【五輪書から】何を学ぶか? |
今回のテーマを見ると、刀を踏むと言うのはどういう時にできるのですか。と、質問したくなります。でも、その刀が、太刀ではなく、「剣」と言っている所に答えが隠れているように思います。
兵法でも仕事でも、武蔵が言う拍子やタイミングが、実際行われる事より重要な要素を占める事があります。今回の「けんをふむと云事」でもやはり、そのタイミングが重要なカギになりそうです。
枕をおさゆると云事でも、火の手が上がった瞬間だと、人噴きすれば消える場合も、コップの水で消せる場合もあります。同じ火の手が天井に達するまでに、僅か2~3分です。如何に、消すタイミングが重要であるかが分かります。
正に今行われようとしている、その瞬間に止めようとするのが「枕をおさゆる」事であれば、「けんをふむ」と言うのは、それからほんの少し遅くなっても、まだ、やり方によれば、防ぐ事ができると、言っているのではないでしょうか。
仕事でも、大事になる前に何とか打つ手がある場合に、打つ手を実行に移せる人が、「やりて」と言われます。どんなに良い打つ手、すなわちアイデアがあっても、タイミングを合わせて実行しないと、天井まで上がってしまった炎に、最新の消火器を使っているようなもので、物の役には立ちません。
さて、武蔵は、「けんをふむと云事」で何を伝えたのでしょう。
【火之巻】の構成
1. 火之巻 序
2. 場の次第と云事 3. 三つの先と云事 4. 枕をおさゆると云事 5. 渡を越すと云事 6. 景氣を知ると云事 7. けんをふむと云事 8. くづれを知ると云事 9. 敵になると云事 10. 四手をはなすと云事 11. かげをうごかすと云事 12. 影を抑ゆると云事 13. うつらかすと云事 14. むかづかすると云事 15. おびやかすと云事 |
16. まぶるゝと云事
17. かどにさはると云事 18. うろめかすと云事
19. 三つの聲と云事
20. まぎると云事
21. ひしぐと云事
22. 山海の變りと云事
23. 底をぬくと云事
24. あらたになると云事
25. 鼠頭午首と云事
26. 将卒をしると云事
27. 束をはなすと云事
28. いはをの身と云事
29. 火之巻 後書
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7. けんをふむと云事
剣を踏むと言う気持ちは、兵法の専門用語である。まず、合戦などにおいては、弓や鉄砲で、敵が味方に打ち込むのが止んでから、反撃するので、その間に敵は、弓に矢をかけ、鉄砲に弾を装填するので、同じ事が繰り返されるので追い込む事ができない。
相手が弓や鉄砲でも、敵が攻撃している内に、懸かる気持ちが必要である。攻撃している最中に仕掛ければ、矢もかけ辛く、鉄砲も撃てなくなる。すべては、敵の仕掛ける時に、その時の良い方法を見つけて、敵を踏みつけるようにして、勝つ。
また、一対一の戦いであっても、敵が攻撃した後で仕掛けても、どたんばたんと、単調になり、上手く行かない。敵の打ち出す太刀を、足で踏みつける気持ちで、二度目が打ち出せないようにする事。踏むと言うのは、足に限らず、身体でも踏み、心でも踏む、無論、太刀にても踏みつけて、敵の二の太刀をさせないよう心掛けること。これがすなわち、物事の先の気持ちである。敵と同時に当たる分けではなく、相手の攻撃について瞬時に攻撃すると言う意味である。よく研究すること。
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『私見』
これは、「剣」と「懸」をかけての言葉ではないのかと思います。しかし、ただ「懸の先」とは違うと思っています。あくまでも、相手の攻撃が先にあるという事です。
ここで、 三つの先と云事を復習してみましょう。
あくまでも、相手が先に攻撃を仕掛けているのですから、「待の先」であると推測します。
原文ではなく「私見」で要約したものを見て見ましょう。
(1) 相手が攻撃してきても、相手の動きを見定めて、弱気になったように見せながら、相手が間合いに入るのを見極めて、さっと間合いを外すやいなや、飛び込む気勢を見せ、相手が怯む所を直ぐに攻撃する。
(2) 相手が攻撃するのを見定めて、その攻撃を撥ね退ける勢いで反撃する。これは、こちらの気勢に相手がたじろぐ瞬間に攻撃する事が大切である。
この(2)の撥ね退ける勢いと、「踏と云ハ、足には限るべからず。身にてもふミ、心にても蹈、勿論太刀にてもふミ付て、二の目を敵によくさせざる様に心得べし。」(原文)とを比べてみると、撥ね退ける勢いでは、決して撥ね退ける分けではなく、勢いを表しています。撥ね退けてしまっては、目的(斬る)を達成できません。あくまでも、気持ちです。
「剣を踏む」のも、実際に斬りかかる刀を踏むというのは、現実的ではありませんから、次の攻撃をさせない事に主眼があると思います。どちらも、相手の攻撃に対して怯むことなく、そして躊躇することなく、反撃をする事ではないでしょうか。
「枕をおさえる」では、情報の蓄積と言う事が大事であると言いました。
左の図を見て下さい。何か現実問題として表面に出る前に、「ヒヤリ」とすること、あるいは「はっ」とする事が、必ずあって、その氷山の一角が事故や災害あるいは、重大な事件であるという法則です。この「ヒヤリ・ハット」は、ぼんやりしてると、やり過ごしてしまうような、些細な事です。これを些細な事として捉えるのではなく、これから起こる事を予測できるようになる必要があるのです。
「剣を踏む」のと「待の先」での注意点は、どちらも、相手の攻撃が終わってから行動を起こしていては、遅いと言うことです。これは、「後の先」にも通じる所なので、三者三様の、僅かな時間の誤差を知って、区別して覚え、稽古で体験を積み、自分のものにする必要がありそうです。
【参考文献】
・神子 侃(1963-1977) 『五輪書』徳間書店.
・佐藤正英(2009-2011) 『五輪書』ちくま学芸文庫.
【参考サイト】
・播磨武蔵研究会の宮本武蔵研究プロジェクト・サイト「宮本武蔵」http://www.geocities.jp/themusasi2g/gorin/g00.html
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