぎりに大きく書くのではなく、少し余裕をもって書くと良いでしょう。
 ここでも、結びがありますが、 上達ポイント(Section 6)の特徴をよく知って書いて見てください。
 左側の縦線は、少し左側に膨らませると、右側と調和が取れるでしょう。ひらがなの場合は、真直ぐに引く線は殆どありません。このあたりも、ひらがなを書くポイントです。

 「ひ」の特徴は、右に傾いた楕円形に添って書く気持ちが必要です。難しい文字です。文字の始めの横線は、ほぼ水平に短く引いて、中央の線に接すると左斜めに膨らませながら、縦の長さの半分くらいで少しだけ右斜めに下します。下にある横に伸びている赤い点線まできたら、徐々に右斜めに上げて、中心線を越えてから鋭角に上に上げます。頂点の位置は四角の赤枠の上から四分の一程度を目安に真下に引き下ろします。少し下ろしてから徐々に真横に線を書きますが、水平までいかない時に終わります。

 「ふ」の文字は、赤の点線の三画の二等辺三角形をイメージしてその中に書きますが、一画目の位置と、四画目の位置には注意して書きます。一画目は、図のように中心線から45度程度傾けて点を打ち、中央線に接したら左下にハネて、二画目に書かずに繋げます。二画目の下の曲がる部分の接点は中央線です。そして、三画目に行くハネも斜めに赤い点線で引いた上に添うように、次の線に繋げます。しかし、三画目は一旦外に行った気持ちを引き戻すように、左から右に点を打ちます。そして、最後の四画目は、三画目との繋がりを意識しながら、右上がりの赤い点線の上にやや長い点を打ちます。

 「へ」は、非常にバランスの取りにくい文字です。そこで、書き始めは、四角の赤枠の縦の半分くらいから右上がりに中央線を越えてから徐々に枝がしなるように下に下ろします。
 この文字がバランスを取るためには、左側の線より右側の線の長さを長く書く事と、カタカナの「ヘ」のように頂点が角ばらないように気を付ける事です。三角形の赤い点線の枠が中央線のどの部分にあるかを覚えておきましょう。

 「ほ」は、正方形になりやすい文字です。ほんの少し縦長の長方形になるよう、赤い点線の枠をイメージしましょう。
 ここでも結びがでてきますが、縦線よりも上で結びの最下点がくるようにすると良いでしょう。
 また、四画目の縦線の始まりは、二画目と三画目の横線のほぼ中央から書きだすようにしましょう。
 上にある「は」の結びと種類が違うので、注意して書いて下さい。 上達ポイント(Section 6)の特徴を参照してください。

 
 上達ポイント  

 筆記用具を選ぶことができれば、その持ち方も正しくしないと、うまくかけません。箸の握り方と同じで、正しく握ると、使い方も正しくなります。
 筆記用具も、鉛筆やドローイングペン、あるいはボールペンや万年筆によっても、少しづつ違います。

 では、一般的な筆記用具として、鉛筆を例にしてみましょう。鉛筆の先が紙面について、鉛筆自体が45度になるように、親指と人差し指の間の、人差指側の人差指の第三関節(手の甲側)に鉛筆の中間が当たるように持ちます。中指の指先から第一関節の間の上に鉛筆を置き、親指と人差し指の腹の部分で支えます。この持ち方は硬筆の他の物でも変わりません。しかし、角度は筆記用具によって多少変えた方が書きやすいです。これは紙面にどのようにインクや染料が乗って行くかによって違いがあります。普通は、自然と書きやすい角度を、知らない内に自分自身の身体が調整してくれます。

 例えばボールペンなどは、45度よりも垂直に立てた方が良いでしょう。理由はボールが紙面に当たる位置が一定するからです。ペンなども鉛筆よりも角度を付けて50度から60度位にする方が、インクの出が一定します。

 万年筆は、日本の文字を書く場合と、横文字(外国の文字)を書く場合とでは、かなり違いが出ますので、できれば日本製の日本語を書く万年筆の方が細かい所まで書き表す事ができます。これも好みの差もあると思いますが。

 そして、大きな文字を書く場合は別ですが、ノートなどに書く場合は、手の平の付け根、手首を紙面に付けます。汚れやすい場合は、指先を切った手袋をはめるとか、別の紙を手の下に引く方が良いでしょう。これはフィニッシュワークをしていた経験によって覚えた事です。

 上達のポイントで一番大切なのは、指を曲げると縦の線が引け、手首を横に振ると横の線が引ける事を習慣にする事です。このあたりが、毛筆と違う筆記用具の扱い方です。

 そして、今「50音の文字」を練習している時に、縦の線、横の線、斜めの線、丸い線が、スムーズに書けるようになる事です。これが真直ぐに、あるいは、円弧であれば、滞りなく書けるようになると、かなり字は上手くなっているはずです。

 字がうまく書けない人の大半は、縦、横の線が真直ぐに引く事ができません。毛筆の場合、手は浮かせますので、かなり慣れるのに苦労します。小筆は手をついているように思えますが、うまくなろうと思えば、ついたり、押さえたりするのではなく、下になる手の上に触る感じがでなければ、上手に筆を運べません。

 硬筆の場合でも、紙面に手を押さえつけては、自由に指先が動きませんし、握りしめても同じです。第一、力を入れて書いていると、疲れます。

 このあたり、重要なポイントですよ。

 

 一口メモ  

 今回も『ペン習字』(鷹見芝香たかみしこう著)に書かれてある文章を引用してみます。

 『紙のおき方と姿勢 毛筆の場合は、机の上にまっすぐに紙をおいて、文鎮でおさえ、首と背骨が湾曲しないようにに正しい姿勢で書きますが、ペンの場合は文字が小さいうえに字数も多いので、少し違ってきます。まず机に胸を近づけ、両足をやや開いて、ゆったりと前方によりかかるようにします。紙は縦書きの場合はまっすぐにおき、横書きの場合は右上を15度ぐらい傾けると書きよくなります。紙面と目との距離は約30cmです。あまり前こごみにならないように注意します。』

 このような記述がみられます。

 私は、少し違った観点から姿勢を考えて見ました。結論から言いますと、疲れない姿勢が一番です。そして、何より腰に負担のかからない座り方が良いでしょう。
 女性の人には勧められませんが、私は姿勢に対してはすこし蘊蓄うんちくがあります。何と言っても健康が第一です。
 
 正しい姿勢と言われても、その正しい姿勢が間違っていると、正しくないのです。正しいと言うのは、一つはその作業や運動をするのに適した姿勢の事ですが、もう一つは、長くその姿勢を保っていても体に負担がない事が大切です。いくら上手く書けても、身体を壊しては元も子もありません。

 まず、正しい姿勢を知る事です。 含胸抜背で示しましたが、決してそびえ立たず、かと言って猫背になるわけでもない、背筋の立て方が大切です。

 先に女性には勧められませんが、と書きましたが、ここまでは、女性も真似してください。健康の為にとても良い姿勢です。

 そこで、椅子に深く座りますが、両足を椅子を跨ぐようにして、外側に開きます。できればお尻が外にでるような台所の背もたれのある椅子が良いでしょう。そして、お尻を外にだして背もたれに、背が付くように座ります。そして上半身は、含胸抜背です。そして、前かがみにならないようにするのは、内臓を圧迫しないためです。肩の力を抜いて見てください。自由に肘から先が動くと思います。やって見てくださいね。

【参考文献】
鷹見芝香たかみしこう(1966)『ペン習字』 株式会社主婦の友社.