お習字から書道へ Section 54

 古典と言っても、色々なものがあります。中国のものも、日本のものもあります。日本では仮名文字がありますから、仮名文字については、日本独自の発展をして来たのでしょう。ですから、筆遣いも、漢字と仮名では幾分違うように思っています。

 もう少し研究しないと分かりませんが、少なくとも漢字の場合は、趙孟〔兆頁〕ちょうもうふが言うように「結字は時に因って相伝うが、用筆は千古不易である」と伝わっている言葉が正しいのであれば、起筆・送筆・収筆の方法も正しい方法があると思います。【〔兆頁〕は、環境依存の文字です。ここでは、〔兆頁〕と表しましたが、偏が兆で旁が頁です。】

 しかし、現実は、書籍によって、様々な方法が記載されていますし、インターネットの動画を見ても、様々です。特に本場中国や台湾の人が書く字は、実に上手に書いているのですが、その用筆は日本のものと違うように感じられます。

 空手の場合は、相手の居る事ですから、実際に試して見る事もできます。しかし、書道の場合は、作品を見ておよその見当はついても、実際の用筆をはかり知る事は難しいと思います。なぜなら、大雑把には把握できても、スローモーションで見ても、僅かな指先や手首、肘などの動きを捉える事は、非常に難しいと思っています。もっと練習すれば、見えてくるものなのでしょうか。今のところ、分かりません。

 さて、今朝も文字を選んで書く事にします。

 今まで通り『楷行草筆順・字体字典』(江守賢治著)から、上手く書けそうな文字と、難しそうだな、と思う文字の二種類の文字を選ぶようにしました。

 前回は、「ふしづくり」「おおざと」を取り上げました。
 文字は、「印」「卵」「卸」、「邦」「邸」「群」「邦」を楷書で、「邦」「群」を書写体で書きました。
 今回は、「りっとう」「さんづくり」を取り上げました。
 文字は、「刊」「列」「別」、「形」「彩」「彰」を楷書で、「列」「別」「形」「彩」「彰」を書写体で書きました。
 

 「りっとう」は、偏になる部分によってポイントが変わると思っています。「刊」は比較的バランスが取りやすく、「干」の縦画の払い方と長さで調整しています。

 

 「列」の場合も、左にある部分の払いがバランスをとるカギになると思います。
 書写体は、少し旁のバランスが悪かったようです。それとも偏が小さかったのかようにも思います。

 


 「別」は、楷書の方は、まずまずですが、書写体の「口」が大きかったと思っています。

 縦画のある文字は、簡単なように見えて、少しでも曲がったり角度がついてしまうと、文字全体に影響を及ぼします。

 

 
 「さんづくり」は、全般的に書写体の方が安定します。

 どの文字も、三本の左払いの方向を変える事によって文字が単調にならないように工夫しています。

 

 
 「彩」は、書き始めは簡単に書けると思っていましたが、書きあがった文字を見ると、バランスが取れていません。失敗です。

 

 
 「彰」は、まずまずの出来ではないでしょうか。難を言えば、まとまり過ぎて、こじんまりしてしまったように思います。

 すっきりしているのは、書写体の方が良かったと思います。

 

   

 一口メモ 

 「書道技法講座〈楷書〉九成宮醴泉銘」(余雪曼著)が、「結体三十六法」と「結構八十四法」を基に九成宮碑文の特殊な結構を参酌して四十四に書き表したものを紹介します。
 今回は、その6回目です。
 【ここで書いてある文字は、九成宮醴泉銘を私が臨書したものです。赤い線は。『書道技法講座〈楷書〉九成宮醴泉銘』を参考に入れています。】
  
(13) 譲左法
 
 これは「結構八十四法」にありましたが、少し趣が違います。単に旁を下に下げるのではなく、左にある部分を主体にする意味だと理解しています。ですから、「結構八十四法」のように例にあげている文字も違います。

(14) 譲右法
 これは、右に主体を譲ると言う意味で捉えます。巾ではなく、縦の長さを長く書きます。赤い線は、偏と比べて旁を高い位置から書く事で左が右に添うように書くようにする方法です。


【参考文献】
・青山杉雨・村上三島(1976-1978)『入門毎日書道講座1』毎日書道講座刊行委員会.
・高塚竹堂(1967-1982)『書道三体字典』株式会社野ばら社.
・関根薫園(1998)『はじめての書道楷書』株式会社岩崎芸術社.
・江守賢治(1995-2016)『硬筆毛筆書写検定 理論問題のすべて』株師会社日本習字普及協会.
江守賢治(1981-1990)『常用漢字など二千五百字、楷行草総覧』日本放送出版協会.
・江守賢治(2000)『楷行草筆順・字体字典』株式会社三省堂.
・余雪曼(1968-1990)『書道技法講座〈楷書〉九成宮醴泉銘』株式会社二玄社.
・續木湖山(1970)『毛筆書写事典』教育出版株式会社.