お習字から書道へ Section 20

 今回は、「はね」と東京書道教育会では呼称していますが、書道界で統一されている様子はありません。

 「はね」は、払いと同じで、左右にありますが、字によって少しずつはね方が違います。

 「子・氏・心・勿・門」と言う字を書いてみましたが、並びに意味はありません。違った「はね」だと思い、抜粋してみました。

 赤丸で囲った部分が「はね」になりますが、書道の団体で、この「はね」には随分違った形があるようです。

 東京書道教育会では、勢いよくはねる事はせず、筆を整えながら、静かに短くはねています。
 勢いよくはねないといけない団体もあります。また、はねる角度も、東京書道教育会では、その前の運筆(送筆)に対してほとんど直角にはねているように思っていますが、他の書籍により、鋭角にはねる場合も、多く見受けられます。

 今回私が書いたのは、東京書道教育会での形を表現したつもりです。

 次にあげた文字は、「子・氏・心・勿・門」の写真を画像処理して、赤い線で「はね」の部分を囲みました。
 緑色の四角で囲んだところは、「右払い」です。「はね」と紛らわしいのですが、線の太さが「はね」の場合は、直ぐに先細りになりますが、「払い」の場合は、少し同じ太さで書いてから収筆で穂先をまとめています。

 

 はねのポイント  

  まず、右はねは、ここでは「氏」と「心」にあります。運筆の筆運びを一端休めます。そして、穂先を中心にほんの少し左回転させます。穂先と腹を結んだ線が運筆のほぼ同一線上になってから、直角に上げていきます。ですから、右はねは、右と言いますが、ほぼ真上とイメージすれば上手く書けると思います。前回の「そり」の時に書きました、「風」にも右はねがあります。

 次は、左はねです。「子」「勿」「門」を書きましたが、「なかれ」と書いてしまいましたが、あまり使われない言葉ですね。「ぶつ」「もち」とも読むそうですが、「事勿れ主義」の「ことなかれ」と言う言葉として使われますが、今はひらがなで書くと思います。ただ、「左はね」としては、例えば「場」や「物」、「賜」「易」などは使われると思います。
 そのポイントですが、運筆からやはり穂先を中心に、今度は右回転しながら(場所的には左に)腹を少し回転させ、運筆の方向と同じにします。そして、ほぼ直角に静かに腹を浮かせながら穂先を整えます。

 この運筆した線と同一線上に筆を回転させるのは、軸を回転させるのではなく、また、手先を回転させるのでもなく、S字形を筆に作る方法を取ります。このS字形を作る時に真直ぐに押すのではなく、穂先の右あるいは、左に腹を押し込む感じです。そうするとねじ曲がったS字の形が作れますので、このS字で出来た反作用の力を利用して、はねると良いと思っています。

 なんども、言い訳がましく書きますが、これは、私の方法で、色んな人の書き方がある事も知っておく必要があります。

 

 一口メモ 

 

 もう一度『永字八方』を載せておきます。

 一画目の点をそく(1)と言います。
 二画目の始めの横画は、ろく(2)、縦画は、(3)、下のはねは、てき(4)。
 三画目の横画は、さく(5)、左の払いをりゃく(6)。
 そして、右上の四画目の左払いをたく(7)、最後の五画目は右払いたく(8)と言います。
 私の所にある、『はじめての書道楷書』(関根薫園著)には、「」ではなく、「」と言う漢字が使われています。
 
 同じ書籍の中で、「左はね」について、「綽勾しゃっこう」ともいうとの記載があり、てき(4)の変化したもので、縦の線がゆるやかに湾曲した形と書いてあります。ちなみに、「象」など起筆から縦の線に移るまでの長さが長い場合「玉公」という分け方があるようです。
 右はねの場合、「戈法かほう」又は「飛雁ひがん」、あるいは場所によって「心勾しんこう」・「杏仁きょうにん」・「彎笋わんじゅん」・「乙勾いっこう」・「浮鵞ふが」など色々な呼称があったようです。

 

【参考文献】
・青山杉雨・村上三島(1976-1978)『入門毎日書道講座1』毎日書道講座刊行委員会.
・高塚竹堂(1967-1982)『書道三体字典』株式会社野ばら社.
・関根薫園(1998)『はじめての書道楷書』株式会社岩崎芸術社.
・江守賢治(1995-2016)『硬筆毛筆書写検定 理論問題のすべて』株師会社日本習字普及協会.