お習字から書道へ Section 17

 今回は横画から縦画に方向を変える「折れ」について、書き方のポイントを書いて見ました。 

 この「折れ」も書籍によって呼称が違います。これも前回同様、楷書を念頭に置いていますので、行書や草書の筆使いではありません。
 
 「月」の字を書いて見ました。赤丸に示した部分が、「折れ」です。横画と縦画の交わりと言えます。

 このトレースした枠書きの、元の文字は、日本でも相当に有名な書家の文字です。私が書いた文字とは、趣が違います。
 私が書いた文字は、東京書道教育会の手本を書写したものです。

 ここでは、どちらが好みと言う問題では無く、「折れ」の違いを観察してもらえれば良いと思っています。

 他にも有名な書家の「折れ」がありますし、同じ人の文字でも、文字によって、点画の場所によって違いがありますから、色々な文字を観察して、自分の好みに合った「折れ」を再現してみる事も稽古になります。

 特に古典と呼ばれる文字には、それぞれ特徴のある「折れ」がありますので、臨書をする場合に、点画の形に拘って見るのも良いかと思います。
 この形に拘って臨書する事を、「形臨」と言います。「形臨」の場合は点画はもちろんですが、文字そのものの形をそっくり真似るようにします。
 また、書かれた人の意を汲み取って書く臨書もあります。「意臨」と呼ぶそうです。

 呼称  

 「折れ」と言う呼称は、東京書道教育会で言われている呼び方です。

 『はじめての書道楷書』(関根薫園著)では、「転折」と言われています。
 また、『入門毎日書道講座1』(青山杉雨・村上三島編)では、「転角」との記載がありました。

 私は、どこで知ったのか記憶にありませんが、「転折」と言う言い方に馴染みがあります。

 ちなみに、文部科学省後援の毛筆書写検定ガイド(續木湖山監修)には、「転折」の記述が見られます。この續木湖山先生は、東京書道教育会の手本を書かれています。

 
 

 折れのポイント  

 黄色の円で示した部分が「折れ」と言われている部分です。これは、前回の「運筆(送筆)」で使用した「横画」と「縦画」で、合体した形を想定して、画像処理をしてくっつけたもので、書いたものではありません。
 にもかかわらず、このまま「日」や「目」、「見」などの文字の一部と思って差支えが無いほど、マッチしています。

 この横画の終筆と縦画の起筆をポイントとしている人もいますが、私はこれをポイントにしていません。理由は、実際に書く場合は「折れ」は、単体の組み合わせではなく、流れの中で横から縦に筆を扱いますので、また違った工夫が必要だと思っています。

 では、その工夫の一つを紹介します。と言っても、私がやっている方法です。
 原則として、筆の背と腹の左に傾いた45度の角度を変えないようにします。
 
 横画の運筆(送筆)から転折(折れ)の位置まで筆が来た時に、一旦筆の腹を浮かします。次に、穂先だけ紙面につけた状態で、背と腹を右上に移動します。

 筆の腹から紙面を押し付けるように下ろして、筆の左面を紙面につけるようにしながら、穂先を中心にほんの僅か腹を右回転させます。
 
 軸を回転するのではなく、あくまでも、穂先を中心に回転させますが、僅かに回転した時に腹を浮かせて、その浮かせた腹の位置に穂先を揃えて移動させ縦画の運筆(送筆)に入ります。

 これで、私が書いた『月』の転折(折れ)の形が出来たと思います。 

 

 一口メモ 

 点画については、文字の形と一緒に練習すると、形が上手く取れません。
 その理由は、点画は慣れないと、微妙に集中力がいります。無意識に筆が動かせるようにならないと、形にまで頭が回りません。点画を考えると、その部分に集中して、視野が狭くなり、文字の形や配置にまで思いが行き届かないのです。

 私は、点画を文字とは別に、自分のものにするための練習をします。自然に頭を使うことなく、起筆ができ終筆ができるように訓練します。

 条件反射の域になるようにします。その条件は今から筆を紙面に付けると言うのが、起筆の条件です。今から方向が変わるという気持ちが「折れ(転折)」の条件になるようにしています。
 
 起筆で紙面に筆を付ける事を、仮に入筆と呼びましょう。入筆した段階で文字の形を既にイメージしなければ運筆(送筆)できません。
 ですから、入筆を条件として反射的に無意識に起筆の形が出来なければなりません。

 この考えが正しいかどうかは、自分で試してください。意外と的を得ていると思いますが、どうでしょう。

 

【参考文献】
・青山杉雨・村上三島(1976-1978)『入門毎日書道講座1』毎日書道講座刊行委員会.
・高塚竹堂(1967-1982)『書道三体字典』株式会社野ばら社.
・関根薫園(1998)『はじめての書道楷書』株式会社岩崎芸術社.
・江守賢治(1995-2016)『硬筆毛筆書写検定 理論問題のすべて』株師会社日本習字普及協会.