お習字から書道へ Section 15

 S字型  

 前回「S字型」について、もう少し詳しく説明する、書きました。

 この写真は、横画を書こうと、筆を紙面に下ろし、起筆を書いて、今送筆に移ろうとしたところを撮影しました。

 見ての通り、穂先は紙面に押し付けられ、筆の根本との間にS字のカーブが出来ています。

 丁度自動車のサスペンションのような役割をしています。この上下に力を伝える事を利用して紙面に力を加えます。
 
 これは、直接腕や手の押さえる力を伝えるのではなく、筆の持つ弾力を利用するということです。

 「書写」や「書道」の毛筆で字を書く場合、この力を使って、「突く」とか「押し返す」と言う言葉を使います。
 決して、筆先がべたっと紙面に付くように力を入れない事が、重要だと思います。

 今回は横画について、書き方のポイントを書いて見ました。これも前回同様、楷書を念頭に置いていますので、行書や草書の筆使いではありません。
 ちなみに、楷書から行書や草書が出来たものではない事も頭に入れておきましょう。
 
 もう一点、縦画も横画も起筆には、露峰と蔵峰という筆の使い方がある事も知っておく必要があります。ここでは、筆の先が見える方法を取っていますが、必ずしもどちらか一方ではなく、中間の入筆の方法もあります。

 書体の歴史  

 現在知られている毛筆で主な書体は、「篆書」「隷書」「行書」「草書」「楷書」の五つをあげる事が出来るでしょう。
 歴史的には「篆書」を簡略化したものが「隷書」で、これを早く書くために「行書」や「草書」が生まれました。「楷書」は一番後で整理して作られた文字と言う事ができます。
 年代的には、「篆書」が紀元前3世紀ごろとされています。そののち3世紀中ごろまでの間に「隷書」が研究され、ついで「楷書」が7世紀には、現在のような形に確立されたものだと考えられています。
 ですから、新しいと言っても、すでに1000年以上も使われている文字ですから、大切にしたいと思います。

 
  今回「青」「百」の文字を掲載しましたが、これも通信教育の上級コースの第一課題である、半紙に二列に書く「青雲百景」の「青」と「百」を取り出して、横画の見本にしました。赤丸で囲まれた部分が、横画の起筆になります。

 次に示した物は、書道界では有名な先生の文字をトレースさせてもらいました。それぞれに特徴のある起筆です。それにしても色々な形があるものです。

 横画起筆のポイント  

 縦画と同じで筆を45度左上から書き始めますが、筆をただ45度に入れても、今示したどの形にもならないと思います。どちらかと言うと、ぼてっとした下に丸みを帯びた雫のような形にしかなりません。少なくとも私の場合は。

 そこで、入筆に工夫が必要になって来ます。入筆と言う言葉は、紙面に筆が触れる事を表すために使っています。

 これも、私の方法ですから、正しいか正しくないかは、別にして、「百・青」で示した起筆が再現できます。

 まず、筆を紙面に付けた時に、早く付けても、遅くつけても、そっと付けても、筆を直下に下ろさない事がコツだと思っています。

 穂先が紙面に付いたら、筆の左面を紙面に付けるようにして少し右に筆をずらします。このずらす方法は、背と腹が同時に横に移動する感じです。と言っても移動距離は、文字の大きさにもよりますが、半紙に4文字書くとした場合でも、2mm程度と考えてください。

 そして、そのまま送筆(ここでは、横に筆を運ぶ)に入っては、起筆の形が作れません。

 横にずらした筆をここで、腹まで付けて、入筆した方向に押し返します。そうすると、筆の毛の部分が湾曲します。その湾曲した筆の、もとに戻ろうとした力を感じて送筆に移ります。これが冒頭の写真のS字型です。

 これで、送筆した後で、起筆を見ると、形が出来上がっていると思います。
 この方法も、トレースした起筆を再現するためには、少し工夫が必要な事は言うまでもありませんが、一つの方法を会得すると、意外と簡単に他の形を再現する事も可能になります。

 

 送筆 

 縦画にも横画にも、送筆と言う部分があります。起筆と終筆あるいは、転折(折れ)などの中間に筆を送る事です。  
図に示す「送筆」の部分を言います。

 縦画の場合は、送筆の間、穂先が左端にあり、横画の場合は、上にあります。
 そして、縦画の場合は、筆の左面が45度左下、右面が45度右上、筆の腹は穂先(背)とは逆側の45度右下を向いたまま、下に移動します。
 横画も筆の向きはまったく同じですが、移動の方向が右に若干右上がりぎみに移動します。
 この時のポイントは、筆の軸を回転せずに移動する事が重要です。

 

【参考文献】
・青山杉雨・村上三島(1976-1978)『入門毎日書道講座1』毎日書道講座刊行委員会.
・高塚竹堂(1967-1982)『書道三体字典』株式会社野ばら社.
・関根薫園(1998)『はじめての書道楷書』株式会社岩崎芸術社.