【五輪書から】何を学ぶか? |
掛け声から連想できるのは、運動会の綱引き。祭りの掛け声。そして、「火事だ!」「ドロボー!」「ヤッホー」「助けてー!」と、概ね人から人への緊急の伝達方法が多いですね。それと、人と人の気持ちを繋げる時、あるいは気勢を上げる時なんかに、大声を張り上げます。
声には様々や用途があります。今あげた例の他、驚いた時に奇声をあげる事もあるでしょう。耳打ちする時に声を潜める事もあるでしょう。あるいは、楽しく歌を歌う事もあります。数え上げればキリがないほど、声を使います。人間以外のどの生物よりも、声は人間にとって大事な機能です。それは、やはり、言葉を使うからだと思います。
言葉を使って、書くことも出来ますし、何と言っても話す事ができます。話は、その話す人によって、さまざまな話し方があり、その話し方によって、怪談話になったり、漫才や落語になったりします。声のトーンによって人の心を捉えます。
さて、「三つの聲」とは、どんな声の事を言っているのでしょう。「聲」は最近まで、いや私が生まれた頃ですから、もう昔でしょうか。当用漢字として告示され、「声」に替わりましたので、まったく同じ言葉です。
【火之巻】の構成
19. 三つの聲と云事
20. まぎると云事
21. ひしぐと云事
22. 山海の變りと云事
23. 底をぬくと云事
24. あらたになると云事
25. 鼠頭午首と云事
26. 将卒をしると云事
27. 束をはなすと云事
28. いはをの身と云事
29. 火之巻 後書
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19. 三つの聲と云事
三つの声とは、初中後の声と言って、三つに掛け分ける事である。場面によって声を掛けるという事が大切である。声は、勢いであるから、火事の時も声を掛け、強風や高波にも声を掛け、その勢いを知らせる。
合戦の初めに掛ける声は、特に威圧的な声を掛け、又、戦いの最中では、底から響くような調子で声を掛け、勝った後には、大声で勝ち誇る声を掛ける。これが三つの声である。
又、一対一の戦いにしても、相手を動かすため、打つと見せて、エイと声を掛けてから太刀を打ち出すものである。又、相手を討ってから掛ける声は、勝ちを知らせる声である。これを先後の声と言う。太刀と声を一緒に掛ける事はない。もし、戦いの最中に拍子に乗って掛ける場合の声は、低く掛ける。よく研究して稽古する事。
【広告にカムジャムという物を載せましたが、巻き藁を木にくくり付けるのに使っています。これはとても便利です】
『私見』
剣道の試合を見ていると、ここで言われているような声を発しています。空手の場合は、競技空手であっても、技と同時に「気合」を掛けます。
このあたりは、剣術との違いがあるのかとも思います。
無駄と言うと、語弊がありますが、空手の場合は、声を発する事はありません。確かに、「エイ」と掛ける事がありますが、これは、声ではなく「気合」です。気合と言うのは、呼吸と技を一体化するための方法です。
近頃私は、型をうっても、気合を掛ける事がありません。経験上、気合を掛けると、威力が増すようには感じます。試し割などする場合は、効果があるように思います。確か科学的に数値を計ったと聞いた事がありますが、資料を失念しました。
私が「気合」を掛けない理由は、気合は確かに技と呼吸、そして身体と心を一体化します。しかし、私は一体化して、心も一体化したくはないのです。常に心は俯瞰した状態にしておきたいためです。廻りから見て、迫力は感じないかも知れませんが、意外と心は平静を保つ事ができます。その代わり、巻き藁を突く時、サンドバッグを叩く時に、気合を掛けないで、最大の力を込められるように、稽古しておく必要があります。
おびやかすと云事で体験した事を紹介しましたが、声によって相手が動揺したり、失神してしまう場合もある事を考えると、場面によっては効果的なのかも知れません。
気合と掛け声の違いを、改めて認識しておく必要がありそうです。
【参考文献】
・神子 侃(1963-1977) 『五輪書』徳間書店.
・佐藤正英(2009-2011) 『五輪書』ちくま学芸文庫.
【参考サイト】
・播磨武蔵研究会の宮本武蔵研究プロジェクト・サイト「宮本武蔵」http://www.geocities.jp/themusasi2g/gorin/g00.html
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