【五輪書から】何を学ぶか? |
仕事をしていると、順風満帆に進める時と、自分にとって良い風が吹かない事もあります。いや、そんな時が人生を振り返ってみると、多かったようにも思えます。
いわゆる手詰まりの状態から、いかに脱出するかによって、それからの人生が形作られるように思います。
「窮鼠猫を噛む」という譬えがありますが、ネズミは窮地に追い込まれた時に、たとえ勝てないと判っている相手にも牙を剥きますが、これは生存本能でしょう。ネズミに限った事では無く、命のあるもの全てに共通するものだと思います。もちろん、人間も例外ではありません。
色んな動物が、窮地に立たされた時に、思わぬ行動にでます。例えばスカンクやハリネズミなどが典型的でしょう。
人間の場合でも、窮地に追い込まれている人が取る行動は、予測を超えている事があります。
ここでは、自分も相手も手詰まりの状態を考えて、予めその時にどのように対処すれば良いか、その方法が書かれています。これもただ想像して書かれているとは思えない、臨場感のある仕方が示されています。
【水之巻】の構成
31. 心〔むね〕をさすと云事
32. 喝咄〔かつとつ〕と云事
33. はりうけと云事
34. 多敵の位の事
35. 打あひの利の事
36. 一つの打と云事
37. 直通〔じきづう〕の位と云事
38. 水之巻 後書
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31 心〔むね〕をさすと云事
胸を刺すと言うのは、戦いの場で、上が狭く、脇も狭い所で、斬り難いときは、敵を突くこと。敵の太刀を外すためには、自分の太刀の棟(背の部分)を真直ぐに相手に見せて、太刀先が歪まないよう引いて、敵の胸を突くことである。もし、自分が疲労した時、または、刀が切れなくなった時には、もっぱらこの方法を用いる。よく使い分けること。
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『私見』
突き方を、「わが太刀の棟を直ぐに敵に見せて、太刀先き歪まざるやうに引きとりて」(原文)と、突く時に相手に隙を見せないよう、また相手に攻撃をされないようにして、最短距離で突ける方法であると思います。稽古次第では、極意になるような技であると思います。
相手も容易に手出しできず、かと言って、自分も手詰まりな状態は、色々な場面で経験する事があると思います。そんな時に、刀は斬るものと言う拘りを捨て、突くと言う方法を身に付けておくことは、大切な事だと思います。
剣道の突きと言うと、丁度中学三年生の終わりに、次に入学予定の高校の剣道部で、大きな事故があったと聞きました。
竹刀で相手に突きを出した、その竹刀の先皮と呼ばれる部分が取れて、相手の面金の物見と言う部分に、バラバラになった竹が突き入ったらしいです。
結果としてどの程度の負傷を負ったかは知りませんが、道具の手入れを怠ったためと聞きました。
道場を始めた頃、近くの警察で剣道を教えていた団体と、柳生の里に合宿に行きました。その時に、指導者(警察官)から、相手が多人数の時は、突きが一番有効だという話を聞きました。この話は、まさに実戦で、相手は犯人だったそうです。しかも、その突きは、僅かに20cm~30cm相手に対して、真直ぐに動かし、直ぐに元に戻すのが良い、との事でした。試合で見るような、遠い間合いから飛び込むのではなく、相手が入ってくるのに合わせるという事です。
この突きは、突きが主体の空手でも、大いに参考になると思います。通常は待ち突きと言いますが、空手の場合は、前の手で順突きをする場合と、後ろの手で逆突きをする場合があります。もちろん、タイミングが大きな要素になりますが、突き方についても、参考に出来るのではないでしょうか。
ただし、刀で胸(心臓)を狙うほど、一撃必殺でなければならない状態と言えますから、空手の場合でも、その一撃が相手を制するほどの威力が無ければなりません。とても、競技空手や道場での稽古で再現することは、出来ないと思います。
その一撃は、急所、特に、喉や人中、眼、鳩尾(みぞおち)、金的など、相手が反撃ができないような攻撃をする必要があります。喉輪(のどわ)なども有効な技になると思いますが、貫手や平拳などの部位の鍛錬が必要になります。
【参考文献】
・佐藤正英(2009-2011) 『五輪書』ちくま学芸文庫.
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