「五輪書」から学ぶ Part-5
【地之巻】兵法の道士卒たるもの

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   五輪書から】何を学ぶか?  

 『五輪書』をここまで読まれて、何か釈然としない気持ちになりませんか。 
 普通は、映画や漫画、吉川文学による宮本武蔵像を想像されると思います。
 にもかかわらず、 「五輪書」から学ぶ part-2では、13才に始まって28、29才に至るまでの間に戦った事が記されているにもかかわらず、吉岡一門の名も、佐々木小次郎の名もでてきません。
 もちろん、史実と小説を比べてはいけないのですが、諸説、異聞が多いため、 「五輪書」から学ぶ part-1で紹介しました、菊池寛(菊池賞)と直木三十五(直木賞)との間で、名人か否かの問題が発生したのでしょう。
 それでも、「五輪書」が今でも読まれ続けている理由があるのだと思います。よく、科学では証明できないものが、本物か偽物かを判断する時に、歴史がこれを淘汰し証明すると言われます。やはり、その内容に秀でたものがあるからでしょう。
 今回は、【地之巻】「5.兵法の道士卒たるもの」から学んで見ましょう。

【地之巻】の構成

 1. 序                  
 5. 兵法の道士卒たるもの
 6. 此兵法の書五巻に仕立てる事
 7. 此一流二刀と名付る事
 8. 兵法二つの字の利を知る事
 9. 兵法に武具の利を知ると云事
10. 兵法の拍子の事
11. 地之巻後書
『原文』
5.兵法の道士卒たるもの (原文を下記のルールに従って加筆訂正あり)
 士卒たるものは、大工にして、手づからその道具を研ぎ、いろいろの責め道具を拵へ、大工の箱に入れて持ち、棟梁のいひ付くるところを受け、柱・虹梁をも手斧にて削り、床・棚をも鉋にて削り、透かしもの、彫りものをもして、よく矩を糺し、隅々・馬道までも手際よく仕立つるところ、大工の法なり。大工の業、手にかけてよく仕覚え、墨矩をよく知れば、後、棟梁となるものなり。
 大工の嗜み、よく切るる道具を持ち、すきすきに研ぐこと肝要なり。その道具を取つて、御厨子・書棚、机・卓、または行灯・俎板・鍋の蓋までも達者にするところ、大工の専なり。士卒たる者かくのごとくなり。よくよく吟味あるべし。
 大工の嗜み、否まざること、留めを合はすこと、鉋にてよく削ること、擦り磨かざること、後にひすかざること、肝要なり。
 この道を学ばむと思はば、書き顕すところのひと言ひと言に心を入れて、よく吟味あるべきものなり。

加筆訂正のルール
                 *仮名遣いを歴史的仮名遣いに統一
                 *漢字は現行の字体に統一
                 *宛て漢字、送り仮名、濁点、句読点を付加
                 *改行、段落、「序」「後記」を付けた

 『現代文として要約』

 5.兵法の道士卒たるもの 
 武士とその家来は、大工の世界を見習う必要がある。
 大工でさえ、自分で道具を研き、必要な道具を揃えて専用の箱に入れて、棟梁の指示に従い、造る物に合う道具で、指図どおりの物を、手際よく造る。
 これがうまく出来るようになって、その大工は、棟梁になる。
 この大工の専門の技術を覚えて、棟梁になるさまは、まさに武士とその家来が学ぶべきところである。
 大工の心がけは、常にその道具に不備がないか確認し管理することである。
 兵法の道を学ぼうとする者は、この書き記す事柄を、隅々まで熟読し身に付ける事が大切である。 

 『私見』
 余程、大工の技術の高さと、棟梁になるシステムが、武蔵のいう兵法の道を学ぶシステムと合致したものと思われます。
 確かに当時の建物は、現在の建築技術に勝るとも劣らないと聞いています。
あのスカイツリーでさえ、五重塔の重心の取り方を参考にしているとの情報もあります。如何に、その技術とその継承方法に卓越したものがあったのか、想像できるものと思います。
 大工でさえ、と、士農工商という身分制度上、あえて上からの言葉ではありますが、言いたいことは、今の武士は大工にも劣っている、と言いたいのではないでしょうか。

【参考文献】
 ・佐藤正英(2009-2011)  『五輪書』ちくま学芸文庫.

 
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