「五輪書」から学ぶ Part-63
【火之巻】 かどにさはると云事

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 【五輪書から】何を学ぶか?  

 「癇(かん)に障る」や「癪(しゃく)に障る」と言う言葉は、聞き覚えがありますが、「かどにさはる」と言うのは、何を意味するのでしょう。
 今回も、言葉に翻弄されそうですが、頑張って、読み解きたいと思います。

 言葉と言うと、ノーベル文学賞を受賞した大江健三郎氏の文章を思い出します。もともと、文学に爪の先ほども興味がないのですが、どこかで、大江健三郎の悪文評価を聞いて、立ち読みですが、読んで見ました。一行目から全く頭に入ってきませんでした。それでも、ノーベル文学賞を受賞するような作家ですから、読む人が読むと理解できるのでしょうね。

 また、プラトンと言う哲学者の名前は聞いたことがありました。で、どんな事を言っているのか、試しに立ち読みしてみました。訳本ですから、仕方のない事なのかも分かりませんが、全く意味不明でした。とても日本語とは思えません。それなりの人が訳しているのですから、少しは理解できても良さそうなものですが、同じく一行目で挫折です。

 そういう類の書物からすると、「五輪書」は、まだ理解可能な範囲で、言葉を並べてくれています。
 
 どうして、偉い人は、難しい言葉を使いたいのでしょうね。やはり、同じように偉い人にしか伝わらないのでしょうか。

 空手や、スポーツの分野でも、専門的な言葉を羅列して書かれると、その言葉を調べるのに時間がかかってしまい、とても読み切れるものではありません。

 そんな人から言わせると、きっと「勉強不足」と一喝されそうですが。

【火之巻】の構成

16. まぶるゝと云事
17. かどにさはると云事
18. うろめかすと云事
19. 三つの聲と云事
20. まぎると云事
21. ひしぐと云事
22. 山海の變りと云事
23. 底をぬくと云事
24. あらたになると云事
25. 鼠頭午首と云事
26. 将卒をしると云事
27. 束をはなすと云事
28. いはをの身と云事
29. 火之巻 後書
  
『原文』
17. かどにさはると云事 (原文は、播磨武蔵研究会の宮本武蔵研究プロジェクト・サイト「宮本武蔵」http://www.geocities.jp/themusasi2g/gorin/g00.htmlを引用した)
角にさはると云ハ、ものごと、強き物をおすに、其まゝ直にはおしこミがたきもの也。
大分の兵法にしても、敵の人数を見て、はり出強き所のかどにあたりて、其利を得べし。
かどのめるに随ひ、惣もミなめる心あり。其める内にも、かど/\に心を付て、勝利を得事、肝要也。一分の兵法にしても、敵の躰のかどにいたミを付、其躰少も弱くなり、くづるゝ躰になりてハ、勝事安きもの也。此事能々吟味して、勝所をわきまゆる事、専也。(1) 
【リンク】(1)は【註解】として、播磨武蔵研究会の宮本武蔵研究プロジェクト・サイト「宮本武蔵」にリンクされています。

 『現代文として要約』

 17. かどにさはると云事

 角にさわると言うのは、通常強いものを押す時、真直ぐには押し込みにくいものである。
 合戦においても、敵の人数を見て、強く勢いのある場所の隅(角)を攻めて、勝てる方法を探る必要がある。
 角が凹むに随い、全体が凹んでいく事がある。その凹んでいる中でも、隅、隅に気持ちを向けて、勝つ事が肝心である。
 一対一の戦いでも、敵の身体の弱い所に傷をつけ、その身体が少しづつ弱くなり、崩れるようになれば、勝つ事は容易い。この事よく研究して、勝つ方法を身に付ける事が重要である。

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 『私見』

 このテーマについても、反論したいと思います。確かに、弱い所弱い所を攻める事は、常套手段である事に違いはないと思っています。

 しかし、現実には、相手の強い所を、真正面から挫いてしまうと、相手は戦意を喪失してしまいます。もちろん、その強い所と、こちらの戦力を天秤にかけなければならない事は、言うまでもありません。体験上、多敵の場合は偶然の出来事かも知れませんが、私はそのようにして、難を逃れた記憶があります。ただし、参考にはしないで下さい。

 今、弱い所と書きましたが、この文章も、間違いやすい言葉使いであると、思います。「角にさわると言うのは、通常強いものを押す時、真直ぐには押し込みにくいものである。」と、主語『角にさわると言うのは』と、述語の関係が成立していないので、誤解を招きます。

 例えば、『角にさわると言うのは』に続いて、『通常強いものを押す時、真直ぐには押し込みにくい『ので、〇〇〇〇をさわる事を言うのようにすると、文章がつながります。そして、その〇〇〇〇に弱い所』を入れて、次のように読み直してみましょう。

 『角にさわると言うのは、通常強いものを押す時、真直ぐには押し込みにくいので、弱い所をさわる事を言う』とすれば、意味が通じると思います。

 もう少し、現代文に直して見ますと、『隅を攻撃すると言う事を説明します。普通強い所を真正面から攻めても、攻略しにくいので、相手の隅、すなわち弱い所を探して、そこから崩していく事を言います。』とすれば、武蔵が言いたい事が、再現できるのではないでしょうか。

 角は尖っている部分と、隅のように凹んでいる部分で成り立っています。どちらも「すみ」と読む場合があり、非常に紛らわしい言葉です。まして、尖っている部分は鋭利なもので強いと、曲解してしまうかも知れません。場合によっては、尖っている部分が力の入れ具合では、一番弱い部分かも知れません。鉛筆の芯が折れるように、また針の先が折れるように。
 
 武蔵は、強いものでも、弱点はある。その弱点を探し出して攻撃するのが良いと言っているように思います。

 断っておきますが、言葉をあれこれ、穿った見方をする知識が、ある訳ではありません。ただ、折角『五輪書』を紹介して、私の経験から読み解けない部分については、今回のように、専門外の外野から、ヤジを飛ばしたくなりました。釈迦に説法だったかも知れません。

 さて、空手の場合には、常に相手の弱点を狙います。相手の弱点とは、急所にあたる場所です。今は、あまり詳しく教える事はありませんが、頭の部分から言うと、頭蓋骨の頂点にある骨の繋ぎ目、いわゆる天倒、目の横の霞(こめかみ)、鼻の下の人中、のどぼとけ(肢中)、鳩尾(水月)、釣鐘(金的・睾丸)などが主要な攻撃部分です。(急所の名称は、小西康裕先生著『空手道入門』を参考にしました。)
 剣術の場合のように、触れれば斬れる武器で攻撃する訳ではないので、一撃必殺(必倒)の為には、必要な攻撃場所を研究した結果と思っています。
 もちろん、武蔵の言うように、急所とは違った、対峙した相手に特化した弱点を見出す事も、勝つためには必要な事だと思います。
★急所:ここに紹介したものは、ごく僅かです。また、名称も色々違った呼び名があります。例えば、天倒は、天道と呼ばれている場合もありますし、天倒の位置も違う場合もあります。肢中の文字も支の十の横画が左に出ていない活字が使われています。(小西康裕(1968版)『空手道入門』愛隆堂.)

 【参考文献】 
・神子 侃(1963-1977) 『五輪書』徳間書店.
・佐藤正英(2009-2011)  『五輪書』ちくま学芸文庫.
・小西康裕(1968版)『空手道入門』愛隆堂.

   【参考サイト】
・播磨武蔵研究会の宮本武蔵研究プロジェクト・サイト「宮本武蔵」http://www.geocities.jp/themusasi2g/gorin/g00.html


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