空手道における型について【3】
平安初段 11~21

 

 文章の青字で記述したものは、現在、日本空手道髓心会で行っている方法です。しかし、これも全日本空手道連盟の指定の方法がありますので、これに従って練習しているのが実情です。これについては、記述していません。
 なお、緑字で記述したものは、原点に戻した方が合理的と思われるところです。

 昭和10年当時まだ立ち方、受け方、突き方の名称が定まっていなかったと思われる記述があります。この場合も現在の方法として、青字で書く事にします。現代文にしても意味が分かりにくい部分については、赤字で追記するようにしています。同じく、写真(『空手道教範』にある)を参照の部分については、赤字文章で分かるように追記しています。『空手道教範』に掲載の写真は著作権の関係もあると思いますので、載せていません。
〔ページを遡る煩わしさを避けるため、説明部分は、前回の1~10と重複して記載しています。

 

平安初段へいあんしょだん-11~21

11.右足を軸として、左足を第三線上に踏出し、前屈の姿勢を取ると同時に、右拳(手甲下)を腰に、左拳(甲を上)は左腿の上約20cmのところに構える。1.と同じ。
(注)この時左拳は右肩前より、右拳は左斜め下より互に引くように、反動をつける事を忘れないよう、1.と同様、脇腹への攻撃を防いだ心持。
【前屈とは、前足を曲げ、両足の踵は一直線上にある】
『現在は前屈立と立ち方の名称を明確にし、前方から見て、両足の間隔は、肩幅程度に開き、前足の膝から垂直に下した線が、指先から足首の間に来るように曲げる』『 「心・技・体」の「技」に私が考える前屈立を記述しています。
』『左手の受けは、現在下段払と名称が明確になりました。』『左手の位置は、膝頭より拳が一つと習いましたが、この場合中段を下段払で受けるので、20cm程度の方が合理的だと思います。』

12.右第三線上に右足一歩前進すると同時に、左拳は捻じり上げるように腰に引き、右拳は中段突き。
(注)左手にて相手を掴み引寄せながら右拳にて胸部を突く心持。
【ここで言う中段は、写真及び(注)にあるように胸部の事です。】
『この動作は現在追い突きと呼ばれています。現在中段は水月を言います。』『 「心・技・体」の「技」に追い突きの方法を動画と共に記述しています。』
『この動作で原点に戻したい動作は、左手で相手を掴んで引き寄せながら、と言う部分です。』

13.左足はそのまま、右足を第三線上左方に返して前屈下段受けの姿勢を取る。
(注)左手の拳に反動をつける事、前の通り。この動作は前方の敵を倒し時、後方より別の敵が攻撃して来るのを察知して、振返りざま下段受けした心持。

14.第三線上左方へ、更に足を踏出し、右拳を捻ぢ上げるが如く腰に引くと同時に、左拳は中段突き。
(注)型の意味は5.と同じ。この場合のみに限らず、常に左右の足は内方に向って引締める様に注意せよ腰のすわりという事は最も大切である。

15.右足を軸として、左足を第二線上に一歩踏出し、前屈、下段受けの姿勢をとる。
(注)左右の拳互に大きく反動をつけることは前と同じ。

16.第二線後方に、右足一歩前進、(前屈の姿勢)左拳を腰に引くと同時に、右拳にて中段突き。
(注)型の意味は、2.12.と同じ。

17.第二線後方に、左足一歩前進、(前屈)右拳は捩じ上げ腰に引くと同時に、左拳中段突き。
(注)同じ動作が三回連続するときは、多少力の強弱と、変化がなければならない。即ち両端は強く、真中は弱くする心持。

18.第二線後方に、右足更に前進、(前屈)、左拳を引くと同時に、右拳中段突き。
(注)16.、17.よりも力を入れて、足も心持広く踏出し、右拳が極まる瞬間「ャッ」と気合を掛ける。

19.右足を軸として、左足を第一線上左方に踏出し、(後屈の姿勢)左右の掌を開いて、左掌は右肩前より(甲を外)右腕の上を滑る如くり、右掌は左斜下より引つけるように、互に反動をつけて受け姿勢を取る。
(注)平安初段の中にて最も難かしい動作であるから注意して練習せよ。後屈にて身体は必ず前方に向けたまま、顔だけ左方に向ける。左手は肘を少し曲げて、肘と脇腹との間隔はだいたい15cmから20cm、掌は人示指の第一節が肩と水平になる位。拇指は曲げる。右手は胸を護る意味で水月のあたりに水平に置き、指先が左脇腹と並ぶ位。同じく拇指を曲げる。
【後屈の姿勢は、後ろ足を曲げ、前足は前方に向け、後ろ足は前足と直角に近い。21.(注)を参照】
『現在は後屈立の名称が明確になると共に、後ろ足に70% 前足に30%の体重を乗せます。』『身体の向きは、前方に対して45度にします。』
後屈立ちは昭和40年から昭和50年の間に、現在のようになりましたが、私が致道館に入門した当時は、後ろ足に90%体重を乗せる人もいましたし、身体の向きも一定では無かったような記憶があります。
『空手道教範』に掲載の富名腰義珍師の写真では、糸東流などで行われている後屈立と猫足立との中間的な立ち方だと思います。

20.左足を軸として、右足を左第一線の斜前方に踏出す(後屈の姿勢)と同時に19.と全く反対に、右手を左肩前に肘をやや曲げて構え、左手は胸部を護って水月のあたりに水平に置き、顔は右肩越しに右方の敵を見つめる心持。
(注)この動作は、右手首にて攻撃を防ぎ、機を見て相手の手首を右手にて掴むと同時に引寄せつつ左貫手にて相手の水月を突くという意味も含まれている。
19.21.22.も同じ。

21.左足を軸として、右足を第一線上に返しながら(後屈)、右肩前方に右手を構え、水月のあたりに左手を水平に置き、顔は右に向け右肩越しに右方を見る。
(注)この構えの時は特に足に注意して、後方の足に体重を乗せ前の足は軽く地につけ爪先に力を入れて後に引つける心持。

22.右足はそのまま、左足を右第一線の斜前方に踏出しながら(後屈)、左手刀を左肩前に、肘を少し曲げて構え、右手は胸部を護って水月のあたりに水平に構える。
(注)以上22.で平安初段の型は完了したのであるが、実際には7.、8.は一挙動となるから、全部で二一挙動となる。

直れの号令と共に、右足はそのまま、左足を第一線上に返しながら、左右の拳を振りしめて、用意と同じ姿勢に復する。直れの動作はユックリと落着いて行う。
(注)演武開始の位置と、演武終了の位置、即ち「用意」と「直れ」の位置は常に同じでなければならない。
『直れで、両手を交差してから用意の姿勢にもどり、着眼は用意の姿勢に戻った時に正面に移します。』
この(注)で書かれてある、「用意」と「直れ」の位置は、点としての位置ではなく、開始位置の付近に、身体の向きが「用意」と「直れ」の時に、同じであれば良いと考えます。
 私も若い頃は、始めの位置に戻るために色々工夫しましたが、単純に考えても第2線の往復で、往路は前屈から、1歩目2歩目3歩目と膝を伸ばして立っていますので、レの字立、あるいは基立ちに近いと思います。復路は、前屈で構え、1歩目2歩目は前屈、3歩目は大きく踏み出しますので、当然第2線の往復の距離が違ってきます。

『考 察』
 移動する時には、必ずどちらかの足を軸にして、前後左右に逆の足を動かしますが、この時、軸足は、この『空手道教範』では、明確な指示はありません。しかし、足の図を見ると踵が軸になっています。現在でも踵を軸にしてるのが松濤館流としては主流のようですが、私は、上足底(指の付け根の膨らんだ部分)の土踏まず側を軸にした方が良いと思っています。ただ、これも限定するのではなく、場合によっては、踵を軸にすれば良いと思います。理由は踵を軸にすると、回転しやすい利点はありますが、不安定な要素があるためです。
 次回は、平安二段前半を掲載します。

【参考文献】
・富名腰義珍(1930)『空手道教範』 廣文堂書店.
・富名腰義珍(1922-1994)『琉球拳法 唐手 復刻版』 緑林堂書店.
・Gichin Funakoshi translated by Tsutomu Ohshima『KARATE-Do KyoHAN』KODANSHA INTERNATIONAL.