【空手道の稽古体系の研究】 |
空手を習得する方法は、基本・移動基本・型・基本組手・自由組手が現在では一般的であると思います。先生宅の庭先で、あるいは道場で、個別に稽古していた時代とは随分様変わりしたように思います。その要因としては、試合の普及や学生による合同練習が、今のような体系を作り出したものと思います。
空手の技術や稽古体系が、試合の発展と共に研究され来た事は、空手界に身を置く誰もが頷ける事だとは思います。しかし、一方、「型」と「組手」がドンドン距離を置いて、解離して来た事も事実ではないでしょうか。
全日本空手道連盟が主催の試合では、組手で使われる技術も、昔は「型」から取り出した技が多く見られたのですが、近年は試合用の技が研究され、ほとんど「型」で継承された技を見る事ができません。これも空手の発展する方向なのかと思うと、何か腑に落ちないものを感じるのですが、如何なものでしょうか。
それでも、空手と言えば「型」。現に「型」試合も行われています。試合での技の表現にも、組手と同じように、釈然としない気持ちを抱くのですが、それでも「型」は、空手と切っても切れない関係にあるのではないでしょうか。
では、伝統的に継承されてきた「型」を練習するための方法を見ていくことにします。
回し蹴りを考えるでも、千葉周作(北辰一刀流創始者)の和歌「上達の場に至るに二道あり、理より入るものあり、業より入るものあり、何れより入るも善しといへども、理より入るものは上達早く、業より入るものは上達遅し」を紹介しましたが、「理」より探って行きましょう。
どんな習い事でも、練習は習得するためのシステムがあります。そのシステムは、上手くなるための要素で出来ています。その要素を意識して稽古することで、より習得の「仕方」を明確にすることができると思います。
他のスポーツ、例えば、水泳・スキー・スケート・野球・サッカー・体操などなど、その特有の動作が伴いますので、その種目に応じた筋肉や関節の可動域を重点的に鍛えることが習得の近道です。
空手においても同様で、空手という武術に特化した身体と、身体操作を身につけることが必要です。他のスポーツや武道では、補助的に必要な部位を鍛錬します。空手においても同じことができますが、空手には「型」という練習体系が伝承されてきました。 型は、なぜ空手の技術を習得する上で大切なのか、また稽古をしてどういう能力が身につくのかを検証してみる事にしましょう。
【型の要素】には、[身体的要素][武術的要素][精神的要素]の三つがあります。
- [身体的要素]
- 可動範囲を広げる
- 立ち方・運足・前蹴り・横蹴り・三日月蹴りなどに必要な股関節の柔軟性
- 突き・打ち・払いにおける肩甲骨と上腕骨を繋ぐ回転筋群[棘上筋(きょくじょうきん)、棘下筋(きょっかきん)、小円筋(しょうえんきん)、肩甲下筋(けんこうかきん)]の柔軟性
- 体軸に付随する深層筋の強化
- 臍下丹田の強化
- 深層部の筋肉(腸腰筋(ちょうようきん)、中殿筋(ちゅうでんきん))の強化(腸腰筋は脊椎と大腿骨を繋げる筋群・中殿筋は大殿筋の内側にある筋肉・大殿筋は臀部)
- 押す・引く・揚げる・掛けるという動作の補助的な筋肉の養成(主に肩回りの深層筋)
- 表層筋の強化
- 筋の持久力を高める
- 筋力を増大させる
- 呼吸循環機能の強化
- 気息の呑吐(または吐呑)
- 腹式呼吸の習得による心肺機能の充実
- 可動範囲を広げる
- [武術的要素]
- 目付
- 攻防の目的を直視することで、後述の仮想敵に対する集中力
- 正中線への意識
- 運足
- 攻防に応じて身体を運ぶこと、あるいは体を捌くこと
- 居着
- 動作の間隙におこる身体の居着きと心の居着きを制御する
- 技
- 標的(当たる位置)を超えた後に極めがあり、極めと残心が同時に起こり、その時の体のバランスのとり方と肘・膝など関節の保護
- 標的を極めの前(約20cm)前の通過点に設定することにより威力の減速を防ぐ。
- 目付
- [精神的要素]
- 礼儀
- 様式の励行により礼儀を身につける
- 一心
- 型の初めから終りまで、他に心を動かさない
- 集中力の強化
- 無心
- 一心から無心に至り、 髓心を得る
- 礼儀
次回に続く・・・