「五輪書」から学ぶ Part-68
【火之巻】山海の變りと云事

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 【五輪書から】何を学ぶか?  

 山と海から連想するのは、山海の珍味。「五輪書」ですから、ちょっと違いますか。では、「父母の恩は、山よりも高く、海よりも深い」と言う諺の意味でしょうか。それも、違うような気がします。

 これまで武蔵が比喩した事は、現在では理解しにくい事が多いのですが、文章全体を読んでいく内に、徐々に解決していくと思います。

 さて、【火之巻】も後1週間で読み終える事が出来そうです。【風之巻】は、10日程で終わりそうですから、何とか、来月初旬には全てを読破できるのではないでしょうか。

 読書好きの人にとっては、何でもない事かも知れませんが、私にとっては、まるで、難行苦行のように思っています。

 それでも、読み終えた時には、山の頂上を征服したような、爽快感が味わえるのかも知れません。

【火之巻】の構成

22. 山海の變りと云事
23. 底をぬくと云事
24. あらたになると云事
25. 鼠頭午首と云事
26. 将卒をしると云事
27. 束をはなすと云事
28. いはをの身と云事
29. 火之巻 後書
  
『原文』
22. 山海の變りと云事 (原文は、播磨武蔵研究会の宮本武蔵研究プロジェクト・サイト「宮本武蔵」http://www.geocities.jp/themusasi2g/gorin/g00.htmlを引用した)
山海のかはりと云ハ、敵我戦のうちに、同じ事を度々する事、悪敷所也。同じ事、二度ハ是非に及ばず、三度とするにあらず。敵にわざをしかくるに、一度にてもちゐずバ、今一つもせきかけて、其利に及ばずバ、各別かはりたる事を、ぼつとしかけ、夫にもはかゆかずバ、又各別の事をしかくべし。然によつて、敵、山とおもはゞ、海としかけ、海と思はゞ、山としかくる心、兵法の道也。能々吟味有べき事也。(1) 
【リンク】(1)は【註解】として、播磨武蔵研究会の宮本武蔵研究プロジェクト・サイト「宮本武蔵」にリンクされています。

 『現代文として要約』

 22. 山海の變りと云

  山海の変わりと言うのは、戦いの中で、同じ事を度々する事は、間違えている。同じ事を二度は仕方がないが、三度は良くない。
 敵に技を仕掛けるのに、一度で役に立たない時は、もう一度同じことを仕掛けて、成功しない時は、全く違う事を不意に仕掛けて、それでもだめなときは、又、まったく違う事を仕掛ける事。
 だから敵が、山と思えば、海と仕掛け、海と思えば、山と仕掛けるのが兵法の道である。良く熟慮する事。

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 『私見』

 当時の物の譬え方が、すぐには理解できないのですが、「山」と「海」を引き合いに出す事で、全く違った事をする、と言いたいのだと思います。

 李白(唐代の詩人)の詩の一節に「白髪三千丈」とありますが、これも、詩の作り方を知らないと、誇張も甚だしい。と誤解してしまいます。現に私も、そんな誤解をしていた一人です。
 
 何事でも、時代の背景はもとより、その裏に隠された真実に目を向ける習慣は身に付けて置かなければならないと思います。早とちりは、恥であると同時に、誤った知識を身に付けてしまう事になります。自戒を込めて、気を付けなければなりません。

 さて、二度までは、仕方がないが、三度も同じ過ちを犯してはならない、と、武蔵は言っています。
 人間は、意外と愚かなもので、今度は成功するだろうと思ってしまいます。競馬、競輪、パチンコなどの賭け事にのめり込み、ギャンブル依存症なる人が問題になるくらいですから、人間の性(さが)と言えるかも知れません。

 「二度あることは三度ある」と言う諺は、悪い事が起こる戒めですが、「三度目の正直」は、確率の上で成功の可能性を示唆していると思います。さて、どちらを信じれば良いのでしょう。

 戦いの場合はどうでしょうか。なぜ同じ事を繰り返してしまうのか、これも経験上ですが、
1. 違った方法が直ぐには見つからない。
2. 成功する可能性が見える。
3. 勢いに乗ってしまう。
 特に、2番目の「成功する可能性」が見えてしまう事が、止められない大きな要因ではないでしょうか。これは、過信している場合もあれば、諦めきれない場合もあると思います。ギャンブル依存症と、根本は同じものではないでしょうか。

 仕事でもスポーツでも、気持ちを切り替える事が、次の成功へ導いてくれます。
 なかなか、その気持ちの切り替えが難しいのですが、そんな時は、「 山海の變りと云事」を思い出してみるのも良いかと思います。

 武蔵が寺尾孫之允信正に宛てた書簡に「独行道」が伝えられていますが、その中にも、「我事におゐて後悔をせず」という言葉もありますし、私も信条としては「自分の現在のみが未来を作って行く」と思っています。過去の栄光を振り返る事は、精神衛生上楽しみでもあるかも知れませんし、過去の経験を活かして未来に繋げる事は、とても良い事だと思います。しかし、決して過去を変える事はできないのです。

 前にも紹介しましたと思いますが、「幸運の女神には前髪しかない」(レオナルド・ダヴィンチ)の諺のように、チャンスが過ぎた時には、次のチャンスを待ちましょう。気持ちを切り替える事で、次のチャンスが巡って来るかも知れません。

 【参考文献】 
・神子 侃(1963-1977) 『五輪書』徳間書店.
・佐藤正英(2009-2011)  『五輪書』ちくま学芸文庫.

   【参考サイト】
・播磨武蔵研究会の宮本武蔵研究プロジェクト・サイト「宮本武蔵」http://www.geocities.jp/themusasi2g/gorin/g00.html


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