お習字から書道へ Section 64

森鴎外、恐るべし!

 「童蒙入学門(どうもうにゅうがくもん)」を写したものが、公開されたと言うニュースを見ました。

 なんと、満7歳。全て漢文です。しかも楷書で、まるで古典を見るような、見事な書きぶりに驚きました。しかも、現在のB5版くらいの大きさの紙に17ページですから、その神童ぶりを窺わせるに十分な写本です。

 鴎外の10倍の歳から始めたとはとはいえ、7歳の子供に負けそうです。いや、文字によっては私よりも遥に上手いと思います。
 
 そう言えば、私の姉の場合も、小学校の一年生の時に書いた文字を見た時に、既に大学生だった私の字より、数段上手かった事を思い出しました。

 鴎外の文字をつぶさに観察すると、その点画の正確さに、今更ながら驚きます。実に正確な筆の使い方だと感心してしまいます。

 江戸時代の思想家であり医者でもある平田篤胤が書いたとされる、「童蒙入学門」と言う書物については知りませんが、私は森鴎外の達筆に驚いたので、記載しました。

 ニュースを知ったのは、テレビですが、インターネットでも書いたものを見ることが出来ました。【朝日新聞DIGITAL

 今朝も、朝からセミが鳴き、おまけに暑い!!  熱中症にならないよう、気を付けて下さい。

 では、森鴎外に少しでも近づくため、文字を選んで書く事にします。

 今まで通り『楷行草筆順・字体字典』(江守賢治著)から、上手く書けそうな文字と、難しそうだな、と思う文字の二種類の文字を選ぶようにしました。

 前回は、「つつみがまえ」「かぜがまえ」「きがまえ」「よく」を取り上げました。
 文字は、「勾」「匂」「包」、「凡」「処」、「気」、「式」「弐」を楷書で、「処」「気」を書写体で書きました。

 今回は、「ほこづくり」「ぎょうがまえ」を取り上げました。
 文字は、「成」「我」「戦」、「術」「街」「衛」を楷書で、「我」「戦」「術」「街」「衛」を書写体で書きました。

 書いて、眺めて、自分で添削、講評してみる事も一つの稽古。

 

 「成」は、横画が長すぎました。最後の左払いに注意しすぎて、全体のバランスを欠いてしまったようです。

 

 「我」も「成」と同じ間違いをしてしまいました。
やはり、横画が長くなりすぎです。書いている時に気が付けば良いのですが、なかなかそこまで気が回りません。

 書写体の方は、左払いが平行になってしまい、結構法で言われている事が実践できずに書いてしまいました。

 

 
 「戦」は、自己評価では良く書けたと思います。
しかし、書写体の方が上手く書けませんでした。

 

 
 「術」は、まずまずだと思いますが、真ん中の部分をもう少し工夫しても良いかと思います。

 書写体の方が、楷書よりもバランスは取れたと思います。

 縦画が並んでも、真ん中の縦画を工夫する事によって文字がよく見えます。縦画二本の「月」や「目」よりも書きやすく感じました。

 

 
 良く書けたと思います。なかなか気に入った文字になりました。  

 

 
 「衛」は、真ん中の「口」の扁平の仕方と、横幅によって、全ての文字のバランスが決まると思いました。

 書写体より楷書の文字の方が、しっかり書けたと思います。しかし、偏の書き方に、もう一工夫必要だったと思います。

 

   

 一口メモ 

 「書道技法講座〈楷書〉九成宮醴泉銘」(余雪曼著)が、「結体三十六法」と「結構八十四法」を基に九成宮碑文の特殊な結構を参酌して四十四に書き表したものを紹介します。
 今回は、その16回目です。
 【ここで書いてある文字は、九成宮醴泉銘を私が臨書したものです。赤い線は。『書道技法講座〈楷書〉九成宮醴泉銘』を参考に入れています。】
  
(33) 補空法
 この文字は「導」と言う文字の
書写体です。ここでの説明は、『字の形にすき間ができて困るとき、例えば「導」のような場合は一点を右側に補い、「舜」は「夕」の点を長く下にのばして調和をとる』とあります。

 通常の文字を書く場合は、このような事をすると間違いの文字を書く事になります。そして、書道でも、書写体で昔からこのような方法を取られている文字を使うのであれば、問題ないと思いますが、現在の人が、自分で考えてこのような工夫はするべきでは無いと思います。
 

 

(34) 増減法
 この場合も、『書家はその場合場合に応じて、筆画を増減して調和をはかる。』と書かれています。

 現在の書家もそのような事をしているのでしょうか。私は現在の書家と呼ばれている人のやり方には疎いので、理解しかねます。

 

 

(35) 疏法
 画数が少ない、「不」や「介」などの文字の場合、特に方向が一定ではない文字の場合には、空白部分に注意をして、それぞれ一画一画を広くとり、のびのびと書くと良い。特に中心軸をしっかり定めて平衡に注意する。

 

 

(36) 密法
 「顯」や「齢」などの画数が多く込み入った文字の場合は、それぞれの画が接触しないよう、譲り合うように書き、全体の文字の均衡を保つ、与えられた空間をしっかり捉えて書くようにする。

 

【参考文献】
・青山杉雨・村上三島(1976-1978)『入門毎日書道講座1』毎日書道講座刊行委員会.
・高塚竹堂(1967-1982)『書道三体字典』株式会社野ばら社.
・関根薫園(1998)『はじめての書道楷書』株式会社岩崎芸術社.
・江守賢治(1995-2016)『硬筆毛筆書写検定 理論問題のすべて』株師会社日本習字普及協会.
江守賢治(1981-1990)『常用漢字など二千五百字、楷行草総覧』日本放送出版協会.
・江守賢治(2000)『楷行草筆順・字体字典』株式会社三省堂.
・余雪曼(1968-1990)『書道技法講座〈楷書〉九成宮醴泉銘』株式会社二玄社.
・續木湖山(1970)『毛筆書写事典』教育出版株式会社.