『礼と節』を徹底解剖 Part-6

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 「早起きは三文の徳」と言います。現在では労働基準法や就業規則で、取り決めがありますから、自分勝手に早く出社したり、遅くまで会社に居残る分けには行かない時代になっています。

 私が若い頃には、まだ「早起きは三文の徳」が一般的だったと思います。一番目の就職先が父が営んでいる時計屋だったので、朝8時に店を開け、夜10時に閉めるという毎日でした。休みは月1回と、正月の三が日。大晦日は商店街の人通りがなくなるまで。大体元旦の朝2時ごろでした。
 父の反対を押し切って、朝8時から夜8時までに短縮した記憶があります。

 今日のテーマは、「早起きは三文の徳」とは直接関係ありませんが、私が若かったころまでは、仕事を終日する事は美徳でした。
 挨拶も「もうかりまっか」「ぼちぼですわ」、または、「ごせいがでまんな」と通る人がねぎらってくれました。
 
 前回同様原文は、下記のバーをクリックすると見る事が出来ます。

『十七条憲法 原文』
第一条 一曰。以和為貴。無忤為宗。人皆有黨。亦少達者。是以或不順君父。乍違于隣里。然上和下睦。諧於論事。則事理自通。何事不成。
第二条 二曰。篤敬三寳。三寳者仏法僧也。則四生之終帰。萬国之極宗。何世何人非貴是法。人鮮尤悪。能教従之。其不帰三寳。何以直枉。
第三 三曰。承詔必謹。君則天之。臣則地之。天覆地載。四時順行。万氣得通。地欲覆天。則致壊耳。是以君言臣承。上行下靡。故承詔必慎。不謹自敗。
第四条 四曰。群卿百寮。以礼為本。其治民之本。要在乎礼。上不礼而下非齊。下無礼以必有罪。是以群臣有礼。位次不乱。百姓有礼。国家自治。
第五条 五曰。絶餮棄欲。明辯訴訟。其百姓之訴。一日千事。一日尚尓。况乎累歳須治訟者。得利為常。見賄聴 。便有財之訟如石投水。乏者之訴似水投石。是以貧民則不知所由。臣道亦於焉闕。
第六条 六曰。懲悪勧善。古之良典。是以无匿人善。見悪必匡。其諂詐者。則為覆国家之利器。為絶人民之鋒釼。亦侫媚者対上則好説下過。逢下則誹謗上失其如此人皆无忠於君。无仁於民。是大乱之本也。
第七条 七曰。人各有任掌。宜不濫。其賢哲任官。頌音則起。 者有官。禍乱則繁。世少生知。尅念作聖。事無大少。得人必治。時無急緩。遇賢自寛。因此国家永久。社稷勿危。故古聖王。為官以求人。為人不求官。
第八条 八曰。群卿百寮。早朝晏退。公事靡 。終日難盡。是以遅朝。不逮于急。早退必事不盡。
第九条 九曰。信是義本。毎事有信。其善悪成敗。要在于信。群臣共信。何事不成。群臣无信。万事悉敗。
十条 十曰。絶忿棄瞋。不怒人違。人皆有心。心各有執。彼是則我非。我是則彼非。我必非聖。彼必非愚。共是凡夫耳。是非之理能可定。相共賢愚。如鐶无端。是以彼人雖瞋。還恐我失。我獨雖得。従衆同擧。
第十一条 十一曰。明察功過。罰賞必當。日者賞不在功。罰不在罪。執事群卿。宜明賞罰。
第十二条 十二曰。国司国造。勿斂百姓。国非二君。民無兩主。率土兆民。以王為主。所任官司。皆是王臣。何敢與公。賦斂百姓。
第十三条 十三曰。諸任官者。同知職掌。或病或使。有闕於事。然得知之日。和如曾識。其非以與聞。勿防公務。
第十四条 十四曰。群臣百寮無有嫉妬。我既嫉人人亦嫉我。嫉妬之患不知其極。所以智勝於己則不悦。才優於己則嫉妬。是以五百之後。乃今遇賢。千載以難待一聖。其不得賢聖。何以治国。
第十五条 十五曰。背私向公。是臣之道矣。凡人有私必有恨。有憾必非同。非同則以私妨公。憾起則違制害法。故初章云。上下和諧。其亦是情歟。
第十六条 十六曰。使民以時。古之良典。故冬月有間。以可使民。従春至秋。農桑之節。不可使民。其不農何食。不桑何服。
第十七条 十七曰。夫事不可独断。必與衆宜論。少事是輕。不可必衆。唯逮論大事。若疑有失。故與衆相辨。辞則得理。
[出典]金治勇(1986)『聖徳太子のこころ』大蔵出版.

 現代文を要約したものを下記に示してあります。バーをクリックすると見る事が出来ます。
『十七条憲法 現代文要約』
1.和を以て貴しとなす。という、有名な言葉を一番最初書いています。
2.仏・法・僧を信奉しなさい
3.王(天皇)の命令に、謹んで服従しなければ、国家の存亡にかかわる。
4.上の者が礼を遵守しなければ、下の秩序はみだれ、下の者が無礼であれば罪人を作る。
5.法を行う者は、接待や供与を受けず、厳正に審判すること。
6.面従腹背の輩は、国家を滅ぼす。
7.権限の乱用は国家の存続をおびやかす。
8.公務につく者は、早く出勤し、遅く退出する。
9.真心は人の道の根本である。真心をもって仕事をすること。
10.人間は賢愚を同時に備えている。耳輪に端がないのと同じである。自分がすべて正しいと言う考えを持たない事。
11.信賞必罰の励行。
12.税金は重複して取ってはならない。
13.職務に対しては熟知し、公務を停滞させてはいけない。
14.嫉妬の禁止。
15.私心を捨てて公務にあたる事。
16.人民を使役する時は、時期、環境を考えてする。
17.重大な事柄を判断する時は、必ず衆知を集め議論したうえで決める事。

 本日のテーマは、『十七条憲法』第八条です。
 漢文では『群卿百寮 早朝晏退 公事靡盬  終日難盡 是以遅朝 不逮于急 早退必事不盡』です。また読み下して見ましょう。
 『群卿百寮、朝は早く晏く退く。公事むこと靡く、終日にても盡き難し、是を以て、朝遅ければ急なるに逮ばず。早く退けば必ず事盡不。』
 また、現代文にして見ますと、
 『役人は、朝は早く来て夜は遅くに帰る。公事は休む事無く、終日働いても尽くしがたい。ゆえに、朝遅く来れば急な仕事に間に合わず、早く帰れば必ず仕事が残ってしまう。』

 これは、役人が仕事をする上で必要な姿勢ですが、仕事は人の為にする事という事では、冒頭の挨拶と同等のような気がします。
 今では、自分の生計を立てるために、あるいは贅沢をするため、またある人は好きだから仕事をするようになってきました。もちろん、今でも、世の為人の為を思って仕事をしている人もいると思います。

 なぜ、この第八条を『礼節』と関係があると思ったのかと言いますと、この世の為人の為に仕事をすると言う事につながると思っています。
 世の中の人が必要とするから、朝早くに出社し、滞りなく仕事をこなす。そして、今日の内に仕事を終わらしておかないと、その仕事を待っている人がいる。言葉を変えれば、需要と供給の関係ですが、そこには、人を思いやる気持ちが介在していると思います。これが『礼節』の基本ではないでしょうか。

 世の為人の為と言う言葉が現代に則さないのでしょう。言葉が浮いています。それでも、こういうちょっと「気恥ずかしさ」を覚える言葉が言える時代の方が、良かったような気がします。やはり年寄りの戯言でしょうか。

 「情けは人の為ならず」と言う言葉を聞いたことがあると思います。『情けを人にかけておけば、巡り巡って自分によい報いが来るということ。 〔近年、誤って本人の自立のために良くないと理解されることがある〕』(出典:大辞林 第三版 三省堂.)、学校教育では教えないのか、[補説]文化庁が発表した「国語に関する世論調査」では、本来の意味を理解している人と、間違って覚えている人の割合が、ほぼ半々になっています。
 故事や諺には、思いもかけない効果があります。特に人生の岐路にある時や、思い悩んでいる時の光となる事もあると思います。なんでもかんでも市場に合わせて、言葉を増やしていくのもどうかと思います。

 世の為人の為が、結局は自分の身に巡って来ると言う考えを、ギブアンドテイクのように考えてしまいがちですが、私は、人に対して優しい気持ちを持ち、思いやる事に、清々しさを感じるのです、それで、すでに自分の為になっていると思う方が、気分がすっきりすると思うのです。

 懐古趣味と言われるかも知れませんが、人の商売や仕事に対して、ねぎらいの言葉が出た時代の方が、私利私欲の為だけではなく、世の為、人の為に、仕事が成り立っていたのだと思います。仕事と言うのは、社会の為と言う意識を社会が共有出来ている時代の方が、仕事に『せい』が出ますね。

 私が考える、『礼節』の根幹です。


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