「五輪書」から学ぶ Part-4
【地之巻】兵法の道大工にたとへたる事

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   五輪書から】何を学ぶか?  

 5年程前、 日本空手道髓心会のホームページ(朝鍛夕錬)に五輪書について、私見の解釈を掲載しましたが、その時は、技術に関してのみ、読み解きました。今回は、武蔵の人生観を含み、五輪書には多方面に渡っての記述がありますので、つぶさに読み解いて行こうと挑戦しています。
 実は、五輪書や不動智神妙録に関わらず、文章全般が苦手で、元来物語や小説の類は、数えるほどしか読んでいません。それも、人に勧められていやいや読書した覚えがあります。完全に最後まで読み切ったのは、「十五少年漂流記」だけのような記憶があります。姉に勧められ、というより半ば強制的に「大地」(パール・S・バック著)という、とても分厚い本を渡されました。多分2ページで撤退したように思います。これは小学生の時でしたが、大学の時も、友達に、それなら、恋愛小説は読みやすいのでと、贈呈してもらったのですが、目次だけに終わったような気がしています。残念ながら題名も失念してしまいました。
 多分、文字アレルギーという病気があるとしたら、きっと、それですよ。
 小学生の時から、体育と図工だけは、良く出来ていましたが、もうそれはそれは、勉強の嫌いな子供でしたから、本に目を通すと読めない漢字だらけです。当然、1ページも読めば、すっかり熟睡して夢の中です。何せ、高校の時には、わざわざ先生が家まで来て、親に「先生が教室に入る前から、出て行っても、ずっと寝ているので、起きて授業を受けるように」と、言いに来るぐらいですから。
 今でも状況は変わっていませんが、居眠りしながら、「五輪書」を読んでいます。
 今回は、【地之巻】「4.兵法の道大工にたとへたる事」の紹介です。前回の最後にも、大工という職業について書かれていましたが、今回は、より詳細に説明しながら、兵法に通ずる事柄として記述しています。

【地之巻】の構成

 1. 序                  
 4. 兵法の道大工にたとへたる事
 5. 兵法の道士卒たるもの
 6. 此兵法の書五巻に仕立てる事
 7. 此一流二刀と名付る事
 8. 兵法二つの字の利を知る事
 9. 兵法に武具の利を知ると云事
10. 兵法の拍子の事
11. 地之巻後書
『原文』
4.兵法の道大工にたとへたること (原文を下記のルールに従って加筆訂正あり)
 大将は、大工の棟梁として天下の矩を弁へ、その国の矩を糺し、その家の矩を知ること、棟梁の道なり。大工の棟梁は、堂塔・伽藍の墨矩を覚え、宮殿・楼閣の差図を知り、人々を使ひ、家々を取り立つること、大工の棟梁、武家の棟梁もおなじことなり。
 家を建つるに、木配りすること。直にして、節もなく、見つきのよきを表の柱とし、少し節ありとも、直に、強きを裏の柱とし、たとひ少し弱くとも、節なき木の見ざまよきをば、敷居・鴨居・戸・障子と、それぞれに使ひ、節ありとも、歪みたりとも、強き木をば、その家の強み強みを見分て、よく吟味して使ふにおいては、その家久しく、崩れ難し。また、材木の内にしても、節多く、歪みて弱きをば、足代ともなし、後には薪ともなすべきことなり。
 棟梁において、大工を使ふこと、その上・中・下を知り、あるいは床廻り、あるいは戸・障子、あるいは敷居・天井以下それぞれに使ひて、悪しきには根田を張らせ、なほ悪しきには楔を削らせ、人を見分て使へば、そのはかゆきて手際よきものなり。
 はかのゆき、手際よきといふところ、ものごとを許さざること、大用を知ること、気の上・中・下を知ること、勇みを付くるといふこと、無体を知るといふこと、かやうことども、棟梁の心持にあることなり。兵法の利かくのごとし。

加筆訂正のルール
                 *仮名遣いを歴史的仮名遣いに統一
                 *漢字は現行の字体に統一
                 *宛て漢字、送り仮名、濁点、句読点を付加
                 *改行、段落、「序」「後記」を付けた

 『現代文として要約』
 4.兵法の道を大工の道にたとえること
 一家の主人(大将は、足軽大将もいれば、総大将もいますが、ここでは単に武家の主人と意訳しておくことにします)は、天下の決まり事を良く知り、その国の規則が損なわれないよう見守り、自らの家に間違いがないかを知る事が必要です、これは、大工の棟梁が建物の構造や設計図をよく知り、人を使ってこれを完成することと同じである。
 家を建てる場合は、木の選び方使い方に気を配り、一本の木も無駄にせず、その特性を見極めて、床柱から薪として使う木までも、使い分ける目と采配が必要である。
 また、棟梁は大工の適材適所を知り、管理し、働きやすい職場を作り、建物を建てるという、目的を達成するための技術と知識が必要だ。
 これも、また、兵法の利と共通するところである。

 『私見』
 今回も、要約をはるかに超えてしまい、大意とでも言った方が良いかも知れません。それでも、武蔵の言う意図はくみ取れると思いますが、如何でしょうか。
 この項を読むと、現代人、特にビジネスマンが、管理職などをする場合の、要旨が見事に書き表されていると思います。今でも『五輪書』に、根強い人気がある理由を、垣間見る事ができました。
 それにしても、『不動明王像』を彫った人物に相応しい、比喩ではありませんか。

【参考文献】
 ・佐藤正英(2009-2011)  『五輪書』ちくま学芸文庫.

 
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