お習字から書道へ Section 23

 東京書道教育会では「部分」、一般的には「部首」と呼んでいると思いますが、その「部分」に従って、文字を選んで稽古して行こうと思っています。

 前回は「なべぶた(けいさん)」の文字から「京」「亰」「亥」「育」を書きました。

 今回は、「ひとかんむり(ひとやね)」と「はちがしら」そして「はつがしら」を選び、文字は「今、介、会、余、舎、」、「八、六」そして「発」の楷書を、また、「今」「介」「会」「公」「発」の書写体を書きました。


「今」と言う字の楷書と書写体ですが、「ひとかんむり(ひとやね)」が部首になります。

楷書といっても、小学生で教わる「今」という文字と少し最後の収筆の仕方が違います。

この文字は『常用漢字など二千五百字、楷行草総覧』にあるものを手本にして書きました。

下に書いた文字は、書写体と呼ばれています。昔から毛筆ではこの形を書くのが正しい「今」です。


「介」と言う文字も、「今」と同様「ひとかんむり(ひとやね)」の部首です。

下の文字は、書写体です。

「ひとかんむり(ひとやね)」の文字を書く場合に、一番気を使ったのは、部首の開き方が難しいと思います。丁度良い開き方は、下に来る文字とのバランスを考えて開きました。

ここでは、「会」の楷書と書写体、そして「余」と「舎」の楷書の文字を取り上げました。

ここでも、やはり、その文字に適した「ひとかんむり(ひとやね)」が必要です。少しづつ起筆・運筆・収筆の趣が違いますが、これは、部首の下になる文字によって、自然に変わると思います。

点画については、前回までに書いて来たとおりの筆の扱いで書いていますが、漢字一文字を書くには、少しの工夫と、全体を俯瞰する目が必要だと思いました。

この文字も、一度書いてから、バランスを考えて、自分なりに修正してから、清書をしています。

 

「はちがしら」に「六」が入ると言うのは、この文字を書くまでは、知りませんでした。「なべぶた」だと思っていました。

この文字をよく見ますと、「八」と「公」の「はちがしら」と「六」の「はちがしら」の収筆が、「右払い」と、「とめ」になっています。

「公」と言う文字は書写体を書きました、というより楷書を書き忘れたのですが、楷書では「はちがしら」の収筆は「六」と同じ「とめ」になっています。

私が何度も書き直したのは、「公」の文字です。「八」と「ム」の空き具合は、感覚ですから、如何に見た目、バランスが取れているかに注意を払ったつもりです。

「発」は、楷書と書写体の二文字を書いて見ましたが、これもやはり、文字の中の空間の取り方に苦労しました。
上手な人の字は、空間に広がりが感じられ、同じ文字でも、ゆったりして見えます。
そんな文字が書けるようになれれば、と思っています。

  

 一口メモ 

 『硬筆毛筆書写検定 理論問題のすべて』(江守賢治著)に次のような記述があります。

 『書写検定のの試験で「漢字の部分(偏や旁など)の名称」を問う問題に関連して、「部首の名称」という言い方はまちがいであることを説明しておきたいと思う。・・・・・しかし、私は、ここで改めて、この教科書がまちがっていることを説明しようとは思っていません。なぜなら、書写検定では部首に関する問題は出ないからです。』
 
 この教科書の内容は、次のようになっています。

 『教科書

 2.漢字の部首
 意味のうえで関係のある漢字は、同じ部分をふくんでいることが多い。漢字は、この同じ部分をもとにして分類されている部分を部首とよぶ。

         T書籍、五・上』
 
 と教科書を引き合いに出して、暗にこの部首の説明が間違っていることを指摘されています。

 江守賢治先生の主張は、部首と言う言葉は、康熙字典こうきじてんの「部首索引」から来ていて、現在日本の漢和辞典の多くは、この部首を継承しながら、康熙字典では部首として扱われていない、附(付け加えたもの)を欠落して編集し、あたかも部首であるかのように書かれている。

 したがって、現在使われている漢字の部首は、部首とは言えない。ということを力説されています。

 『硬筆毛筆書写検定 理論問題のすべて』(江守賢治著)の中で7ページを割いて記載されていることから、東京書道教育会では、部分と言っているのだと理解しています。

 その中で、国字は漢字ではないとの記述もありましたが、確かにその通りだと思いますが、国字と言うのは、漢字の分野に属する文字を日本で作ったのではないでしょうか。厳密に言うと確かに、中国から来た文字を漢字とするのは、その言葉通りでよいのかも知れませんが、いまや「てんぷら」などは、外来語ではあっても日本語として十分認識されているのではないでしょうか。

 であれば、国字も漢字の一部として日本では漢字として扱う方が、混乱しませんし、「部分」というよりも「部首」の方が分かりやすいのですが、いかがでしょう。

 そして、「部首」とは呼べないものに「附」をつけたり、必要であれば、国字には何らかの印をつければより理解しやすいのですが、まぁ、素人の呟きですが。

 

【参考文献】
・青山杉雨・村上三島(1976-1978)『入門毎日書道講座1』毎日書道講座刊行委員会.
・高塚竹堂(1967-1982)『書道三体字典』株式会社野ばら社.
・関根薫園(1998)『はじめての書道楷書』株式会社岩崎芸術社.
・江守賢治(1995-2016)『硬筆毛筆書写検定 理論問題のすべて』株師会社日本習字普及協会.
江守賢治(1981-1990)『常用漢字など二千五百字、楷行草総覧』日本放送出版協会.
・江守賢治(2000)『楷行草筆順・字体字典』株式会社三省堂.