【五輪書から】何を学ぶか? |
この回から、中段、上段、下段及び左右の構えについて、その使い方をかなり具体的に、指導しています。
この方法については、私の考えとは違う部分があるのですが、その人の持っている武才(武術的な才能)が高ければ、可能なのかとも思っています。
ただ、構えよりも、その構えから、相手に対応した後の処理が、流石に武蔵ならではの技術の習得方法ではないかと思っています。
現在の社会の営みでも、PLAN-DO-SEE又はCHECK、そしてAction又はAdjustと言われた行動の仕組み、計画して行動して、反省して、その反省を盛り込んだ上で、行動を起こす。又は、修正する。
武蔵は、この構えに、修正する方法をすでに予期して、これを稽古に取り入れている所だと、思っています。
仕事のやり方も、人それぞれですから、一つのやり方が正しいとは断言できないでしょう。剣術の世界でも、示現流を創始した薩摩藩の東郷藤兵衛重位とは、真逆の方法を、武蔵は、編み出したと言えます。
【人物紹介】東郷藤兵衛重位(1561~1643)
出典|株式会社日立ソリューションズ・クリエイト世界大百科事典 第2版
通称東郷重位の剣の師は京都天寧寺の禅僧善吉和尚といわれる。当時九州地方に広がった丸目蔵人佐(まるめくらんどのすけ)のタイ捨流を学んだ。善吉和尚は神道流系統の天真正自顕流であったが、重位は修練と思索を重ね〈示現流〉とその名を改めた 。「朝に三千、夕に三千、立木を打て」と教え、強靭(きょうじん)な臂力(ひりょく)を養うとともに、打太刀の的確さを会得させ、「一の太刀を疑わず」、生死を断じ、自他を超越し、活殺を一如とすることを要訣(ようけつ)とした。武蔵より21才年上である。
【水之巻】の構成
9. 五つの表の次第の事
10. 表第二の次第の事
11. 表第三の次第の事
12. 表第四の次第の事
13. 表第五の次第の事
14. 有搆無搆の教の事
15. 一拍子の打の事
16. 二のこしの拍子の事
17. 無念無相の打と云事
18. 流水の打と云事
19. 縁のあたりと云事
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20. 石火のあたりと云事
21. 紅葉の打と云事
22. 太刀にかはる身と云事
23. 打とあたると云事
24. 秋猴〔しゅうこう〕の身と云事
25. 漆膠〔しっこう〕の身と云事
26. たけくらべと云事
27. ねばりをかくると云事
28. 身のあたりと云事
29. 三つのうけの事
30. 面〔おもて〕をさすと云事
31. 心〔むね〕をさすと云事
32. 喝咄〔かつとつ〕と云事
33. はりうけと云事
34. 多敵の位の事
35. 打あひの利の事
36. 一つの打と云事
37. 直通〔じきづう〕の位と云事
38. 水之巻 後書
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9. 五つの構えの次第のこと
第一の搆えは、中段の構えである。太刀先きを敵の顔え向け、敵と対峙し、敵の太刀が打ち懸かるとき、右へ太刀を外して押さえ、また敵が打ち懸くるとき、切先きを返して打ち落とす、打ち落したる太刀をそのまま置いて、また敵の打ち懸かるとき、下より敵の手を撥ね退ける。これ第一に大切である。
大体、この五つの構えは、書き付けたものを読むだけでは納得するのは難しい。五つの構えの説明は、手に取つて、太刀の道を稽古するのが一番良い。この五つの構えで、わが太刀の扱い方を知り、どのような敵の打ち懸かる剣筋をも知ることができる。二刀の太刀の搆えは、五つより他にはないと知り、鍛錬すべきである。
『私見』
稽古の仕方としては、よく見かける方法だと思います。相手の攻撃を受けて、続いての攻撃に対応し、その次の攻撃に対して切り返すように反撃に出る。
確かに理論上は理解できますが、私の経験では、いわゆる殺陣のような決め事を繰り返して練習する事は、かえって、臨機応変の対応が出来なくなってしまうと考えています。
空手にも三本組手や五本組手がありますが、攻撃に対しての対応というより、持久力、筋力の鍛錬に効果があると思っています。
確かに、人間は、反復練習によって高度な技を身に付ける事は、器械体操やフィギュアスケート等々、反復練習によって技術を身に付けるスポーツは、数多くあります。それは、相手の居ない場合や、相手と合わせる事が目的ならば、効果は絶大ですが、相手が予測不可能な、動きや反応をする場合は、違った訓練をしなければなりません。
ここで大切な事は、「いかやうにも敵の打つ太刀知るるところなり。」(原文) のところの解釈だと思います。
中段で構えるというと、切っ先の延長線上が、相手の、喉か人中(鼻の下)あたりにくるのでしょう。手元は丁度、臍の前くらいです。
空手でも、左足が前の構えの場合、右手が臍の前、左手が喉の前方、いわゆる正中線上に構える方が、どちらにも手が動きやすく、受けにも、攻撃にもニュートラルで対応しやすくなります。
このような構えで相手の攻撃を、受けたり、捌いたりする事で相手の拳筋を見極める事ができるようになります。
構えはあってないようなものですが、基本の内は、どちらにも動ける体制から練習する方が良いと思います。
【参考文献】
・佐藤正英(2009-2011) 『五輪書』ちくま学芸文庫.
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