【五輪書から】何を学ぶか? |
今回の「三つの先」については、空手を本格的に始めた頃より興味があり、色々考え、また稽古を積みました。武蔵は、戦いを始めるにあたっては、この「三つの先」以外にはない、と言い切っています。
単に『懸かる・待つ・躰躰(身体と身体)の先』と言っても、結構奥が深くて、また、解釈もマチマチなのが現状だと思いました。と言うのは、自分で思っている「先」と競技空手では有名な選手であった人との解釈に、違いがあったのです。
通常、「先の先」「後の先」「先先の先」と言われていますが、やはり、「懸の先」「待の先」「躰躰の先」と言った方が、紛らわしくないと思っています。
奥が深い理由は、懸かる技術の前に、そして、待つ技術の前に、また、懸かり合う技術の前に、相手に対する洞察力が、全てを決するところにあると言えるのです。
もちろん、懸かる技術も必要ですし、待つための技術も必要です。まして、相手とぶつかり合う時の技術や体力も必要な事は、言うまでもありません。
しかし、見える部分については、教える事も、習う事も出来ますが、見えない部分について、体得していくのは簡単ではありません。「口伝」「以心伝心」の域かも知れません。(写真は、自由組手の一コマで、礒田師範が「先の先」で攻撃を仕掛けた瞬間です)
【火之巻】の構成
1. 火之巻 序
2. 場の次第と云事 3. 三つの先と云事 4. 枕をおさゆると云事 5. 渡を越すと云事 6. 景氣を知ると云事 7. けんをふむと云事 8. くづれを知ると云事 9. 敵になると云事 10. 四手をはなすと云事 11. かげをうごかすと云事 12. 影を抑ゆると云事 13. うつらかすと云事 14. むかづかすると云事 15. おびやかすと云事 |
16. まぶるゝと云事
17. かどにさはると云事 18. うろめかすと云事
19. 三つの聲と云事
20. まぎると云事
21. ひしぐと云事
22. 山海の變りと云事
23. 底をぬくと云事
24. あらたになると云事
25. 鼠頭午首と云事
26. 将卒をしると云事
27. 束をはなすと云事
28. いはをの身と云事
29. 火之巻 後書
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3. 三つの先と云事
三つの先、一つは自分から相手に懸かる先、これを懸の先と言う。また一つは、相手から自分に懸かる時の先、これは、待ちの先と言う。また一つは、自分も敵も懸かり合う時の先、これを躰々の先と言う。これが三つの先である。どんな戦いでも、始まりは、この三つの先より他はない。先の状態によって、もはや勝てるのだから、この先は兵法の第一である。
この先の子細については、様々あるが、その時々の理(ことはわり:一番良い方法)を先とし、敵の心を見、自分の兵法の知恵を持って勝つ事であるから、詳細に書き分ける事はしない。
一番目の懸の先については、自分から懸かろうと思った時、静かな状態から予想外に速く懸かる。表面は強く速く見せて、心は静かに動じない。又、自分の心を如何にも強くして、足は普通よりも少し速く、敵の近くに寄り付き、素早く心を込める先。又、初めから終わりまで、心を解き放ち何も考えないで、敵を圧し潰すようにして、心底強い気持ちで勝つ。これは、どれも懸かる先である。
二番目の待ちの先については、相手が自分に懸かって来る時に、少しも動揺せず、表面は弱いように見せて、呼び込み、相手が近くなったら急に強い心になって、飛び懸かるように見せて、相手が怯む所を見て、直ぐに強く勝つ事。これ一つの先である。又、相手が懸かって来る時、自分は相手よりも強く出て、相手の拍子が変わる瞬間に勝ちを得る事。これが待ちの先の理(ことわり:一番良い方法)である。
次に三番目は、躰々の先。相手が早く懸かる時には、自分は静かに落ち着いて強く懸かり、相手が間近になった時、覚悟を決めて構え、相手に怯みが見えた時、直ぐに強く出て勝つ。又、相手が静かに懸かって来る時は、自分は身も心も軽やかに、少し早く懸かり、相手が近くなって揉み合いになり、相手の状況に合わせて、強く勝つ。これが、躰々の先である。
この事については、詳細には書き分け難い。この書き付けに、ほぼ書き表してあるのでよく読んで工夫すること。
この三つの先は、その時の様子によって、理(ことわり:一番良い方法)を選択して、何時でも自分から懸かる事はないが、できれば、自分から懸かって、相手を自由に追い回したい事である。何れの先も、兵法の知力で、必勝できるよう、心身共によく鍛錬する事。
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『私見』
「懸の先」「待の先」「躰々の先」について、私が常々思っている「先」について、書いてみます。「先」と言うのは、剣術の場合は「斬る・突く」と言う意味であろうと思います。空手の場合は、突く・打つ・蹴るなどの攻撃技を指します。
ですから、「懸の先」と言えば、これらの攻撃技で、相手に先に懸かると言う事です。自らが相手に懸かっていく時の方法です。読んで字のごとくですが、色々な要素があります。次回からのテーマの大部分が、この初動作に関係します。
武蔵が書き記している「懸の先」(藍色の字)では、
1. 静にして居、俄にはやく懸る先、うへを強くはやくし、底を残す心の先。
(1) 相手に攻撃の気配を感じさせないで、素早く攻撃するが、相手の反撃に対処出来るよう、身体も気持ちを残しておく。
2. 我心をいかにも強くして、足ハ常の足に少はやく、敵のきハへよると、早もミたつる先。
(2) この一撃で相手を倒す勢いで、素早く相手に近づき一気に攻撃する。
3. 心をはなつて、初中後同じ事に、敵をひしぐ心にて、底まで強き心に勝。
(3) 何も考えないで、相手に接近し敵を圧し潰すくらいの気迫で攻撃する。
★緑字で書いた部分は、空手を想定して書き換えた私見です。
一言で言うならば、相手が対処する暇がないように攻撃する、という事に尽きます。「一の太刀を疑わず」「二の太刀要らず」と言った、示現流を想起させるような攻撃をすると言う事です。
同じ方法で「待の先」を読み解きましょう。
1. 敵我方へかゝりくる時、少もかまはず、よはきやうにミせて、敵ちかくなつて、づんと強くはなれて、とびつくやうにミせて、敵のたるミを見て、直に強く勝事。
(1) 相手が攻撃してきても、相手の動きを見定めて、弱気になったように見せながら、相手が間合いに入るのを見極めて、さっと間合いを外すやいなや、飛び込む気勢を見せ、相手が怯む所を直ぐに攻撃する。
◎この「づんと強くはなれて」を如何に読み解くかで、状況が一変します。「はなれて」を気持ちを変えてと読む場合もあるかと思いますが、私は、間合いを外して、相手の気の弛みを誘い、攻撃します。
2. 敵かゝりくるとき、我もなを強くなつて出るとき、敵のかゝる拍子の替る間をうけ、其まゝ勝を得事。
(2) 相手が攻撃するのを見定めて、その攻撃を撥ね退ける勢いで反撃する。これは、こちらの気勢に相手がたじろぐ瞬間に攻撃する事が大切である。
さて、最後の「躰々の先」に移りましょう。
1. 敵はやく懸るにハ、我静につよくかゝり、敵ちかくなつて、づんとおもひきる身にして、敵のゆとりのミゆる時、直に強く勝。
(1) 相手が早く懸かる時には、自分は静かに受け止めるように攻撃を仕掛け、相手と間合いが接近した時に、覚悟を決め、相手が勝てると思い油断した瞬間に強く攻撃する。
2. 敵静にかゝるとき、我身うきやかに、少はやくかゝりて、敵近くなつて、ひともミもみ、敵の色にしたがひ、強く勝事。
(2) 相手が静かに間合いを詰めてきたら、自分は軽く相手よりも少し早く攻撃し、相手との間合いが詰まり、揉み合いして、その時の相手の出方に対応して、瞬時に強く攻撃をする。
では、武蔵の言う「三つの先」以外に本当に、戦い初めはないのでしょうか。
空手であっても、剣術であっても、捌きという対処の仕方はあると思います。
受けでも、流しでもなく、交差して捌き、同時に攻撃する方法があります。
通常これを、「後の先」と言っています。「待ち突き」「待ち蹴り」、あるいは、「交差突き」「交差蹴り」とも言います。
あくまでも、相手の攻撃を待ち、その攻撃を見切って捌きながら、相手の攻撃よりも速く反撃をします。もちろん、その為には、次回以降に出てくる、相手の動きを、いち早く察知する能力が無くてはなりません。それでも、私は「後の先」の類を、「待の先」の仲間に入れたいと思っています。
【参考文献】
・神子 侃(1963-1977) 『五輪書』徳間書店.
・佐藤正英(2009-2011) 『五輪書』ちくま学芸文庫.
【参考サイト】
・播磨武蔵研究会の宮本武蔵研究プロジェクト・サイト「宮本武蔵」http://www.geocities.jp/themusasi2g/gorin/g00.html
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