「五輪書」から学ぶ Part-28
【水之巻】流水の打と云事

   【五輪書から】何を学ぶか?  

 「五輪書」の読み方として、ビジネスの世界を引き合いに出し、「私見」として述べる事が多いです。私たちが一番身近にある、戦いの場であると思っています。

 その場で、命を取られる事は無いでしょうが、たった一言で信用を失ってしまい、人生の岐路に立たされたり、相手との競合に負けて、倒産の憂き目にあう事も、よく聞く話です。平成16年の企業倒産は、8,446件だそうです。

 ビジネスマンの世界でも、同じように折角積み重ねてきた信用が、たった一度の言動で、一瞬にして消え去る事も儘あります。

 戦いの「利」は、何も剣術だけの事でも、兵法だけの事ではありません。

 自分自身の蒔いた種で、落ちぶれていくのは仕方がないにしても、思わぬことで躓くのは、不本意ではないでしょうか。

「転ばぬ先の杖」になるような読み方が、「五輪書」にはあるような気がしています。

【水之巻】の構成

 1. 水之巻 序           
18. 流水の打と云事
19. 縁のあたりと云事
20. 石火のあたりと云事
21. 紅葉の打と云事
22. 太刀にかはる身と云事
23. 打とあたると云事
24. 秋猴〔しゅうこう〕の身と云事
25. 漆膠〔しっこう〕の身と云事
26. たけくらべと云事
27. ねばりをかくると云事
28. 身のあたりと云事
29. 三つのうけの事
30. 面〔おもて〕をさすと云事
31. 心〔むね〕をさすと云事
32. 喝咄〔かつとつ〕と云事
33. はりうけと云事
34. 多敵の位の事
35. 打あひの利の事
36. 一つの打と云事
37. 直通〔じきづう〕の位と云事
38. 水之巻 後書
『原文』
18. 流水の打と云事 (原文を下記のルールに従って加筆訂正あり)
 流水の打ちといひて、敵間になりて競り合ふとき、敵速く引かむ、速く外さむ、速く太刀を張り退けむとするとき、われ、身も心も大きになつて、太刀をわが身の後より、いかほどもゆるゆると淀みのあるやうに、大きに、く打つことなり。
 打ち習ひ得ては、たしかに打ちよきものなり。敵の位を見分くること肝要なり。
加筆訂正のルール
                 *仮名遣いを歴史的仮名遣いに統一
                 *漢字は現行の字体に統一
                 *宛て漢字、送り仮名、濁点、句読点を付加
                 *改行、段落、「序」「後記」を付けた
 『現代文として要約』

 18. 流水の打と云事

 流水の打ちと言って、相手との間合いが近くなり競り合う時、相手が速く退き、速く外そうと速く刀を撥ね退こうとする時、自分は身体も心も気丈になって、刀を自分の体の後ろから、如何にもゆっくりと間をおいて、大きく強く打つことである。
 体得すると、確かに打ちやすいものである。敵の様子を見分けることが大切である。

 『私見』

 接近して互いに機を伺っている時に、相手が引いてしまった場合は、慌てずにゆっくりと、しかし、強く攻撃する事が大切であると思います。

 それは、相手が引いたからと言って、慌てると攻撃力が薄くなったり、仮にそれが、相手の作戦だった場合は、相手に乗せられる事になります。

 この辺りは、戦いの駆け引きであり、十分稽古して、相手の動静を見分ける力が必要になります。

 この事は、会議での討論でも同じような事があります。相手が自分の意見を引っ込めた事に乗じて、一気に攻め立てようと、焦ると、反って分が悪くなる場合があります。チャンスと思った時ほど、気を引き締めなければならないと思います。勝ちかけた時にこそ、注意が必要です。

 【参考文献】 
・佐藤正英(2009-2011)  『五輪書』ちくま学芸文庫.