独行道を読む
【兵具八各別よの道具多し奈ま寸】

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【出典:熊本県立美術館 所蔵品  データベース   独行道】

 下世話な言い方をすると、武蔵の商売道具の事です。兵具八各別よの道具多し奈ま寸『兵具は格別よの道具嗜まず』と読んでみます。

[八](は) [多](た) [奈](な) [寸](ず)

 ここでは、『格別「よ」の道具』「よ」が、読む取るうえで、ポイントになります。
 ここでも、参考文献の訳文には、『武具は別であるが、他の道具に心を費やすことはない。』とされています。

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『独行道全文』

 

 

獨行道
一 世々の道をそむく事なし
一 身尓たのしみをたくま須
一 よろ爪尓依怙の心奈し
一 身をあさく思世越ふかく思ふ
一 一生の間よく志ん思王須
一 我事尓於ゐて後悔を勢寸
一 善惡尓他を祢多無心奈し
一 いつ連の道尓も王可れを可奈しま寸
一 自他共尓うら三をか古川心奈し
一 連ん本の道思ひ与る古ヽろ奈し
一 物毎尓春起古の無事奈し
一 私宅尓おゐてのそむ心奈し
一 身ひとつ尓美食をこのま須
一 末々代物奈留古き道具所持せ寸
一 王か身尓いたり物い三春る事奈し
一 兵具八各別よの道具多し奈ま寸
一 道尓於ゐて八死をいと王寸思う
一 老身尓財寳所領もちゆる心奈し
一 佛神八貴し佛神越太のま須
一 身越捨ても名利はすて須
一 常尓兵法の道を者奈礼寸
 正保弐年
  五月十二日 新免武藏
          玄信(花押)「二天」(朱文額印)
   寺尾孫之丞殿

 

 まず、『よ』の部分を墨蹟でみますと、草書なのか変体仮名なのか、判定できません。草書であっても変体仮名であっても、元の楷書体があるはずです。非常に不鮮明で、できれば拡大しても劣化しない物を見たいのですが、『与』、『余』どちらか判断できません。

 そこで、まず意味から合う漢字を選んで見たいと思います。

 『余』を当てた場合は、『兵具は格別余の道具嗜まず』となり、『与』を当てた場合は『兵具は格別与の道具嗜まず』となります。これが変体仮名の場合は、どちらも、『よ』となり、意味は分かりません。

 漢字だとしたら、前者の意味は、『武具はとりわけ多くの道具を持たない、後者の場合は『武具は特別の為に道具を嗜まない』と訳すことができます。ちなみに、「与」は、漢文では、色々の読み方があるようですが、「ため」と読んで見ました。

 どちらも、『武具として必要なものは持つが、必要以外の物は持たない』と言う意味に取れます。前者の場合は、『あれもこれもと色々な武具を集める事は無いと取れますし、後者の場合は、『武具を趣味的に嗜むことはない、と言う事だと思います。

 私は、どちらの意味も、武蔵は考えていたのではないかと、思います。

 武蔵は、武具に対しての造詣も深かったのか、常人が嗜む以上の目を持っていて、武具を選んでいたように思います。

 武蔵が吉岡一門との戦いで使ったとされる刀は、「無銘金重」ではあったものの、金重は、関鍛冶の実質的な祖と言われていますので、名刀であったと思われます。
 ちなみに、無銘とは、刀の茎(なかご)[刀身の柄の中の部分]に銘が彫られていな刀の事を、言います。ただ、見る人が見ると誰の作か分かるそうです。

 また、養子の伊織に贈ったとされる和泉守藤原兼重という武蔵が使ったとされる刀が、戦前まで熊本に存在したそうです。「左右海鼠透鍔」(さゆうなまこすかしつば)と言う、刀の鍔も考案して作ったとされています。左の広告の写真が「左右海鼠透鍔」を鍔に拵えた藤原兼重の模造刀です。

 武蔵が意識しなくても、目が肥えていれば、良い物を選べるのではないでしょうか。
 
 ビジネスマンの世界では、スーツやカバン、靴、文房具などは、武士にとっての武具ではないでしょうか。
 特に趣味として集める必要もありませんが、着るもの、持ち物でその人の価値が現れます。それは、その人の物を見分ける目が、良い物を選択しているからだと思います。
 良い物を選択できるように、良い物を見る習慣を付けて置く必要があると思っています。

 人間性と関係ありませんが、出来る人としての評価は、受ける事ができます。

 ただし、権力者には、この考えは、当てはまりません。なぜなら、評価を受ける必要がなくなりますし、いわゆる、サイコパスでも、成功者になれるのですから。

 【参考文献】 
・佐藤正英(2009-2011)  『五輪書』ちくま学芸文庫.

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