【五輪書から】何を学ぶか? |
私は、一時、不動産業をしていた事があります。一件の家を建てるまでに、施主だけではなく、建築業者や役所との交渉をしなければなりません。場合によっては、法律的な解決のため弁護士との交渉もありました。
時には、法務局の職員と議論したり、建設省に出向いて建築基準法の不備について議論を交わした事もありました。
私は常に正攻法で相手との交渉に臨みました。その為には、理論武装を必ずします。ただ、相手によっては、武蔵のようにこちらの精神状態を攪乱しようと、色々な手立てを考え、作戦をたててきます。相手の思うように事が運ぶと、公正な契約を結ぶ事ができなくなります。場合によっては、騙される事にもなりかねません。
兵法と同様の気づかいと判断力がいる事になります。
今回の「むかづかせる」については、相手の心理をどのように誘導するか、その方法の一つが紹介されているといって良いと思います。
いわゆる、戦いの中では、心理作戦は大きな要素です。
私が考える交渉とは、少し違いますが、現実は、利益誘導の交渉と言って良いと思います。
私が考えるのものとは違うと書きましたが、私は、モノづくりに対しては、良いものを作り提供する、という事に徹したいと考えるからです。
ですから、考え方の違う人と交渉する事になるのですから、よく揉め事になりました。公正な結果を生むためには、相手の戦略や戦術に乗る事はできません。相手は利益を得るためや、組織の正当性を固持するために、常軌を逸した事をしてきます。それでも、それに屈していたり、怯んだり、驚いていたり、一々気にしていたら仕事になりません。
常に公正という気持ちに、揺らぎが起こらないようにするのも、結構骨が折れるものです。
体術としての戦いでも、自分の培った信念を貫くためには、相当の覚悟と稽古の裏打ちが必要になります。相手に惑わされないようにしましょう。
【火之巻】の構成
1. 火之巻 序
2. 場の次第と云事 3. 三つの先と云事 4. 枕をおさゆると云事 5. 渡を越すと云事 6. 景氣を知ると云事 7. けんをふむと云事 8. くづれを知ると云事 9. 敵になると云事 10. 四手をはなすと云事 11. かげをうごかすと云事 12. 影を抑ゆると云事 13. うつらかすと云事 14. むかづかすると云事 15. おびやかすと云事 |
16. まぶるゝと云事
17. かどにさはると云事 18. うろめかすと云事
19. 三つの聲と云事
20. まぎると云事
21. ひしぐと云事
22. 山海の變りと云事
23. 底をぬくと云事
24. あらたになると云事
25. 鼠頭午首と云事
26. 将卒をしると云事
27. 束をはなすと云事
28. いはをの身と云事
29. 火之巻 後書
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14. むかづかすると云事
むかづかせると言うのは、どんな時にもある事である。一つは際疾き(きわどき)心、二つ目は、無理な心、三つ目は、思わない心である。よく考えて置かなければならない。
合戦では、むかづかせる事は、大切である。敵が思いもよらない所へ、息苦しくなる位に仕掛けて、敵の心が動揺しているうちに、優勢になり、先に仕掛けて勝つ事ができる。
又、一対一の戦いでも、初めは緩慢に見せ、瞬時に強く懸かり、敵の心が奪われている内に、休む間もなくそのまま勝つ事が大事である。よく研究する必要がある。
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『私見』
「むかづかする」と言う言葉の説明に、「きはどき心」、「むりなる心」、「思はざる心」と三つの心を挙げています。現代の言葉では、「むかづく」と言う言葉は見当たりません。
参考文献の神子侃氏は、原文を「むかつかする」として「心の平衡を失う」と訳され、一方、佐藤正英氏も同様に、原文を「むかつかする」として「動揺させる」と訳されています。しかし、原文を引用させてもらっている「播磨武蔵研究会」では、異本としてその他の写本を掲載されていますが、殆ど「むかづかする」と濁音になっています。
上記から、原文は「むかづかする」と、濁音が正しいのだと思いますが、意味合いについては、私の経験上感じた意訳をしておきたいと思います。
「きはどき」は、「際疾き」という言葉もありますので、気持ちの上では「はっとする」気持ちを表しているのでしょう。「むりなる」というのは、「無理」と漢字を充てますと、「道理に反する」、「思はざる」は、「思いもよらない」気持ちを考える事ができます。
そうすると、参考文献の「心の平衡を失う」も「動揺させる」も腑に落ちます。武蔵が挙げている「きはどき心」、「むりなる心」や「思はざる心」から推測しますと、相手の思いつかない方法で、又は、相手が思いつく前に攻撃する事を「むかづかする」と言っていると考えても差支えないと思います。
要するに、常套手段だけではなく、時折、相手が「はっ」と思うような奇策によって、好機をものに出来るという事だと思います。
武蔵は、「はっ」とさせるのも、「いきどふしくしかけて」と相手が息苦しくなる位の攻撃をする必要を説いています。常に武蔵は、色々な策を巡らし、仕掛けていますが、必ず、その策に溺れることなく、一旦決めた戦術を実行に移す時は、その一撃で相手を斬ることに徹しています。この所を忘れないよう、稽古しなければならないでしょう。「策士策に溺れる」譬えにならないよう、心がけるべきだと思います。
【参考文献】
・神子 侃(1963-1977) 『五輪書』徳間書店.
・佐藤正英(2009-2011) 『五輪書』ちくま学芸文庫.
【参考サイト】
・播磨武蔵研究会の宮本武蔵研究プロジェクト・サイト「宮本武蔵」http://www.geocities.jp/themusasi2g/gorin/g00.html
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