空手道における型について【14】
鉄騎二段 1~12

 

 文章の青字で記述したものは、現在、日本空手道髓心会で行っている方法です。しかし、これも全日本空手道連盟の指定の方法がありますので、これに従って練習しているのが実情です。これについては、記述していません。
 なお、緑字で記述したものは、原点に戻した方が合理的と思われるところです。

 昭和10年当時まだ立ち方、受け方、突き方の名称が定まっていなかったと思われる記述があります。この場合も現在の方法として、青字で書く事にします。現代文にしても意味が分かりにくい部分については、赤字で追記するようにしています。同じく、写真(『空手道教範』にある)を参照の部分については、赤字文章で分かるように追記しています。『空手道教範』に掲載の写真は著作権の関係もあると思いますので、載せていません。
〔ページを遡る煩わしさを避けるため、説明部分は、前回までと重複して記載しています。

 

鉄騎二段 てっきにだん-1~12

旧称ナイハンチ二段
全部で二六挙動約、およそ一分間で完了する。
演武線は前の初段と同じく第一線のみである。

(用意)演武線の左端に八字立ち、両手を握り自然に垂れて、両拳は腿の前に、平安初段の用意の姿勢と同じ。
 

開始位置は、限られた空間、部屋や道場で演武(型をうつ)する場合に、最後まで途切れずに行うために必要な事です。  しかし、空手の稽古は場所を選ばないのが特徴です。一畳の空間があれば、どんな型でも稽古する事ができます。それは、足運びを工夫すれば良い事です。  ただ、試合や演武、あるいは審査の時などは、相応しい広さが用意されると思いますので、狭い所だけで稽古していると、その癖が出ます。私も昔の事ですが、狭い所で稽古していて、たまたま東京に行ったときに、先生から試合に出るよう言われたので、観空大を行い、伏せる所を、伏せないで練習していましたので、その癖が出てしまいました。そんな思い出があります。

1.顔だけ右方に向くと同時に、(1)のように右足そのまま、左足は右足を軽く越えて交叉し、両肘を折曲げて水平に張り、両拳は乳の下に。
(注)右方の敵に対し、胸部を護りながら用意する。

「空手道教範」では、胸部を護る動作がでてきます。私が習った頃は、上段は人中、中段は水月、下段は金的と正中線上の急所が指定されていました。しかし、この「空手道教範」では、脇腹や腿、ここに出てくる胸部への攻撃があります。これは護身術や闘技としても忘れてはならない攻撃場所だと思います。

2.左足そのまま右足を大きく一歩右へ踏出す(騎馬立)と同時に、両手を立てる(両手甲外向両拳が顎の前に来る)ように反動をつけて(2)のように右手中段受け(手甲上向)すると共に、左手は胸部の前に水平に構える(手甲上)。
(注)右拳は肩の高さに、右肘は脇腹より約15cm、顔は右方に向けたまま、右側からの中段突きを、右手首にて内受けする。左手は胸部を護る。
『文章では踏み出す、あるいは踏み込む、また高く膝をあげ、という言葉がありますが、高く膝をあげ、と言う場合は踏み込んでいますが、それ以外はどちらとも言えません。船越義珍師の昔の映像では、この部分は踏み込んではいません。』
『髓心会では膝を高くあげて踏み込んでいます。』
『踏み込む必要性は見当たりませんので、元に戻す方が良いと考えます。』

3.右足そのまま、左足は軽く右足を越えて交叉しながら顔は右方を向けたまま、右拳は前方(手甲下向)に打ち伸ばすと同時に、左手を開いて(四指を揃へ拇指下)右肘を軽く左方より支える。
(注)左拳の高さは乳の下位。右肘は伸ばして左前腕は胸と平行する。右方の敵を防いだ時、前方からも攻撃して来るのを察して、右手にてそれを防ぎながら顔だけ右を向いて、なお右方の敵に対する注意を怠らない意味。
この場合の左手の位置は、右手に接する左手の指先が、右手首に接していれば、自然にこの形になります。

4.左足そのまま、右足大きく一歩右へ踏出す(騎馬立)とと同時に、顔、上体はそのまま、右拳(甲下向)を右方へ、左手を添えたまま押しやる。この時右拳の高さは腰の上位。
(注)右側の敵の中段攻撃を、右手首にて外側へ押し除けた形。
『髓心会では、ここでは右足の踏み込みをしていません。』
『原点の文章表現では、踏み込む所と同じ表現ですが、船越義珍師の映像では、鉄騎二段で大きく足を上げている所は、(11)と逆の動作の(21)だけと思われます。原点に戻すべきか検討中です。』

5.右足そのまま、左足を引いて閉足立する(両膝を伸ばして)と同時に、顔は左側を振向き両肘を曲げて水平に張る。両拳は甲を上に両乳の下あたり。(1)に同じ。

6.顔及び右足そのまま、左足を左方へ大きく一歩踏出す(騎馬立)と同時に、両手を立てるように(甲は外)反動をつけながら左手(甲は上)中段受、右手は胸部の前に水平に(甲は上)構える。(2)と反対。
『髓心会では膝を高くあげて踏み込んでいます。』
『踏み込む必要性は見当たりませんので、元に戻す方が良いと考えます。』

7.顔左向、上体前向のまま、右足は軽く左足を越えて交叉すると同時に、左手(拳のまま甲は下向)を前方に伸ばすと共に、右手を開き(四指を揃へ、拇指下)、左肘に右方から軽く添える。すべて(3)の反対。
(注)左拳の高さは水月のあたり、右肘張つて右上腕は胸と平行する。
『拇指下と言うのは、親指が下にあるのではなく、左手に添って下を向くと言う意味です。』

8.上体及び右足そのまま、左足は一歩左方へ大きく踏出し(騎馬立)ながら、左手(拳の甲下向)を左方へ右手を添えたまま押しやる。すべて(4)の反対。
(注)左肘は伸ばしたまま、左拳の高さは腰の上ぐらい。
『髓心会では、ここでも原点の文章では明確ではありませんが、踏み込んではいません。』

9.下体そのまま、顔を右方へ振向けると同時に、左手を開いて左腰に(手甲左)引くと共に、右拳を左腰(手甲外)に構える。右拳に左掌が接するよう。

10.顔及び下体そのまま、(10)のように左右の手は同時に、右拳にて右側中段受け(甲下向)、左掌は右手首に添える。
(注)左右の手が離れないように動作せよ。上体は前向きのまま。

11.左足そのまま、(11)のように顔は前に向けると同時に右膝を高くあげ、右脇腹に両手を流すように、右拳腰(甲下)に、左掌これに当てる。
この部分は原点でも髓心会でも右足を踏み込んでいます

12.右足を元の位置に(5)のように強く踏込むと同時に、(騎馬立)上体を左に捻じって右肘を前方に突出す。右拳の甲は上向、左掌これに当てたまま。
(注)この時下体が崩れないように、上体立てて左に捻じるも、顔は前方に向けたまま。写真及び解説では(11)(12)と分けて説明したが、この部分は右二つを一挙動とする。この手の意味は右足にて相手の足に踏込みざま、右猿臂にて水月を当てたところ。

演武線ではイメージが湧きにくいと思いますので、実際の足跡をたどってみました。ここでは、黒の塗りつぶしの足形と黒枠の足形が後半になります。
 次回は、鉄騎二段後半を掲載します。

【参考文献】
・富名腰義珍(1930)『空手道教範』 廣文堂書店.
・富名腰義珍(1922-1994)『琉球拳法 唐手 復刻版』 緑林堂書店.
・Gichin Funakoshi translated by Tsutomu Ohshima『KARATE-Do KyoHAN』KODANSHA INTERNATIONAL.
・道原伸司(1976)『図解コーチ 空手道』成美堂出版.
・道原伸司(1979-1988)『空手道教室』株式会社大修館書店.
・田村正隆他(1977)『空手道入門』株式会社ナツメ社.
・杉山尚次郎(1984-1989)『松濤館廿五の形』東海堂.
・中山正敏(1989)『ベスト空手5 平安・鉄騎』株式会社ベースボール・マガジン社.
・内藤武宣(1974)『精説空手道秘要』株式会社東京書店.
・金澤弘和(1981)『空手 型全集(上)』株式会社池田書店.
・金澤弘和(1977)『新・空手道』株式会社日東書院.
・笠尾恭二・須井詔康(1975)『連続写真による空手道入門』株式会社ナツメ社.