「五輪書」から学ぶ Part-43
【水之巻】はりうけと云事

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   五輪書から】何を学ぶか?  

 現在の世界でも、今の生活を変える事の難しさは、皆が共通して持っていることだと思います。
 原子力を頼らないと思っても、なかなか実現は難しいのが現状です。今の便利な生活を捨てる事は、容易ではありません。人間は自分の身にまじかに迫らないと、変えようとしません。現状を維持する事が果たして良い事なのかを考えて見る事も必要なことではないでしょうか。

 少なくとも、戦いの中で膠着状態を脱するためには、変化が有効な手段です。戦いの場でなぜ膠着状態を抜けなければならないかと、考えると、それは人間のエネルギーは有限だからです。簡単に言えば、どんなに体力があっても、持久力には限りがあるという事です。

 現在の社会情勢も、次の世代に先送りする事では、決着のつかない事が山積みではないでしょうか。

 昔は「ほしがりません。勝つまでは」と、戦後生まれの私でもそんな気持ちを持っていました。今は、勝っても、負けても、自己主張が過ぎている気がします。全く関係のない「はりうけ」から飛躍しすぎているかも知れません。

 現状が果たして我々人間にとって、良いのかどうか、立ち止まって考えてみても良いと思います。

【水之巻】の構成

 1. 水之巻 序           
33. はりうけと云事
34. 多敵の位の事
35. 打あひの利の事
36. 一つの打と云事
37. 直通〔じきづう〕の位と云事
38. 水之巻 後書
『原文』
33 はりうけと云事 (原文を下記のルールに従って加筆訂正あり)
 張りうけといふは、敵と打ち合ふとき、とたんとたんといふ拍子になるに、敵の打つところをわれ太刀にて張り合はせ、打つなり。
 張り合はする心は、さのみきつく張るにあらず、また受くるにあらず。敵の打つ太刀に応じて打つ太刀をはりて、張るより速く敵を打つことなり。張るにて先を取り、打つにて先を取るところ、肝要なり。張る拍子よく合へば、敵なにと強く打ちても、少し張る心あれば、太刀さきの落ることにあらず。よく習ひ得て吟味あるべし。
加筆訂正のルール
                 *仮名遣いを歴史的仮名遣いに統一
                 *漢字は現行の字体に統一
                 *宛て漢字、送り仮名、濁点、句読点を付加
                 *改行、段落、「序」「後記」を付けた
 『現代文として要約』

 33 はりうけと云事

張り受けとは、敵と打ち合うとき、とたんとたんと言う拍子になった時、敵の打つ刀を自分の刀で張り合わせて打つ。
 張り合わせる時の気持ちは、強く張らない、また受けも同じである。敵の打つ強さに応じて張り、張る事より速く敵を打つことである。張る事で先手を取り、打つ事で先手をとるところが肝心である。この張る拍子がよく合えば、敵がどんなに強く打って来ても、少し張る気持ちがあれば、切っ先が下がることはない。よく習って考えること。

 『私見』

 とたんとたん、又は、どたんどたんと言う現代訳が多いですが、どういう状態かと言うと、攻守が単調になることだと考えています。

 この時、相手が斬って来るのを、ただ受けるのではなく、相手の剣を僅かに弾くというのが、「はりうけ」の目的だと思います。この事によって、単調な攻守も、一瞬、力の方向が変わります。刀の場合は持つ手の加減と方向が、斬る方向とは違った状態になるという事です。

 「はりうけ」とは、とたんとたんと言ったリズムを壊す手段です。武蔵の「勝つ利」には、「絶対に勝つ」と言う意思を感じます。

 この「はりうけ」の場合も、ただ相手の剣を叩き落す事が目的ではなく、相手を斬る事を目的にした、弾くと言った対処の仕方に現れています。しかも、その弾き方は、次の斬る事を目的にしていますから、斬るための流れをつくるために、弾いています。相手の力の強さに合わせて僅かに弾いている所に、コツがあると思います。

 空手は、受けが攻撃になっている場合が多いのですが、それでも、流したり捌いたりする時もあります。そんなとき、もし手詰まりで膠着状態を感じたら、弾くという事も視野に入れて練習してみてはどうでしょうか。

 戦いと言うのは、なかなか今の状況から違った方向に変える事が難しいと思います。理由は、変化について行けるかいけないか、不安な要素を想定してしまうからでしょう。
 戦いの最中の膠着状態に安心感を持ってしまう事があります。それは、膠着状態から脱した状態が想像できないからです。

 しかし、武蔵は、その膠着状態から脱する事を「勝つ利」に結びつけています。この「はりうけ」以外でも、常に行き詰った状態を考えて、それから脱出する方法を考えるのではなく、行き詰った状態をチャンスに変えるような稽古方法を示しています。

 【参考文献】 

・佐藤正英(2009-2011)  『五輪書』ちくま学芸文庫.


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