お習字から書道へ Section 30

 東京書道教育会や書道界では「部分」、一般的には部首と呼んでいると思いますが、その部分に従って、文字を選んで通信教育の課題とは別に練習しています。

 前回は、「しかばね」「とかんむり」を取り上げました。
 文字は、「尽」「局」「屋」、「戻」「所」「扉」」を楷書で、「尽」「所」を書写体で書きました。」を取り上げました。
 
 今回は、「とらかんむり(とらがしら)」「にすい」「さんずい」を取り上げました。
 文字は、「虎」「虚」「虐」、「冬」「冷」「凍」、「池」「沢」「治」、を楷書で、「沢」「虎」「虚」「虐」を書写体で書きました。

 「虎」の楷書で気を付けるのは、一画目と二画目の長さに注意しました。縦画が一画目の場合も、横画が一画目になる筆順があります。どちらもにしても、縦画の長さによってバランスを取るようにしますので、全体の文字をイメージして書き始めるのが必要だと思っています。

 「書写体」の場合も縦画の長さを、書き始める時にイメージしておくと全体のバランスを取れるように思いました。

 最後に書いたものも「虎」の「書写体」です。縦画の位置と長さが文字の形を左右すると思います。

 それにしても、書写体同士でこれほど違うのですね。


 「虐」も、「とらかんむり」の部分は同じ注意が必要です。
 
 しかし、この文字を書いていて、何か物足りない感じがするのは、一番下の部分の右側に何もない事だと思います。アルファベットの「E」と同じだと思いますが、同じように書くと全く漢字になりません。これも、横画のそれぞれに変化が必要だと思います。

 それにしても、落ち着きのない文字になってしまいました。


 「虚」の楷書は、細すぎました。何だか虚弱体質のような感じがします。やはり、文字の太さは重要な要素です。

 形や点画に集中すると、線の太さまで気が回らないと思います。線の太さは文字の出来上がりを左右します。気を付けたいものです。


 「冬」と言う漢字が、「にすい」にありました。知りませんでした。この文字は、「尽」と同じで、二つの点で字の形が決まると思っています。特に最後の点の打ち方に気を付けて書いています。

 「冷」は、活字と「令」の最終画の縦画が点になっているところが、楷書と違いますので、このように書きました。手本をよく見て同じようなバランスにしましたが、感覚としてはまだしっくり来ていません。いわゆる鑑賞眼ができていないのですね。

 これは、空手でも同じで、長年やっていると見えるようになると思います。書写はまだまだ初心者の域をでません。

 「凍」と「池」は、自分では上手く書けたと思っています。しばらくして、もう一度見た時、がっかりするかも知れません。

 


 「沢」は、難しい漢字です。旧字体と書写体では「幸」の下が横画が違います。横画の多い旁ですから、一本増えると単調になりやすいので、それぞれの横画に変化が必要だと感じました。

 


 同じ「さんずい」でも、旁によってバランスが違います。この文字は正方形に書けるので、バランスよく書きやすいと思います。

 

 一口メモ 

  前回からの続きで、『はじめての書道楷書』(関根薫園著)で、中国の李淳と言う人の手による「結構八十四法」と言う文字の組み合わせ方を説明していきたいと思います。

 今日は第四回目です。取り上げるのは、「左右占地歩さゆうせんちほ」「上下占地歩じょうげせんちほく」「中占地歩ちゅうせんちほ」「俯仰勾擢ふぎょうこうてき」の4つです。【[擢]は、手偏ではなく(走繞)が正しい文字です。】

 「左右占地歩さゆうせんちほ」とは、「仰」の場合では、左右の文字は大きく長く書きますが、中の字画を小さく短く書きます。ただし、バランスを取るために線を幾分太くします。

 「上下占地歩じょうげせんちほく」は、「驚」の文字が例に上げられていますが、少し判りにくいので、左上の「苟」の字画と、「馬」は広く扁平にして書き、右上の「攵」は、短めに力強く書き、バランスを取ります。力強くするために「攵」の四画目は収筆を長点のように止めて書きます。

 「中占地歩ちゅうせんちほ」の説明では、字画の中間部は広く大きくし、上下や左右は狭く小さめに、書き出しの字画は強く太い筆勢、とありますが、例が「衝」なので、書き出しの字画は、やや太くして縦長に、中間の「重」はやや上側に書き、右側は少し下目に書き、最後の縦画は少し太めに書くと、書き始めの「ぎょうにんべんと」との釣り合いが取れます。ただし、この場合に中の字画「重」は、左右に負けないように主張すると良いでしょう。

 「俯仰勾擢ふぎょうこうてき」の説明では、「冠」を例にあげて、上下にはねがあり、そのはねが向かい合うように書く。とありますが、実際には向かい合っていないので、「わかんむり」の横画と、「元」の四画目の横画を対峙させて、書くとバランスがとれます。

 

【参考文献】
・青山杉雨・村上三島(1976-1978)『入門毎日書道講座1』毎日書道講座刊行委員会.
・高塚竹堂(1967-1982)『書道三体字典』株式会社野ばら社.
・関根薫園(1998)『はじめての書道楷書』株式会社岩崎芸術社.
・江守賢治(1995-2016)『硬筆毛筆書写検定 理論問題のすべて』株師会社日本習字普及協会.
江守賢治(1981-1990)『常用漢字など二千五百字、楷行草総覧』日本放送出版協会.
・江守賢治(2000)『楷行草筆順・字体字典』株式会社三省堂.