お習字から書道へ Section 19

 縦画や横画、縦画と横画を合わせたもの、あるいは、払いについて、その起筆や収筆を、私が注意している点を中心に書いてきましたが、
 今回は、「曲がり」と東京書道教育会では呼称していますが、書道界で統一されている様子はありません。しかし、小学校の教材では、「曲がり」「折れ」「そり」が正しい呼称とされています。

 そこで、どういう文字に「曲がり」と言う部分があるかを、書いて見ました。
 「曲がり」と言われている文字には、二種類ある事が分かります。一つ目は収筆で「とめ」がある文字。そして二つ目は、収筆で「はね」がある場合です。

 今回は、「七九」と書いて見ました。「七」の収筆は「とめ」、「九」の収筆は「はね」になります。
 黄色で書いた線が、穂先が通ると考えてください。直線から曲線になる所で、穂先がクロスします。

 一口メモに書いていますが、少し例をあげておきましょう。

 書道の場合に、楷書と言われている文字の中で、「曲がり」の収筆が「とめ」の場合、壱・褐・詣・能・北・燕・此・股・処・虎・荒・忙・港・粋・探・甚・発等をあげる事ができます。そして、ここに上げた文字が入っている場合は、殆どが収筆で「とめ」になります。

 今あげた文字の数は、多く感じられると思いますが、収筆が「はね」の文字は、もっと沢山あります。
 ちなみに、宛・庵・允・胤・院・悦・苑・乙・俺・化・花・塊・概・覚・完等多数見られます。

 東京書道教育会では、九・光・比・元・見が上げられていますが、この中で、「比」と言う文字は、『楷行草筆順・字体字典』(江守賢治著)では、「とめ」になっています。どちらか一方に決定して欲しい所です。一口メモで書きましたが、『楷行草筆順・字体字典』(江守賢治著)では、楷書ではこの形が良いとされている文字の中にあります。

 

 「曲がり」と「そり」は、別々の呼称がついていますが、書き方のコツは同じと思っています。今回は、一緒に載せるため「薫風」と書いてみました。
 
 「曲がり」と「そり」のポイント  

 「曲がり」と「そり」のポイントは、ずばり曲がる所で、穂先が左端から上端にクロスさせます。このクロスさせるコツは、決して入筆の45度の角度を変えない事です。変えなければ、左から右に筆を移動するだけで、自然に穂先の位置が変わります。
 「そり」の場合は、「曲がり」よりも緩やかに穂先の位置が変わっていきます。
 また、「曲がり」の場合は、曲がる部分ですこし筆を休めてS字型にすると書きやすいと思います。

 「そり」は、「風」の赤い線で示した範囲で徐々に変化させていけば上手く書けると思います。

 別に難しい筆運びではありませんが、角張って方向転換しない事で、滑らかな「曲がり」が再現できるでしょう。

 

 一口メモ 

 楷書には、活字や小学校で習う文字とは違った書き方をする物があります。活字と違う事は十分理解できますが、習う文字と違うと困りますね。

 それでも、通常正しいと思われている文字が、書の世界では間違いになります。書道の作品の場合は、旧字体や書写体と呼ばれている書き方をする方が良いとされていますので、楷書の場合でも、必ずしも現在正しいとされている楷書ではない場合がある事も、知っておく必要がありそうです。

 たとえば「案」と言う字の場合、左のように、明朝体と教科書体では、下の木の書き方が違う事が分かります。
 HG正楷書体-PROと書かれてある文字は、「木」の縦画の収筆が「はね」になつています。そして左右の払いも「点」に見えます。
 この「案」と言う文字の場合は、HG正楷書体-PROの文字は、書写体と呼ばれている文字と一致します。しかし、HG正楷書体-PROの文字が全て書の世界で楷書と呼ばれているものと一致している分けではありません。

 「皆」と言う字を見て見ましょう。
「ヒ」の部分をよく見ると、教科書体でも、HG楷書体-PROでも、「はね」があります。

 しかし、楷書ではこの形が良いとされている文字では「はね」がありません。ちなみに、この形が良いと書かれてあるのは、『楷行草筆順・字体字典』(江守賢治著)です。

 

【参考文献】
・青山杉雨・村上三島(1976-1978)『入門毎日書道講座1』毎日書道講座刊行委員会.
・高塚竹堂(1967-1982)『書道三体字典』株式会社野ばら社.
・関根薫園(1998)『はじめての書道楷書』株式会社岩崎芸術社.
・江守賢治(1995-2016)『硬筆毛筆書写検定 理論問題のすべて』株師会社日本習字普及協会.
・江守賢治(2000)『楷行草筆順・字体字典』株式会社三省堂.