独行道を読む
【 身ひとつ尓美食をこのま須】

【出典:熊本県立美術館 所蔵品  データベース   独行道】

 【 身ひとつ尓美食をこのま須、『身一つに美食を好まず』と読みます。やはり変体仮名を左のように使われています。

[尓](に) [須](す)

 今回も言葉の上では、難しいとは思えません。読んですぐに、言葉は理解出来ると思います。

 『好まず』と言う意味合いは、『独行道』の内、8ヵ条もあると書きました。この『身一つに美食を好まず』は、『好き好む』中の『食』にあたります。

 武蔵が、どのようにこの言葉を『独行道』の一節に加えたのかを考える事にしましょう。

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『独行道全文』

 

 

獨行道
一 世々の道をそむく事なし
一 身尓たのしみをたくま須
一 よろ爪尓依怙の心奈し
一 身をあさく思世越ふかく思ふ
一 一生の間よく志ん思王須
一 我事尓於ゐて後悔を勢寸
一 善惡尓他を祢多無心奈し
一 いつ連の道尓も王可れを可奈しま寸
一 自他共尓うら三をか古川心奈し
一 連ん本の道思ひ与る古ヽろ奈し
一 物毎尓春起古の無事奈し
一 私宅尓おゐてのそむ心奈し
一 身ひとつ尓美食をこのま須
一 末々代物奈留古き道具所持せ寸
一 王か身尓いたり物い三春る事奈し
一 兵具八各別よの道具多し奈ま寸
一 道尓於ゐて八死をいと王寸思う
一 老身尓財寳所領もちゆる心奈し
一 佛神八貴し佛神越太のま須
一 身越捨ても名利はすて須
一 常尓兵法の道を者奈礼寸
 正保弐年
  五月十二日 新免武藏
          玄信(花押)「二天」(朱文額印)
   寺尾孫之丞殿

 

 この言葉を聞いて、最初に浮かぶのは、「起きて半畳寝て一畳たらふく食っても二合半」が記憶にありますが、これは、記憶の間違いで「起きて半畳寝て一畳」「天下取っても二合半」と言うらしいです。
 記憶というものは不確かなもので、徳川家康の言葉と思っていました。織田信長の言葉らしいですが、他にも、豊臣秀吉、夏目漱石、内田百閒などの説もありますので、誰が言ったのか不明としておきましょう。

 昔は、粗食の事一汁一菜といって、右の写真が正に、一汁一菜です。親戚のおじさんと釣りに行ったとき、お弁当は、日の丸弁当と言って、右の写真のようにご飯の上に梅干し一つが乗せてありました。食べるんだったら、上の写真が良いですね。

 私が小さい頃は、第二次世界大戦が終わって間もなくですから、ほとんどの国民が衣食住とも、貧しい生活をしていました。しかし、今よりも心は豊かだったように思うのは、気のせいかも知れませんし、あるいは、歳を取った証拠かも知れません。

 時々前回の「欲心」が顔を出す時があります。あまり、人の境遇を羨ましく思ったことはないのですが、それでも、あれが欲しい、これが欲しいと思う事もありました。そんなとき、我慢をする分けでは無く、「起きて半畳寝て一畳たらふく食っても二合半」の言葉が自然と頭をよぎります。欲張ってみても、生きていくのは、必要最小限あれば良いのだと、気付かされます。不思議と「欲心」が頭を引っ込めます。

 私は、不動産業をしていた頃は、ちょうどバブルの終焉の頃でしたので、色々な接待を受けたり、またこちらが接待をしたこともありました。ですから、いわゆる美食が当たり前になっていた頃があります。
 ある料亭に夫婦でお呼ばれした時は、一食一人5万円位だったようです。お寿司屋に招かれた時も、やはり一食5万円位だったようです。今考えると、もっとありがたく頂けば良かったと思っています。

 逆に、ある有名な人と昼食を2年間共にした事がありました。まぁ、ボディーガードのようなものです。毎食ご馳走になるのですが、毎回「うどん」です。意外と私は、流されやすいのか、慣れやすいのか、食に対する欲がないのか、十分においしく頂きました。金額的には300円から500円位でした。

 私の人生は、浮き沈みが激しく、昼食はお弁当を作り、ご飯と卵1個で1年間過ごした事もあります。それでも、お腹が一杯になれば、それで満足していました。

 では、今はどんな食事をしているかと言うと、朝、焼き芋を70gr位を食べるだけ、昼は麺類。夜は、普通に食べますが、お米は普通のお茶碗に8分目位を1杯食べます。

 この焼き芋、皮ごと一食分ごとに切り分け、ビストロで何本か焼いておきます。オーブンにして50分程かかりますが、とてもフックラ美味しくなります。残りは、冷凍しておいて食べます。そして朝、冷凍焼き芋をビストロの[こんがり12分]で温めて食べます。

 なぜ、焼き芋かと言うと、腸に良いからです。私にピッタリ合ったのでしょう。小学校の頃から還暦を過ぎても、一ヵ月の間に、まともな便の時が1日か2日あれば良い方でした。
 それが、焼き芋を食べるようになってから、一ヵ月に一度、軟便になるか、ならないかです。もう、本当に快適になりました。
 そして、前は一日に10回はトイレに駆け込んでいましたが、今は、多い時でも2回、普通は1回で済みます。しかも、便秘になることもありません。焼き芋様様です。

 美食は無くても、焼き芋は欠かせません。でも、たまには、豪華な食事も良いのではないですか。バブルのような美食でなくても、一食1500円位までなら、年2回程度は良いのかな、と思っています。

 焼き芋には拘りますが、食事に拘る必要もないと思います。自分の経済状態と、健康のバランスさえ取っていれば。

 【参考文献】 
・佐藤正英(2009-2011)  『五輪書』ちくま学芸文庫.